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「あーーーーッ! こいつ鼻で笑った! 鼻で笑ったぁ!! ふざけんなおまえぇ! 何も鼻で笑うことないじゃん! ムカつく~ぅッ!!!」
「ふふ~んっ」
拳を握りしめてギリギリと歯を噛み鳴らすユクに、ますます小馬鹿にした笑みを深めてみせるココ。
二人の間で火花が散り、今まさに小さな戦争が始まろうとしていた。
「待って待って二人とも! これじゃあ話が進まないから! ね? 落ち着いて」
しかし、それに挟まれている側からすれば堪ったものではない。
結紀は慌てて隙間に手を差し込み、対極の磁石みたいに引き合う二人を無理やり引き剝がそうと割って入った。
「ほらほら、どーどー」
「シャーッ! シャーッ!」
「ぷぷっ。ぷふふ~っ」
なんとか宥めようにも、両者ともに引き下がる様子はない。
腕の柵越しに威嚇と茶々を投げつけ合っている。
――どうしたもんかな……。
腕に乗っかる柔らかな感触に汗を流しながら、結紀は煮詰まっていく思考を冷やそうと苦心する。しかし、二人ともここで引くわけにはいかないと全身で主張し、ヒートアップしていくばかりで手がつけられない。
どうにかしたいのは山々だが、目に見えている火種に手を突っ込んで火傷をするのも躊躇われる……が、放置をしたらしたで、目の前の爆弾に火がつくのも明らかだった。
メーターが上がっていくように怒りがふつふつと滲んできているのに、なぜか静かなままの道祖に気が気でなく、結紀としては両手を挙げて降参したいのに、両腕にかかる重みのせいでお手上げすることもできない。
涙が流れなかったのは、二人の熱気によって蒸発したせいに違いなかった。
――心まで枯れそうだよ……。
心で泣きながら何もできずにいる結紀に、道祖は何も言うことはなく。にわかに騒がしくなった医務室の只中で、頭痛に耐えかねたように額に手を当てただけだった。
「――はぁ……。まったくお前らは……少しは静かにしろ!」
顔を俯かせ、口端と眉尻をピクピクと痙攣させる道祖が、額に置いた手とは反対の腕を鋭く振り下ろす――瞬間、不可視の力場に捻じ曲げるように空間が揺れた。
「――ギッ!?」
「――ゔッ!?」
それと同時に、見えないハンマーを後頭部に叩き込まれたように、ユクとココは頭を勢いよくベッドに沈ませていた。
「おあ゛ぁあぁぁ……っっ」
「……ッ!? …………ッ!?」
よほど衝撃が強かったのか、文句を垂れる余裕もなく、頭を抱えるように押さえながら二人で仲良くベッドの上でのた打ち回る。その様子を腕組みなおした道祖は仁王立ちで見下ろした。
「お前らという奴は……ここは医務室だぞ? 場を弁えろ、場を! まったく、こんな奴らでもAクラスに在籍しているというんだから始末に負えん。
優等生になれとは言わんが、少しは上位クラスとして相応しい振る舞いを意識しろ。――分かったな?」
圧をかけて見下ろしてくる道祖に、さすがのユクとココも反抗的な地度を見せることなく、目尻に涙を浮かべながら小刻みに何度も頭を縦に振った。
「よし……で、法身の人工精霊がどんなものかについてだが……これは結紀の人工精霊を実際に見るのが一番手っ取り早いだろう。出せるか?」
道祖の問いかけに、結紀は軽くうなずいてから瞳を閉じた。
外界との繋がりを断ち、自身の内側に沈み込んでいくような感触。
現実の時間にすれば僅か数秒の間だが、自身の感覚としてはその数十倍の時間が流れていくように感じる内面世界を泳ぎ、結紀は自分の底へ手を伸ばす。
その指先に、冷ややかな黒鉄の感触を確かに感じ取り――結紀はゆっくりと瞳を開けた。
「――えぇっと……なんか、疲れてるから出たくないって言われちゃって……ははっ。だから、その……すみません」
その言葉にガックリと肩を落とした道祖に、結紀は申し訳なさそうに頬を掻いた。
「はぁ……。まぁ、いい。口頭で説明しよう」
大きく息を吐いて、そのまま座り込みそうな消沈ぶりだった道祖だが、なんとか気を持ち直して立ち上がると、仕切りなおすために一つ咳払いをした。
「ンン゛ッ! まず簡潔に答えから言えば、法身の人工精霊とは――人を超越した人の精神、その化身だ」
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