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道祖の言葉にユクの瞳がパチリと瞬く。
それはまるで、朝食は朝に食べるものだと言われたような、当たり前すぎて問題を問題として受け取れていないような、意識の空白だった。
「んんぅ~……?」
それでも、出されたからには飲み込まなければと、健気にも首を傾げながら眉間にしわを寄せ、飲み込み方を模索するようなユクに、道祖は微笑を零しながら続けた。
「お前は、マナスと人工精霊を同じモノと捉えているようだが、それもまた間違い……いや、広義の意味では間違っていないのだが、同格ではあっても同一ではないんだ」
「んんんぅ~……あ゛ぁもう! ますます分かんないッ!」
ガシガシと頭を掻き毟って雄叫びを上げるユクに、文句を言いつつ考えを巡らせるのだからまだ可愛げはあるな、などと道祖は不出来ながらもがく生徒を緩やかに見つめた。
「――マナスはマナス。誰にでもある」
ふと聞こえてきた静かな回答に、三人の視線が吸い寄せられた。
「おっ、よく分かってるじゃないか。二……ココ」
苗字を呼びかけた道祖が慌てて口をつぐんだのは、ともすれば殺気まで混じりそうな、冷ややかな視線が突き刺さってきたからだった。
自分から話に入ってきたのだろうに、ココは無言のまま目を鋭く細め、一瞥をくれただけですぐに視線を反らした。
いつの間に出したのか、携帯端末、おそらくは自作だと思われるそれに高速で指を滑らせながら、まるで独り言を零すような無責任さで言葉を紡ぐ。
「マナスは精神体、もしくは零体、私たちとは別の、もう一つの意識。人工精霊はそれを観測、検証するために無理やり形を与えたモノ……だから人工」
淀みなく並べられた言葉に、道祖は僅かな間を空け、全身に広がっていく幸福を噛み締めてから、満面で笑みを浮かべた。
「正解だ! 隙のない、模範的な回答だな。よく勉強している――偉いぞ」
飾り気のない、だが虚飾もない実直な賞賛に、ココはビクッと肩を跳ねさせ、髪の隙間から覗く紫晶の瞳を丸くした。
それは、意識の外から奇襲を受けた驚きというよりは、常識の外から突撃された戦きといった感じで、非現実的なものを目の当たりにして、何をどう対処すればいいのか分かっていないというのが一番しっくりくる表情だった。
その、初めて頭を撫でられた子犬が固まってしまったような反応に、道祖はますます笑みを深めて鼻息を荒くする。
先ほどの冷ややかな視線がなければ、すぐにでもそのふわふわと波打つ白髪を思う存分撫でまわしているところだった。
薬の切れた中毒者のように、抗いがたい衝動にぶるぶる震える腕をなんとか抑え込み、自制の末になんとか踏み止まった。
「ふぅ……。ユクもココを見習うように。お前らは曲がりなりにもAクラス……この学園の実質トップ集団に属しているんだ。知らないのはいい、だが知らないのをそのままにしておくのは愚か者の在り方だ――励めよ」
その言葉に二人は一層大きく目を見開き、内緒話をするように横目で顔を見合わせた。
二人が何を思ったのか、読心の類の業を抱えているわけではない道祖に推し量ることはできなかったが、ただなんとなく……、
――たまには、こういうのも悪くないだろう。
少しだけ、報われた気がした。
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