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結紀は一瞬、言葉の意味を汲み取ることができなかった。むしろ、意味を考える前に自分の耳が正常に機能しているかどうかを疑った。
だが、それも仕方ないだろう。
国家の中枢、それも自分たちを吊るし上げることを生きがいにしているような輩が蠢いている魔窟に、誰が好き好んで特攻を仕掛けようなどと思うのか。
――はは、やっぱまだ本調子じゃないみたいだな。
あまりに非現実的な言葉に、結紀はいやいやと頭を振った。しかし、それと同時に、何を馬鹿なと笑い飛ばすこともできなかった。
いくら思考の上で否定してみても、今度はそれを本能が否定する。
今も脳裏に……心にへばりついて離れない――あの地獄そのもの光景。思いだすだけで怖気が走る惨状に、奴ならやりかねないと強く確信してしまっていた。
「うへ~、やっぱマジで人間じゃないでしょ。あそこってアタシたちみたいなのを取っ捕まえるのに、すっごい人がわんさかいる場所でしょ? そんなとこにわざわざ自分から押しかけるとか、自殺しに行くようなもんじゃん」
「理解不能。危うきには近寄らず、これは君主じゃなくても分かること」
ユクが苦いものを食べたように舌を出して顔をしかめるのに、ココも竹やりを持って戦車に突っ込んでいく輩を見たときのような冷めた目で同意する。
二人の反応に道祖も、まぁそうなるよな、というように頷いて返した。
「そう考えるのが普通だろう。何せあそこには、自衛隊のエリートからさらに選抜を重ねた対覚者・対人工精霊専用の部隊が常駐しているうえに、法身の人工精霊を抱える直属の覚者を幾人も抱えている。通常戦力では門を潜ることもできん」
結紀は思わず息を飲んだ。
道祖の言葉が真実だとするなら、相手はまさに国家の最高戦力、つまりは国そのものに喧嘩を売るのと同義だ。
とても正気とは思えない。だが――だからこそ納得できた。
個人でそれだけの戦力を持っているのであれば、まだ自分の業の底も把握できず、人工精霊の顕現も中途半端な学生が、どれだけ束になったところで敵うわけがない。
そもそも立っている次元が違う……争うなどと思うことが烏滸がましい。
今さら、自分がどんな存在とことを構えていたのかを理解し、結紀は戦慄した。
「……えっと、ちょっと聞きたいんだけどさ~ぁ?」
「……ふぅ。なんだ?」
ユクが徐に小さく挙手しながら、ちょっと気まずそうな顔で他を見回した。
悪戯を自己申告する子供のような、体を小さく縮めているのに緊張感が欠片も感じられない、力の抜け切った小憎らしい声音に、道祖は嫌な予感を感じつつも無視することもできず、ユクに胡乱な視線を向けた。
「へへっ、その、さ……法身の人工精霊って……どんなだっけ?」
頭の裏を掻きながら取り繕ったような笑みを浮かべるユクに、全員言葉もなく、溜息が漏れなかったのは展開が予想通りすぎたせいだった。
「あっ! いや知ってるよ? あれっしょ、あれ。人工精霊の種類的な…………だ、だよね? ……うん、間違ってないはず……はず。あれ? 違った?」
三人からの険のある視線に耐えかね、慌てて自己弁護を測ったが、言葉は重ねた端から不安定に揺れて、自分で言っていて不安になってしまい、ユクは視線をあちこちに転がした。
だが、どれだけ探しても正解が見つかるはずもなく、そもそも何が正当なのかが分からないのだからどうしようもなかった。
とりあえず、今のところは開き直って根拠のない自信だけで押し通すほかないと無駄に胸を張り、ユクは鼻の孔を膨らませて宣言する。
「……いや、やっぱ合ってる! うん! それは知ってんの! でもほら、もしかしたらアタシが考えてるのと、みんなが考えてるのって違うかもしんないじゃん!
後からやっぱ違ってました~ってなったら、どっちも気まずい感じになっちゃうかもだし、そうなったら話切ることになっちゃうし、それはそれで怠いっていうか~……ぶっちゃけメンドいじゃん?」
論も根拠もかなぐり捨てた物言いに、それまで冷え切った視線で見るだけに止めていたココが、耐えられないとでも言いたそうに大きく息を吐いた。
「むっ、何よ。ココ。言いたいことがあるならハッキリ言えば?」
あからさまな態度にユクは眉間にしわを寄せ、結紀を挟んだまま挑むように首を伸ばす。それに対してココも受けて立ち、乗りだすようにして顔を突き合わせ――、
「…………フッ」
思いっ切り鼻で笑った。
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