《Trip13ー④》
此度も御読み頂き有り難う御座います。
僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。
「で?………何処に向かってるの?」
投げ掛けられるメルリアの問を、さらりと受け流して歩き続ける。
かっこ付けとんやない。
ほんまに知らんねん。
『次の路地を曲がってください。』
全ては、我が相棒の言うがままや。
「………………本当にこっち?」
訝しげなメルリアがジト目で問い掛けるが、前を歩く俺は適当に相手したるだけや。
「………酒呑みのカンを信じんさい。」
そう言う俺を、胡散臭いもんを見るような目で見てから、似つかわしくない溜め息を白々しく付きおる。
「………………その適当が、嫌味な位に的中するのが腹立たしい。」
いや、それって謂れなき偏見ちゃう?
失礼な。
おっちゃんもちゃんと考えとんねんで。
『知識』はん任せやけど。
『それを考えてるとは言わないのでは?』
適材適所やん。
下手な考えを無理くり進めるんやのうて、よりまともな考えを受け入れて、真っ当に実行に移す方が建設的やんかいさ。
『………………口では勝てそうにないですね。』
当たり前やんかいさ。
大阪人なめんなよ。
これ位できんと生きて行かれへんねんで。
うそうそ。
大阪は皆に優しい街なんやでぇ。
『誰に言ってるのですか?………………目的地に到着しました。』
呆れたかの様に告げる『知識』はんの声に見回せば、左手に如何にもな柄の悪そうな店が有りおる。
迷わず足を止め、店の面構えを見渡す。
如何にもな感じやなぁ………
いかがわしい雰囲気満載の店構えが、一般客を拒絶しとる。
客商売としたら失敗やが、そういう相手をターゲットにしとんのやったら成功やわな。
その店の入り口に迷わず向かう俺に付き従うメルリア。
そんまま扉を押し開け入って行った。
さっさまでの喧騒が嘘の様に一瞬の静寂が場を支配すると、視線が圧となって振り注いできおる。
それを気に留める事もなく、店内を進んで席を決めようと首肯を巡らしとると、どっからともなく怒声が飛んできおる。
「テメェはっ!」
「………………何者だ?」
「ラルクの所を潰した野郎だっ!」
「なにぃぃっ!」
色めき立つ連中を尻目に、メルリアが俺の前にすっと出よる。
俺を庇う様に………
まぁこの辺りの連中位なら、俺も負ける気がさらさら無いんやが、守ってもらえんなら有り難い事に変わりはない。
俺は多少煽る目的も有って、周囲の声を一切無視しながら、空いているテーブルに着くと店員を呼ぶ。
「すまんなぁ。俺はエールと………メルリアは何にする?」
「………………今はいらない。」
「そぉ〜か。ほな、エールと水を貰おうか。」
注文を聞いた店員が慌てて厨房に戻ろうとすると、赤いベストを着た男が肩に手を置いて引き止めた。
「………今の注文は無しだ。」
「………何でやねん。お前にそれを決められる筋合いはねぇやろが。」
声を荒らげずに俺が反論するが、店員は赤ベストの男の言葉に何度も頷くと厨房に逃げて行った。
その態度に満足したかの様に、舐めた態度で俺に言い放った。
「テメェに呑ませる酒はねぇよ。」
………そこはタンメンやろが。
そない突っ込みたい所やが、お笑い偏差値の低い連中に言うても詮無いこっちゃ。
お笑いのセンスが無いって事は、知能指数が低いって事やさかい。
「さよけ………ただの客如きに注文を消される様な店は、こっちもお断りしたいわな………呑めんのやったら河岸代えるわ。」
「………………このまま帰れるとでも思っているのか?」
席を立つ俺に、赤ベスト男が脅し文句を投げて来おる。
そん言葉を合図に、色めき立った連中が怒声と共に立ち上がる。
最初から、それぞれ手に得物を持っとる所は評価したろ。
「………逆に聞いたるわ………………お前等如きに、俺等をどないか出来るとでも思とんのか?………………随分と御目出度いのぉ………」
メルリアは既に『洞爺湖』を引き抜いとるし、俺も腰の得物に手を伸ばす。
とり、半分位はしばいとくか………
そん時………大輪の紅い薔薇が咲いた。
「静まりなさいっ。」
凛とした声が響き渡ると、それまで殺気立っとった連中から熱が引いて行きおる。
俺を含めた全員が一斉に視線を送った先では、階段から女性が長い紅い髪をなびかせながら、ゆったりと降りてくるところやった。
貫禄十分やなぁ………
役者が数段違うわ。
十把一絡げの連中が霞んでもうとる。
確信するわ。
彼女が『コンレスピーネ』ローザや。
んな長い赤髪の女性が、殊更ゆったりとこちらに歩み寄りながら、鋭い視線を投げ掛けてきおる。
「………何の御用かしら?」
そん言葉にゃ、確かにきっつい棘が生えとるわ。
やが、やからと言うて気にもせんけどね。
座り直した俺は、傍から見たら舐め腐った態度で大仰に答えたる。
「御用も何も………酒場に酒を呑みに来る以外の用事でも有るんかいな?」
「………惚けないで頂けるかしら………わざわざ遠方まで出向いてきて、敵対勢力の真っ只中に乗り込んで来てまで、何を為さりたいのかを問うているのです。」
苛立ちを隠そうともせんと、俺が座るテーブルに手を付いて、問い詰める様に身を乗り出しおる。
おいおい………やめてくれ。
そん姿勢は胸元が強調されんねん。
ダチの愛娘にやられても、素直に喜ばれへんやんけ。
………………………………。
なんやメルリアの視線が突き刺ささっとる様な気がすんが………気のせいやろと思とく。
「見ず知らんアンタに、そないに問われて答えなアカン筋合いもクソも無いんやが………………そもそも敵対勢力ってなんやねん?………己等如きを相手にもしとらんし………そもそもの話やが、お前等誰やねん?」
俺の言い放ったあからさまな挑発に、知能指数が低い連中が目に見えて色めき立ちおる。
ソイツ等の手元で、何かが光を反射しおった。
「静まりなさいっ!」
………………………………………………。
………………………………おや?
彼女の静止の声に、連中の熱は完全では無いまでも落ち着きを取り戻して行きおる。
「わざとらしい挑発は辞めていたけるかしら。」
「………まぁ挑発でも無いんやが、こっちも揉めたい訳やないし………いろんな無礼は見逃したってもエエよ。」
筋違いな詰問に、ちったぁイラッとしたさかい、少し小馬鹿にした様に言い放つ。
すっと、その言い様にムッとした顔で、更に筋違いな詰問をしてきおる。
「………どうして、そちらが上から目線でものを言うのかしら?」
「はぁ?………こん話の流れで、何でそっちが上に立てると思とんねん。謝罪せぇまでは勘弁したるけど、そっちが風上に立てる要件は皆無やと思うけどな。」
「………貴方が、わざわざ此方の縄張りに出向いたのが原因でしょう。」
「縄張りってなんやねん。知らんがなそんなモン………お前等がそう言い張っとぉだけで、こん店はここの店主さんのもんやろが。そこに呑みに来たから言うて、何が悪いねん。」
あんまりにも解らん事言うてきおるさかいに、懇切丁寧に筋道立てて反論したる。
大人の論理武装の前ではぐうの音も出るまい。
『………屁理屈と言うのでは?』
やかまっしゃいっ。
あえて言わへんのが、大人の嗜みっちゅうもんやで。
「………なるほど………………全ては計算ずくと言う事ですか。」
僅かに幼さを覗かせる、不貞腐れた面を隠そうともせんローザ。
この辺りは、まだ交渉事には速過ぎんのやろう。
「ちゃうがな………そっちが大人の勝負の仕方を知らんだけやがな。」
これも1つの社会勉強。
ちったぁ世間の世知辛さを知ればええ。
ガキっぽい青臭さは嫌いやないが、それだけやと生きて行かれへんのを教えたんのも、老い先短いもんの役目なんやろう。
「………まぁエエわ。当初の目的も果たせたし、今日所は帰るわぁ。」
何時までもこないしとってもしゃぁないし、そろそろ帰る段取りでもしとこか。
「目的?」
「あぁ………………友達の娘の顔を見に来たんやわ。」
「………………………まさかパパの?………………………あの人の知り合いなの?」
訝しむローザに少しだけ匂わせてやれば、直に真相に辿り着きおる。
やっぱり、そこそこ頭の回転も早いし………父親の愛情が注がれとる事にも自覚があるんやろう。
せやさかいに正解やと答えたる。
「呑み友達の娘が、道踏み外しとったら手ぇ差し伸べんのが当たり前やろ?」
「………大きな御世話だと思うのだけれど?」
「世話やくんが年寄りの特権やねんけどな………」
心底嫌そうな顔をするローザに摂理を教えたるんやが、いまいち響いとらん様や。
しゃぁないなぁ………
年寄りの扱いなんぞ、何処の世界でもこんなもんや。
若もんにゃ受け入れられん。
「………先の短い人生を、無理に縮める必要はないのでは?」
「ほぅ、言うやんけ………やが、まだまだ長生きするさかい、それこそいらん世話や。」
なかなかにヒネた事も言うてくるさかい、笑いが込み上げてきてまう、
ちったぁ言えるやんけ。
「それに、人の道を外れているのはあの人の方だと思えるのだけれど?」
「せやなぁ………外れとんのは間違い無いんやけどね………せやから言うて、外道に手を染めんのは違うんやないの?」
ローザん言う事は間違いあらへん。
何をどない繕うとも、ヤクザはヤクザや。
いくら町衆の為とか御題目を唱えた所で、非合法な方法を使ことる以上、けっして褒められたモンや無いんは解っとるやろう。
やが………………
「外道とは言い過ぎではないかしら?あの人の所業に比べれば、それこそ幼子の様に可愛らしいんじゃなくて?」
「………………………本気で言うとる?」
「………………え?」
………なるほど。
これで、ある程度の情報は得れたわ。
となると、早々に引き剥がさなならんのやが………
「………………まぁエエわ………………ほな、また来るわぁ。」
「帰すかよっ!」
また跳ねっ返りが突っ込んできおる。
今度は流石に静止が間に合わん。
こっちも、もう待ったる理由も無いさかい。
腰溜めに小さぁ光るもんを構えて、突っ掛かって来ると同時にそん手を突き出しおる。
狙いは俺の喉。
そん狙いは悪うないが、如何せんスピードがカウンターを狙ってくれと言わんばかり。
カウンターって、顎とか急所をピンポイントに狙うイメージやけど、俺等みたいな素人が出来る訳ないやん。
せやさかい、狙うんは別ん所………一番近い所をしばく。
つまり、突き出された腕や。
俺の喉に向けて伸ばされたナイフを握った右手を、左手で殴り飛ばして無力化すっと、掬い上げる様に右手で相手の喉を掴む。
所謂『喉輪』ってやつや。
「うごっっ!」
息が詰まって泡食っとるうちに踏み込んで身を寄せると、左手で相手の腰周りの衣類をがっつりと握る。
思たより顔近いさかい、苦しみ慄く視線がばっちり合うた。
せやさかい、にやりと笑みを返しとく。
「ぶっ飛べ(笑)。」
愛想よぉ告げたったら、よいせと腰から力を込めて、高々と掲げる様に持ち上げる。
傍から見たら、喉を締め上げる片手で吊り上げてとる様に見えるやろな。
ただのトリックやが。
やが………そこで止まらへん。
そのまま右腕にみきりと力を込めると、そんまま床に叩きつける。
『赤い処刑マシーン』の様に………
重力の加速に俺の力を加えた一撃は、ぼろい床板をぶち割る程には威力があった。
勿論、相手の意識を刈り取れる程度には………
「………………………」
息を呑む音しか聞こえん位に静まり返った店内を見渡し、最後にもいっぺんローザに視線をやるとできるだけ挑発的に笑みを浮かべると、踵を返して出口に向かう。
そん後ろをメルリアが、後方を警戒しながら付いてきおる。
んな俺等を誰も見咎めん。
しゃーないなぁ………
最後に悪役ムーブかましとくか。
扉に手を掛け、身体が半分位は外に出た位で立ち止まると、振り返って努めて何事でも無さそうな声量で伝えたった。
「ほな………………またな。」
《See you next trip》
如何でしたでしょうか。
次作も粉骨砕身務めますれば、
感想等を頂けたら望外の喜びです。




