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《Trip13ー⑤》

此度も御読み頂き有り難う御座います。


暫く途絶えて、申し訳ありません。


僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。






ーーー《sideーB》ーーーーーーーーーー




「大丈夫かぁっ!しっかりしろ!」



 ………まったく、魔鼠の巣をつついた様な大騒ぎだ。


 ただ一人の怪我人を………あれだけガタガタと騒いだ割には、たった一人だけで済んだ怪我人を仲間達が介抱している。

 ぼろい店とはいえ、床板を破る程の衝撃を後頭部に受けたからには、意識を取り戻しても使い物にはならないだろう。

 本当に訳にたたない奴らだ。



「ザック!どーすんだよっ!」

「………少し黙ってろ。」


 俺に縋って来るしかできない、頭を使わない連中を睨みを効かせて黙らせると、グラスを傾け酒を煽る。

 少しは少ない脳味噌で考えろとは思うが、出来もしない事を望んでも無駄だろう。

 ただの手駒に多くを望むべきではない。

 無駄な事は好ましくないのだから。


 そんな事を考えながら、誰も居ない階段の方を見るともなくみる。



 さて、どうしたものか………



  あの女………ローザの今後の取り扱いについて考える。


 あの男が乗り込んで来た理由は、会話の内容からローザだと知れている。

 ラルクの所を潰しやがったあの野郎が、まさか絡んで来るとは予想外。

 何処にでも首を突っ込んで来る野郎だ。


 だが奴のあの捨て台詞からは、その内また来やがるのは間違い無いだろう。

 まぁ、あの野郎が関わって来たからと言って、俺達をどうこう出来るとは思わないが。


 俺達には御貴族様が付いているのだから。


 だから思いはしないが………煩わし事には変わりはないし、万が一を考えれば関わりたくもない。

 用心を怠った者から消えてゆくが世の常なのだから。



 そろそろ切るか……。


 巨大組織の頭目の一人娘というのは、こちらの身を守る人質としては最適だった。

 あの恐ろしいノスフェラトスの連中ですら、あの女を気遣って強くは言ってきやがらない。

 バカ女一人、適当に祭り上げておけば、やりたい放題の免罪符を手にできるのだ。

 こんなに美味しい話はない。


 だが………効果が落ちてきていると考えねばなるまい。


 父親の知人と名乗って乗り込んできたアイツは、組織を壊滅させる事にも躊躇しないだろう。


 ならば、あの女の効力も薄れてきたと考える方が自然だろう。


 そろそろ切り時か………?


 今まで散々言いたい事を言わせて、可能な限り受け入れてきてやったが、利用価値がないのなら甘い顔をしてやる必要もない。

 他の連中からの不満も随分と溜まっているし。



 だが………


 このまま切り捨てるのでは芸がない。

 ここまで飼ってきた鶏は、卵を産まなくなったら潰して喰っちまうべきだ。


 ………なら、折角なので全ての責めを背負って貰おうじゃないか。

 原初の罪を背負う神の様に………


 そこまで思い至ると笑いが込み上げてきた。

 そうだ………それが良い………



 彼女は我らが女神………『コンレスピーネ』なのだから………






「………………これが噂の薬ですか………」


 対面に座る麗しき先生の紅茶の横に1つの包みを置くと、それが何であるかを直ぐ様に看破された。


 私が出した紅茶をもう一口を含むと、改めて包みを一瞥すると、目の高さまで持って行き、まじまじと見つめて行かれる。

 その瞳が薄暗く光を放ち、魔術の心得がある者ならば、瞳の中に円環紋様(サークル)が浮かんでいる事に気付くだろう。


 これが、彼女だけが持つ力の一端だとは知る者は少ない。

 それは混乱を招く物だからだ。



「………………なるほどね。」


 怪しい光が瞳から消え去った時、彼女の唇から溜息混じりに言葉が零れ落ちた。

 即ち、この薬の解析が終わった事を意味する。


「これは、私の子供………………では無いわね。」


 彼女が生み出した非合法な薬の種類は数知れない。

 この国に出回っている薬の大半は彼女が作り出した物であり、世界中に溢れるものの大半は、彼女が産み出した物の系列となっている。


「ただ………見覚えはあるわね。玄孫ぐらいかしら?出来は悪そうだけど………」


 ということは、彼女が過去に作り出した薬の粗悪な模倣品であるという事か。


「出来は悪いけど………努力の跡は見られるわね。」

「………どういう事でしょう?」


 彼女に解答を求める声が掠れてしまう。


 これは、近頃国内で急速に広がりつつある薬物である。


 無論、昔からこれに類似した薬は出回っていたが、ここまで爆発的に広がった事例が無く、今では一般市民にまで中毒者が出てきている。

 この様な物がこのまま出回れば、国力は低下し、被害者は増えるばかりだ。

 この手の薬物は、早急に芽を潰さなければならない。


 故に、先生に御助力を乞うたのだ。


「まぁこれ位、保護してもらっているし、手を貸すのも吝かではないけどね。」


 そう言って、彼女は包みを此方に放り投げた。

 私の紅茶の横で止まったそれを指差し、先生の講義が始まった。



「一般的な物と比べると中毒性が高められているわね………摂取時の多幸感と、その後に訪れる倦怠感は正常な思考能力を奪って、依存度を高めるという鬼畜な仕様。その上で禁断症状も酷く、薬を止めるという選択肢は取れないでしょうね………死んだ方がましに思えるでしょうし。」


 そう言い放つと、麗しき先生は溜め息を1つ吐かれる。

 その仕草の一つ一つが女性らしい。


「元々、この手の薬とは『緩やかな荒廃』に向うものだけれども、これの目標は『速やかな破滅』ね。こんな物で利益を得続けれるとは思えないし………目的は別にありそうね。」


 薄い笑みを浮かべた唇には、何か他に含みが有りそうだ


 つまり………この薬を蔓延させて、収益を得続ける事を目的としていないのならば………………


 背を伝う汗が気持ちが悪い。

 先生は、これは侵略戦争だと言いたいのだろう。


 だが、そう考えれば納得がいく。

 今はまだ信じたくはないが………


「………………貴方は、非情なふりをするのに、それに徹しきれていない………………貴方の務めは、組織の中で一番冷静に物事を判断する事ではないかしら?」


 確かに………薬を足掛かりにした侵略など、歴史の中に履いて捨てるほどあるのではあるが………


 余りに非人道過ぎて、今更その様な愚策が用いられるとは………


「人間なんて………………特に支配階級の連中なんて………………欲に塗れた獣が、理性の皮を被って取り繕っているだけだもの。」


 陰りを帯びた皮肉げな笑みには、いかなる過去があるのだろう。


 この街は種族に対する差別はほぼ無いが、地域によっては根強く残っているという。

 それに加えて、性別的な事も加味して、彼女がどれほどの辛酸を舐めてきたのか。

 私には想像だに出来はしないが、迫害される立場としては生涯忘れる事ができないだろう。


 その様な事を考えていると、此方の思いに気がついたのか、彼女は優しく微笑んだ。

 それが、私は大丈夫よと言わんばかりで、余計に悲しくなった。



「原料となっている物の幾つかは、この辺りで採れる物ではないわね………………主に西の方かしら。」


 話題を変えようとされたのか、原料の生成地の候補を挙げられ、私はそれ処ではなくなり、静かに息を呑む。

 国際情勢を考えると………きな臭い帝国の現状を考えれば、とても笑って聞ける話ではない。

 それに………他国に言い様にされるほど、温い政策はされていない。

 ………………内通する者が居るのか?

 我が国内に………?



「さて………………これが一個人の企みなのか………………それとも国策なのか………………貴方にとっては、どちらにしても頭の痛い事よね。」





ーーー《sideーA》ーーーーーーーーーー





「相変わらず、旦那も無謀だよね。」


 なにがやねん。 



 何時もの様に日雇い仕事で小麦袋を担いで運んどると、トマスが運び終わった荷物にもたれながら、呆れた感じで言うて来おる。

 そん横へ、よっこらせと荷物を積み上げながら、納得でけん顔を向けたる。


 ちゃんと働いてまっせぇ。


 血生臭い殺伐とした依頼より、やっぱりこないな地道な仕事の方が好きやなぁ。



「あんな荒くれ共の巣窟に乗り込んで行くなんて、まともな神経じゃないよ。無茶苦茶だよね。」


 そないな俺の心情を嘲笑うかの様に、トマスがケラケラと笑っとる。

 ………………仕事せぇや。


「何時まで笑ろとんねん。そないに不思議な事でもないやろ?『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』って言うがな。」

「………………いや、初めて聞くんだけど………何だか凄く蘊蓄の有る言葉だよね。」

「そぉかぁ〜?他にもこんなん有るでぇ〜。『悲しみを知り、一人で泣きましょう。そして輝く◯ltra ◯oul』。」

「………………今度は一転して、よく意味が解らないなぁ………」


 何でやろ?

 ソンシもコーシも、そないに違いはあらへんやろ?


「何だか霧に包まれた気分なんだけど………」

「それはええさかい、そっちの話はどやってん?」


 なんや腑に落ちん面しとるトマスに、そっちが掴んだ情報を話せと促す。

 こいつにゃぁ、ローザの情報を集めてきてもうとるんやさかい。


「そうそう、その話なんだけどねぇ………」


 なんや、歯切れ悪いなぁ。


「まぁ簡単にいえば、良い様に利用されてるってところだろうね………元々家を飛び出していたところを、今のグループの頭のザックとかいう奴に声を掛けられたらしい。それが偶然なのか計算ずくだったのかは解らないけど。けどそれが無かったら、今頃は身も心も喰われて殺されていただろうがね。」


 ふむ………

 偶然にしちゃぁ出来杉君やさかい、おそらく仕込まれたもんやったんやろうなぁ………

 やとしたら………相当性格の悪い奴が居るっちゅうこっちゃ。

 しばくとしたらソイツやな。


「それからはグループに留まって、ノスフェラトスと揉めそうな時には駆り出されてたみたいだけど、最近は顔を出さなくなったらしい。本人が嫌がったってのもあるし、彼女を囲っているってのがノスフェラトスの連中にも浸透したから、今更必要無かったのかもね。」


 ………彼女も気づき始めとんのかもなぁ。

 初めは仲間を助けるつもりやったんかもしれんけど、エエ様に利用されとんのが解ってきたんかも知れん。

 それやったらエエんやけど………

 やがもう手遅れで、ノスフェラトスの連中に浸透してもうたさかい、ローザをわざわざ呼び出さんでもエエ様になっとんのやろう。


 ある種の人質やな。


「持って生まれた人徳なのか、本気で彼女に心酔している者も居るみたいだが………大半は陰口を叩いている様な連中だな………散々彼女の威光に縋ってきたくせに、なかなか酷い事を平気な顔で言ってる様なクズばっかりさ。」


 所詮は偽りの神という事か………


 まぁ解っとった事とはいえ、胸糞の悪い話やったわ。


 遅かれ早かれ、彼女は使い捨てられるやろうなぁ。

 グループ内の不満が、このまま大人しく収まるたぁ思われんし。


 彼女が幸せになれるんやったら、このまま放っといてもええんやろうが、どうやらそないな悠長な事も言うてられんのかも知れん。



「で?………これからどうするんだい?」


 落ち着いた声で、トマスが問い掛けてきおる。


「おぉ!忘れとった………すまんかったなぁ、トマス。手間掛けさせたわ。」

「やめてくれよ旦那ぁ。こんな事ぐらい良いんだけどよ………たいした情報も無かったし。」

「いや、んな事あらへん。これで色んな事が解ったし………」


 そない答えながら、少し考え込んだ。

 やっぱり、動かなあかん様やな。


「………………怖い顔してるよ、旦那ぁ。何考えてんだい?」

「ん?何もぉ?ってか怖い顔って何やねん。」

「誤魔化されないよ?何か企んでいるんだろ?」


 いや、ガチで聞いとんのやが?

 そないに怖い顔しとる自覚は無いんやがな。

 あんまり言われるとショックやわ。


「………大方、ローザをどうやって救い出すのかを考えているんだろうけど………」

「いや、んな事も無い事も無いんやが………………まぁ、お前さんやから正直に言うけど、何が正解か解らんっちゅうのが今の心境かな。」


 ローザは救ったらなあかん。

 そうは思うんやが、覚悟が半分ぐらいしか決まらん。


 子供のやる事に、何処まで首を突っ込むんが正解なんかが解らへん。

 いらんお節介を何処まで焼いてもええんか?

 そもそも子育ての経験もあらへんし、俺も個人的にゃ何やかや言われるんは好かん。

 せやのに、何処まで踏み込んでもええんかが解らへん。


 んな事をグチグチと考えとったら、最初の一歩が踏み出されへん。


 んな俺を見て神妙な顔しとったトマスが、ふと何かに気付いて表情を和らげた。



「答えが向こうから来たみたいだよ、旦那?」


 笑いを含んだ声で言うトマスの視線を追うと、割と離れた場所に金髪の美丈夫が不貞腐れて壁にもたれとった。



 なんやヤバそう………


 そないに思いながらも笑けてきた。






《See you next trip》

如何でしたでしょうか。


烏滸がましいですが、

なかなか進まない状況に陥りまして。

プライベートの忙しさも合わせて、

結構間隔が開いてしまいました。

次作はできるだけ早くお届けしたいと思います。


次作も粉骨砕身務めますれば、

感想等を頂けたら望外の喜びです。 

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