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しかし、だからと言って身勝手な感慨に長く浸っているわけにもいかない。
道祖は改めて姿勢を正すと、臨時の講義を再開した。
「さて、話を戻そう。ココが話してくれたように、業はマナスより生じ、人工精霊とは元々は不確定のマナスに形を与えてもの……つまり、私たちにとってより重要なのは、どれだけ人工精霊にはっきりした形を与えられるかだ」
「……えっ、なんで? 人工精霊がはっきりしてても、業が強くなきゃ使えないじゃん。それじゃあ意味ない。だってそれじゃあ、私たちは、どこにも……」
――ッ! やらかしたッ!
急に陰ったユクの声に、道祖は自身の犯した失態に気がついた。
意図したものではないとはいえ、価値観の否定に繋がる言葉を吐いてしまっていた。それが、どれだけ重いものかを知っていながら……。
――力が、業がなければ意味がない。
それを信奉するのはユクだけではない。この島に渡ってくるほぼすべての覚者は、自分だけを……いや、己の力だけが、唯一信じられる価値観なのだ。
――そう、ならざるを得ないのだ。
種類、環境に違いはあれ、業を、人工精霊を抱えるとはそういうことなのだ。
「……ユク」
「ユーキ……」
魂の所在を見失ってしまったかのように、感情の抜け落ちた顔で呆けるユクの肩に、結紀の手がそっと置かれる。
そこに同情の色はなく,ただ身を切り裂く冷たさに耐えるように、同じ厳しさの中にいる者として、手を差しださずにはいられなかった。
「僕らは自分の身を守るため、より強い業を求める。これまでのことだってある、それは仕方ないことだ。……だけど業はどれだけ強くなっても、そこで終わりなんだ」
結紀の言葉にユクの顔がクッと歪む。
とうの昔に塞がったはずの古傷が突然開いたように、目を向けなくなって久しい心根の奥がズキリッと痛んだ。
自分を見つめてくる少年の瞳に、どうしようもなく、いつかの自分を見出してしまったから。
「ユク、学園は戦うことを学ぶ場所じゃない。人工精霊を研究して、どうすれば社会に、人に、貢献できるかを考える場所なんだ。
そして、この世界の僕たちの居場所を、生き方を探求する場所なんだ。
だから必要なのは――強さじゃないんだよ」
言葉を最後まで正面から受け止めることができず、ユクは自分の傷を抱え込むように、三角に立てた膝の間に埋めるようにして顔を反らした。
言っていることは分かる、それがきっと正しいということも――。
ただ、それを認められほどの強さを、少女は手にしてはいなかった。
「――まぁ、人工精霊の位を上げていけば、おのずと業の力も上がっていくがな」
徐にかけられた声に、ユクの肩が小さく跳ねた。
草むらの奥から相手を伺う小動物のような瞳を腕と髪の隙間から覗かせるユクに、道祖は努めて明るい調子で続けてみせた。
「当然だろう? 人工精霊の位を上げるということは、人工精霊の自我を呼び覚まし、制御することだ。
人工精霊の形がしっかりと定まれば、おのずとマナスの形も捉えられるようになる。巡って、マナスから生じる業の強度も高まるということだ」
言葉が続くのに合わせて、少しずつユクの顔が持ち上がっていった。
下ではなく前を、見るべきものは過去ではなく未来であることを、この島に来た目的は確かにそこにあったと思いなおして。
「だからまずは……学ぶことだ。それがお前自身を守ることに繋がる」
告げられた言葉に、ユクはしっかりと目を見返しながら頷いた。
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