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ユクとココが同時に、バッと風を切る勢いで振り向く。
視線の先には、この学園の長であり、判然としないがどうやら自分たちの上司であり、どうでもいいことだがとても偉い立場にいるらしい人物がいた。
だが、相手の立場など二人にとって飴玉ほどの価値もない。
ただ、急な乱入者に対して総毛を逆立て、眼を鋭く尖らせるだけだった。
しかも手は未だに結紀に回されたままで、むしろこれは自分のだと主張するように、しわが寄るほど強く服の端を握りなおしている。
威嚇の姿勢を隠そうともしない二人に、明らかに間の悪い時に顔を出したと、道祖はバツが悪そうに後頭部をガシガシ搔きながら中途半端な愛想笑いを浮かべた。
その居心地の悪そうな様子に、結紀は両手を挙げたまま同じ種類の笑みを返す。
「ははは……」
「ああ、なんだ。その……出直した方がいいか?」
そろそろと遠慮がちに言葉を重ねる道祖に、結紀は緩やかに首を横に振って答える。
「いえ、大丈夫です。ほら、二人とも。話をしにきた他人に対して、そんな態度で接するのは良くないよ。ちゃんと立って、威嚇しない」
「むぅ……ユーキがそう言うなら」
「渋々、容認」
不満そうに口を尖らせながら、二人は同時に結紀の服から手を離してベッドから降り立った。
その様子にようやく息ができるとでも言うように大きく息を吐き、道祖は全身から疲れを滲ませながら言葉を続けた。
「お前たちも災難だったが……まぁ、五体満足でここにいられるだけでも幸運だったってもんだ。下手しなくてもお前ら、死にかけてたんだからな」
――このままじゃ疲れも淀み溜まっていく一方だ。
そんな愚痴が聞こえてきそうな口調で零した道祖は、溜まったモノを吐きだそうと懐の煙草に手を伸ばし、視界に映った白色にここがどこかを思いだして手を止めた。
ただ、微かな期待を込め、チラッと結紀たちの方に上目遣いで視線を送り……グッと眉間にしわを寄せた涙ぐましい顔で手を戻した。
「はぁ……儘ならんなぁ~」
目尻を光らせながら明後日の方向を向いて黄昏る偉い人に、なんだかこっちまで居た堪れない気分になって、結紀は空気を断ち切ろうと慌てて口を開いた。
「せ、先生! そういえば、アレは……彼女はいったい何者ですか?
昨日までは、あんな……その、悍ましいモノが学園にいるなんて、欠片も感じなかったんですが……」
「あっ、ほんとそれな。マジ意味分かんなかったもん。
何、あれ? ほんとに人間? オバケって言われた方がまだ分かるって。オバケはオバケ屋敷にいとけって話だよね~」
結紀の言葉にユクが大きく頷きながら、飛び乗るようにしてベッドにぽすっと腰を下ろした。そのまま寄りかかるように背中を預け、頭越しに結紀の顔を仰ぎ見る。
ぐりぐりと腕に頭を押しつけてくるユクに、結紀は困ったように笑いながらも倒れないように背中を支えてやった。
「ムッ……」
途端、口を三角に尖らせたココが競うように反対側に飛び乗り、
「あっ」
上手く乗れず、大きく体が前方に泳いだ。
しかし、ココは慌てる様子もなく、ぽやっとした表情で呆けたまま前に投げだされていくのに身を任せ、ゆっくりと倒れていき……、
「おっと」
結紀が腹に手を回して引き寄せることで事無きを得た。
「お? ……おぉ~」
何が起こったか、よく分かっていない様子で目を丸くしていたココは、少しの間目をしばたたかせてから、思いだしたようにお腹に感じるちょっとゴツゴツした感触に視線を落とし、目を輝かせた。
筋肉が隆起するような主張はないが、自分のとは違う、明らかな男の子の手だ。細いように感じても、その奥に逞しい芯を感じさせる。
それでいて指先なんかは自分が羨ましくなるくらい、白くて長くて、ちょっとセクシーな感じすらする。
「……んねぇひひっ」
結紀の腕に抱かれながら、その感触を確かめるようにペタペタと触って独特な笑い声を漏らすココに、結紀は仕方ないとでも言うように微笑んだ。
「……あ゛~……タバコ吸いてぇ」
まぁ、目の前で見せつけられる側からすれば堪ったものではないのだが……。
「あっ……えっと、いやこれは、その……すみません」
「ああ~。いい、いい。気にすんな。
お前たちくらいの年なら、色恋は何よりも甘いだろうしな。いいんだ……ああ、それでいいんだよ。――お前らは学生なんだからな」
しかし道祖に辟易とした様子はなく、ご馳走様とは言いたそうでも、胸焼けに顔をしかめることはなかった。
むしろ、三人を眺めながら眩しそうに目を細め、口元には柔らかな微笑すら浮かんでいる。
ただ――その瞳の奥が誰を見ているのか……結紀にはそれがついぞ分からなかった。
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