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宇宙では音が鳴らないのと同じように、その闇にもまた、他者の言葉など響きようがないことを道祖は一目で理解させられた。
しかも質が悪いことに、こちらの声は届かないにもかかわらず、その闇からは他者を飲み込む呪詛が漏れ聞こえてくる。
事情も、心情も、愛情も……すべては平等に無価値だと。何もかも考慮するに値しないと、それこそが真実であると知らしめるように……。
「いいか、道祖夕里。我々、覚者は……人工精霊は、どれだけ高尚なお題目を立てようと、その実、他者が憎くてたまらない、どうしようもない獣だ。
自身の身勝手をまき散らし、押し通ることしか知らない。貴様がどれだけ期待を込めようと、これが変わることはない。――それは貴様自身もまた同様だ」
耳孔を侵しながら脳髄に侵入してくる声は、その内容とは裏腹に、恨みや妬み、嫉みといった、鬱々とした感情は籠っていなかった。
ただ淡々と、資料を読み上げるような無機質さで現実を突きつけてくる。
道祖は、何か言葉を吐きだそうと口を何度か開閉したが、自分の中にわだかまるモノが言葉になることはなく、結局、黙り込む以外の選択をすることができなかった。
それは、言葉が見つからなかったというより、もし返した言葉まで否定されたら、それをさらに否定することが自分にできるか、その確信が持てなかったからだった。
歯噛みし、俯いた道祖に、昧弥の言葉がさらに突き刺さる。
「何を理由に足掻いているのか知らんが……すべては徒労だ。
表面上では人情やら正義を謳ってみせても、その根にあるのはどこまでも底のない我欲のみ……こいつらを見ろ」
昧弥は腕を横薙ぎに振り、自身の背後と足元で絶望に意識を呑まれた三人を示す。
「こいつらが、正義感などという反吐の塊を振りかざし、割り入ってきて何をしたと思う?
――何もしなかった。いいか? 何もだ。その口から糞を垂れるように、有難いお言葉を宣いながら、周囲の有象無象に手を差し伸べさえしなかった」
その目に侮蔑の色はなく、ただ羽虫に集られたような煩わしさだけが覗いている。昧弥からすれば、この三人が囀っていたことなど、蚊の羽音と同等の無価値さでしか響いていなかった。
ただ、その不快さだけはいつまでも耳元に残っている。
それが許せないと、唾を吐き捨てるように言葉を足元に投げつける。
「挙句、私が少しばかり撫でてやったら、気持ち良くお寝んねときた……分かるか? 道祖夕里。こいつらは有象無象共を助けにきたのではない。マスをかくのを見せつけて、気持ち良くなりにきただけだ。
――まったく、盛大に撒き散らしてくれたよ」
そこまでを一息で吐きだした昧弥は、肩を揺らしながら喉を鳴らして笑った。
明らかな嘲笑だが、それを非難する者がこの場にいるはずもない。
無論、道祖にしても彼らを庇う言葉など持ち合わせてはいない。
だが、このまま昧弥の言葉を受け入れるだけでは、この状況が好転しないことも明らかだ。
故に、道祖は自身に利も論もないことを知りながら、それでも縋るような声音で昧弥に語りかけずにはいられなかった。
「――分かった。お前からすれば、前触れなく上から目線で断罪をかけてきたんだ。理不尽に思うのも無理はない……だが、そいつはまだ学生だ……子供だ。
視野も狭ければ、間違いも犯す! たった一度の過ちで、何もかも失えというのはあまりに――ッ!」
「それを私が飲み込んでやらねばならない理由があるか?」
「そ、それは……そう……だが、……」
それ以上続きはしなかった。あまりに呆気なく、道祖の言葉は途切れた。
だが、それも当然だろう。
法による秩序がほぼ機能していないこの島で、どうして善性を掲げて生きろなど言えようか。己が掲げるだけならいい。だがそれを他人に強制するなど、死ねと言っているのと同じだ。
それは学生であるとか、子供であるとか、そんなラベルの違いで変わるようなことではない。
――平等こそが法の根幹だというなら、それこそが昧弥の言い分を肯定していた。
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