表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪逆の女帝 “スクラップミストレス”  作者: 黒一黒
第1章 悟りを開いた者たち
29/43

29


 ――痛ましい沈黙が流れる。


 沈痛な面持ちで項垂(うなだ)れた道祖(みちのや)だったが、どれだけ足元に視線を彷徨(さまよ)わせてみても、昧弥(まいや)を揺るがすような言葉が見つかるはずもなかった。

 ただ、道を見失った幼子のように、今にも決壊しそうな感情を塞き止めながら、健気にも座り込むことを良しとはしていなかった。


 まだ立つことを諦めないでいるカタブツに、さしもの昧弥もやや辟易とする。


 何が彼女をそこまで頑なにさせるのか……興味が向かないわけではないが、今この場で求めているのは、教師としての矜持ではなく、学園上層部としての妥協だ。


 いつまでも、この意固地につき合ってもいられない。


 昧弥は鎖の感触を確かめるように左手を握りなおした。

 そこに実物の鎖があるわけではない。しかし、その幻想の黒鉄(くろがね)結紀(ゆうき)人工精霊(タルパ)の強固な、もしくは根深いとでも言えばいいか……、なんにしても容易に綻びはしない確乎(かっこ)たる繋がりを感じさせた。


 ――だがそれでも、昧弥にとってはあまりに儚い。


 この悪逆の前では、三世(さんぜ)を跨いでなお切れぬ(えにし)も、天地に渡り比翼連理(ひよくれんり)と約した契りも、すべては塵芥(ちりあくた)――後には影も残りはしない。


 薄い膜のように広がった沈黙を振り払うように、昧弥の手が緩やかに持ち上げられた。


 見せつけるように掲げられた手の内で、ジャラッと鎖の擦れる音が鳴る。そのあまりの弱弱しさに、道祖は弾かれたように顔を上げた。

 視線は鎖越しに昧弥の黒玉の瞳に吸い込まれ、その口から生まれる呪詛は、容易く道祖を飲み込んだ。


「いいか。そこらに転がっている有象無象共は、まぁいい。そもそも私が焚きつけ、それを許したのだ。刹那的な戯れであり、状況的に流れたものとはいえ、確かに私の言葉だ。反故にする気もない……だが、こいつらは違う」


 人工精霊(タルパ)の頭を踏み躙っていた足がその背に滑り、同時に鎖が引き絞られる。首輪を吊り上げられ、無理やり持ち上げられた顔は恐怖に歪み、喉から苦しげな呻きが漏れていた。


「こいつらはたまさか通りがかっただけにもかかわらず、しゃしゃり出て手を突っ込んできたのだ。自分たちのモノのデカさ(・・・・・・)をひけらかすためだけに、河川敷に捨てられた猥本(わいほん)をその場で広げ、使用するのを見せつけるような下劣さでだ。――笑えんな……ああ、笑えんとも」


 人工精霊(タルパ)は指を首輪の隙間に潜り込ませようと足掻き、何度も首を引っ掻く。しかし拘束が緩むことはなく、むしろ足掻けば足掻くほど、より強く食い込んでいった。


 呼吸を必要としない人工精霊(タルパ)が、何に苦しんでいるのか……それは定かではない。ただ、彼女の目は(すが)るものを探すように、忙しなく動いていた。


 その瞳が――何もできず、ただ呆けたように事態を見つめる道祖の目を捉えた。


 針の穴のように絞られた瞳孔が、助けを求めて伸ばされた手のような切実さで、道祖に訴えかけてくる。


 ――死にたくない。


 あまりに痛切な目の色に、道祖は身をつまされる思いがして、無意識に自分の肩を抱いて後退った。闇夜の底、吹雪の中、たった独りで打ち捨てられたような恐怖が、我が物のように思えて……その痛ましさに体が震えて仕方なかった。


 ……しかし、それでもなお、道祖はその求めに答えることはできない。


 この島で……このどうしようもないゴミ溜めで、教師であることを自分に誓ったのだ。ここで(カルマ)に頼り、力で事態の収束を計れば、自分は立つための寄る辺をなくしてしまう。


 教師でなくなった自分は、昧弥の言うように欲に呑まれた獣に堕ちるだろう。それを自分自身で確信してしまっていた。



 故に、昧弥の一挙一動を、結紀(ゆうき)の――人工精霊(タルパ)の一苦一憂を、見つめるしかなかった……。



      ☆      ☆      ☆


ツイッターやってます。

https://twitter.com/koku_ikkoku


イラストなんかも載せてますので、

お暇な時にでも覗きに来ていただけたら幸いです。

よろしくお願いします!


コメント・応援・レビューもお待ちしてます。

忌憚のないご意見をいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ