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《Trip13ー⑥》

此度も御読み頂き有り難う御座います。


僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。






「てめぇ………どれだけ待たせやがるっ!」



 何時もと変わらん『夜霧亭』に、何時もとちゃう怒声が響き渡る。



 そない怒らんでも………


 ちょっと仕事終わりに、何時も通りに風呂に行っとっただけやん。


「そもそも人を待たして、風呂に行くのが非常識だろが?」


 知らんやん。


 そもそも人の一日のルーティンに勝手に割り込んできたんやから、都合のええタイミングまでそっちが待つんが当たり前やろ。

 慌てる話や無いって言うたんは、『騎士』フェルナルドはんの方やし。


 一応礼儀で風呂にも誘たけど、断わってきおったんはそっちやんかいさ。

 それに、それだけ人ん金で呑んどったら文句言われる筋合いはねぇわな。


 確かに、ここで待っとってって言うたし、好きに呑んどってええよと言うたけどよぉ。

 そないにジョッキをパカパカ空けんでもええんやない?

 ………やっぱりマッチョは膀胱がデカいんやろか?


 そないな偏見に満ちた事を考えとると、呑みきったジョッキをドンと置いた美丈夫がこちらを睨んで来おった。


「………そろそろ本題に移るぞ。」


 居住まいを正すイケメンマッチョを見て、こっちも構える。

 さて、何を言われるんやろ?




「てめぇ、何してやがんだ。」


 はぁ?


「あれだけ言ったにも関わらず、『赤龍団』ん所に行きやがったな。」

「………………何で知っとん?」

「他所の関係部署から苦情が来てやがんだよっ!」


 おやおや。

 情報が早いねぇ。


 って事は、アソコは見張られとるちゅぅ事か。

 根城まで手が回っとるんなら………いよいよ待った無しやねぇ。


「あそこは薬物関係で睨まれてるから、関わるんじゃねぇって言ったよなぁ!」


 んな事言われても、はいそうですかと従う理由もあらへんし。

 こっちにも事情が有るんやさかい、逐一聞いてられへんわ。


「てめぇがどうなろうと知りゃしねぇが、何かしやがる度に俺ん所に苦情が来て、心底鬱陶しいんだよっ!」


 知らんがな。

 なんで俺が何かヤラカシたら、フェルナルドはん所にクレームが行くねん。


「こっちが聞きてぇよっ!」


 かなり不貞腐れた様子で、ジョッキを掴むと一気に呷り、すかさずおかわりを頼みおる。


 何かを察して、傍で控えとったミアが恐ろしい………


「この前の誤認逮捕が響いてるのか何だか知らねぇが、てめぇに直接関わるのを、みんな意図的に避けてやがる。その皺寄せが、なぜだか全部俺ん所に来やがって………己等で言やぁいいものをよぉ。」


 なるほど………


 心に疚しい事が有るさかい、直接俺ん所によぉ来んって事かいな。


 ほんま、それこそ知らんがなって感じやな。

 こっちが悪いんやなし。

 そっちの組織のいらん事情まで、こっちが斟酌したる必要はないやろ。



「………で?てめぇはどう動きやがるんだ?」


 新しいジョッキに口を付けながら、美丈夫(イケメンマッチョ)が問い掛けてきおる。


「………さぁなぁ。正直色々と考え中やわ。」


 ストレート過ぎる質問に、こっちも馬鹿正直に心情を吐露したら、それに驚いたんか、鳩が豆鉄砲喰らったかの様な面をした後、いやらしくニヤリと笑いおった。


「なんだぁ?てめぇらしくねぇじゃねぇか。」

「傍からどないに見えとんのか知らんけどね。興味もないし。」


 そない言いながら肩を竦める。


「やが………俺でどないか出来る話やったら、救えるもんは救いたいと思とるけどね。」


 俺は真っ直ぐ美丈夫の目を見詰める。


 話す時は目ぇ見ぃってよう言われたけど、ほんまにそうやと思う。

 気持ちを伝えたいんやったら、ちゃんと目ぇ見て話さなあかんってのが持論や。

 せやさかい、気持ちを目に込めるつもりでフェルナルドはんの青い瞳を見詰めた。

 俺の誠意を伝えるつもりで。



「はっ………御大層な事ったな。神の身ならぬただの酔っぱらいが、何処までできると思っていやがるんだ?」


 心底呆れた様な声音やが、そこには余り棘を感じんかった。


 この美丈夫も、叩き上げの苦労人やと聞いとる。

 所詮想像しかでけんが、さぞかし砂を噛む様な思いもしてきたんやろう。

 そないな辛い経験からの言葉やろうが、やから言うて引けん事もあるんよ。


「全部を救えるなんぞ、そないに思いが上がっとりゃせんよ。ただ………目の届く範囲のもんぐらいを救いたいと足掻く事が、そないに悪い事やとは思えんだけやがな。あかんか?」


 逆に問い掛ける形になったけど、否定の言葉は返ってこん。



「………辛いだけの生き方しやがって………」


 それは誰に言うとんのやろう………

 俺にゃ己に対しても苦笑しとる様に見えんのやが。


「それはフェルナルドはんも同じやろ?」


 求めた同意に応えもせんと、干したジョッキを今度は静かに置いた。

 近付くミアに断りを入れると、幾ばくかの硬貨を投げて寄こしおった。


 ………なんや、奢る言うとんのに。

 律儀なやっちゃな。



「それが毎度上手く行くとは思えねぇが………まぁ見物させて貰うよ。」


 席を立って出口に向かう前に、暫し思い悩む様な素振りを見せると、吹っ切れたかの様に口を開いた。


「連中を追い掛けてる連中が、近日中に踏み込む算段をしてやがった。それまでには答えを出すんだろうな?」

「………ええんか?そないな事を教えて。」


 思いっきり捜査情報、機密事項やろうに。


「さぁな………どうせそれ位の事、てめぇらなら見当を付けやがるだろうしな。それに………俺にぐたぐた言って来やがった連中に、良い嫌がらせができるだろうが。」


 けけけと底意地の悪い笑いをする美丈夫は、年相応の若もんの姿に見えた。

 何時も厳しい顔しとるさかい、そこそこの歳に見えるんやが。


 まぁそれを差っ引いても、教えたぁあかんもんはあかんやろ。

 その辺りの恩は、いずれは返さなあかんやろなぁ。



「すまんね。また呑もうや。」


 後ろ姿に声を掛けると、心底嫌そうな顔で振り返り、けっと声を上げるとそのまま出て行った。




「で?これからどう動くんだい?」


 ツンデレやなぁ………とか考えとったら、横合いからトマスが移って来おった。


 さて………ほんまにどないする?

 手の中の硬貨をちゃかちゃかとやりながら、考えを纏めようとしてみる。


 ベルグ・ノスフェラトスの娘、ローザは助け出したらなあかん。

 それだけは決まっとるんやが………やっぱりそれが正解なんかが解らへん。

 解らへんさかい、最初の一歩が踏み出されへん。


 そこそこええ大人のやらかした事を、年寄りが首突っ込んで、あーやこーや手取り足取りしたんのが正解なんか?

 なんかちゃう気がすんねん。


 やけど、友達の願いは聞いてやりたい。

 男親の気持ちは解かるたぁよぉ言わんけど、それでも切ない思いは解らんでもない。

 俺にも娘が居ったら、もっと狼狽えとったかも知れん………



 ああぁっ!


 なんか腹立ってきたっ!


 こないにぐぢぐぢ悩むんは、俺の性に合わんわ。

 呑んで管巻いとる位やったら、いっそ盤面をひっくり返したろか。


 そないに腹括ると、酒を呑み干して立ち上がった。



「………トマスぅ。ちょっと今から出掛けて来るわぁ。」

「出掛けるって………………まさか今から乗り込む気かい?」


 俺の言葉と行動に、トマスが目を見開きおる。


 驚かれるんもしゃぁ無いが、意外とこの方が俺らしいかも知れん。

 考えとってもしゃぁないんやったら、取り敢えず突っ込んでみるんもありやろ。



「頼むでぇ………他の連中にゃ口が裂けても伝えんといてや………言うとくけどフリちゃうさかいな。今回は電撃作戦やさかい。人が多いと逆に足手まといやわ。」

「だからって、一人で乗り込まなくたって………」


 向こう見ずともとれる行動に、トマスが顔を顰めてぶつくさと言うとるが、硬貨をちゃかちゃか鳴らして気楽に答える。



「それは大丈夫や。多分やがね………」



 そない答えながら掌を広げて硬貨を見る。



 ………………足らんがな。






ーーー《sideーB》ーーーーーーーーーー






 ばぁんっっっ!


「話があります。」



 女の腰を抱きながら酒を飲んでいた俺のテーブルを、赤い髪の女が叩きながら詰め寄ってきた。

 こんな事をする女は知れている。

 ローザだ。


 ローザを見た隣の女は、白けた顔をすると鼻を鳴らして立ち去って行く。

 ………まったく、無粋な女だ。


 だが、今はまだ丁重に相手にしなければならない。

 クソ面倒くさいが。



「おぉ、これはこれは我らが『コンレスピーネ』。如何なされたのかな?」

「巫山戯ないで。私に黙って、何をこそこそとしているのかを話して。」


 何をカリカリしているのか?

 最近はこちらに寄り付こうともしていなかったが………

 誰かに入れ知恵でもされたか?



「さて?何も隠し事は無いですが………」


 だが、俺のやる事は惚けて隠し通す事だけ。

 俺の善人顔に掛かれば、どんな事でも騙し通せるさ。


 だが、今夜は簡単には済まない様だ。


「あの男は………父とは違って外道に手を汚していると言ったわ。」


 あの男とは、この前乗り込んできたジジイの事だろう。

 んな事を言っていた気もするが、一々覚えてもいねぇ。


「………………その男の思い違いでしょう?」

「これでも隠そうとするのかしら?」


 惚けながら酒を呑もうとした手元に、見覚えのある赤い包み紙を放り投げられる。

 それに反応して視線を合わせた俺に対し、ローザは睨み殺さん勢いで見下してくる。


「こんな薬を取り扱うなんて、確かに外道呼ばわりされても仕方ないわね………申し開きはあるかしら?」



 ………………………はぁ。


 面倒くさい事になったなぁ………

 いずれ知れる事だろうが、今では無いと思っていたのだが………


「………何処の馬鹿が口を割リやがったのか……………………」


 そう言いながら辺りを見渡すと、あからさまに挙動が可怪しくなる奴らがいる。

 俺が片手を上げ指図すると、回りの奴らがそいつを締め上げる。


「やめなさいっ!」

「それはできませんなぁ………仲間を売る様な奴は、それ相応の裁きが必要だろうが。」


 それなりに抵抗している様だが、数の暴力に抗える筈もなく、別室に引き立てられて行く。


 あいつ等には、薬(商品)に手を出している疑いがあったな………


 薬物中毒者がどうにも行かなくなって、馬鹿なりに考えてローザに口を割ったって処だろう。

 そんな事をしても、何も変わりはしないのに、馬鹿な奴らだ。

 救われる訳でも無いのに。



「………まぁ、あの馬鹿どもは後で処分するとして………」


 馬鹿を見ていても仕方がないので、現実(ローザ)を見ながら嘲る様に問い掛ける。


「で?………この現実を目にして、お前は何をどうだと言うんだ?」

「わ………私は許しません。この様な非道に手を染める事など。」


 馬鹿な女だ。

 まだ夢を見ている。

 それが、俺が見せているだけの紛いもんだとも気付かずにに。

 そんな馬鹿が、俺を許さないだと………



 「はっ………今更おまえの許しなどと………随分と笑わせてくれるじゃねぇか。」


 溜まっていた鬱屈が、限界が来たんで吐き出してやる。

 こんな小娘に、散々好き勝手にさせてきてやったのだから。


「事此処に至って、今更お前に取り繕っても仕方がねぇだろう………あぁ、御覧の通りさ。この薬を俺達が広めている………だからどうだと言うんだ?」


 開き直った俺に、ローザは何も言えない。

 だから馬鹿だと言うのだ。

 自分の足元が見えていない。

 何も持っていない事に気付いていない。


「色々と都合が良かったから、それなりにお前の我儘にも付き合ってきてやったが………もうその必要も無えだろう。」


 呑み干したグラスを放り投げると、そう言って立ち上がり、ローザに向かってゆっくりと歩いて行く。

 肉食獣が得物を甚振る様に………



「ああ、正直に言ってやろう。お前は都合の良い手駒だったよ。ノスフェラトスに対して、実に有効な矢面(やおもて)だった………だがな………あのジジイに対しては、それほど効果も無さそうだしなぁ………もうそろそろ用無しだなぁ?」


 折角あちらこちらに手配して、色々と金も使ってきた。

 この女を取り込める様に………

 それ程に、この女には使い道が有ったんだがなぁ。



「お疲れさん。お前の役目はここで終わりだ………あぁ、安心しな。俺達の守り神の『コンレスピーネ』だからな。殺したりはしねぇよ………今はな。だが、最後の役目だけは果たして貰うぞ。」


 そう告げると、俺の視線の意味を察した連中が、ローザを取り押さえに掛かる。 


「なっ、何を。離しなさいっ!」


 事ここに至っても、言えば何とかなると本気で信じているのか、己の優位性を疑いもせず、命令口調で言いやがる。

 本当に世間知らずの女だ。


「はっ、聞けませんなぁ………折角の機会なので、俺達の商品(薬)をしっかりと味見して頂かないと………………なぁに、すぐに何も考えられなくなりますよ。今までの事も、辛い事も何もかもね………」


 馬鹿さ加減に笑えてきた。

 惨めに震えてる姿というのは、本当に惨めったらしくて笑えてくる。

 惨めな人間ほど笑えるものは無い。



「貴方には、我々の罪を一身に背負って頂きます………本望でしょう?我らの『コンレスピーネ』なのですから。」


 堪えきれずに笑ってしまう。

 腹の底から………


 一頻り笑ってから、薬の包みを解き、ローザの口元に持って行く。


 近いうちに手入れが有るだろう。

 その時には、全ての責任をこの女に背負ってもらう。

 その為にも、口も聞けない位の薬物中毒者になって貰わねば。

 俺は笑いながら、ローザの顎を掴んで口を開けさせた。



「ぐぁっ!」


 薬を持っていた手に、衝撃と共に激痛が走り、飲ませようとしていた薬が吹っ飛ばされた。

 激痛に耐えながら辺りを見渡すが、原因となった木の棒以外の姿が見えない。



「………おぉ~、ええタイミングやったかのぉ。」


 間の抜けた声が上がると、ホールの人間全てが入り口の方を見て、そして人混みが割けて通路が出来上がった。


 そこには、見覚えのあるジジイが舐めた態度で笑みを浮かべ、一人佇んでいた。


「………ジジイっ!」

「じじいや無いやろが。」


 巫山戯た態度のジジイが笑う。



「………正義の味方の登場や。」






《See you next trip》

如何でしたでしょうか。


次作も粉骨砕身務めますれば、

感想等を頂けたら望外の喜びです。 

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