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悪逆の女帝 “スクラップミストレス”  作者: 黒一黒
第1章 悟りを開いた者たち
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 宇宙では音が鳴らないのと同じように、その闇にもまた、他者の言葉など響きようがないことを道祖(みちのや)は一目で理解させられた。


 しかも(たち)が悪いことに、こちらの声は届かないにもかかわらず、その闇からは他者を飲み込む呪詛が漏れ聞こえてくる。

 事情も、心情も、愛情も……すべては平等に無価値だと。何もかも考慮するに値しないと、それこそが真実であると知らしめるように……。


「いいか、道祖夕里(みちのやゆり)。我々、覚者(かくしゃ)は……人工精霊(タルパ)は、どれだけ高尚なお題目を立てようと、その実、他者が憎くてたまらない、どうしようもない(ケモノ)だ。

 自身の身勝手をまき散らし、押し通ることしか知らない。貴様がどれだけ期待を込めようと、これが変わることはない。――それは貴様自身もまた同様だ」


 耳孔を侵しながら脳髄に侵入してくる声は、その内容とは裏腹に、(うら)みや(ねた)み、(そね)みといった、鬱々とした感情は籠っていなかった。

 ただ淡々と、資料を読み上げるような無機質さで現実を突きつけてくる。


 道祖は、何か言葉を吐きだそうと口を何度か開閉したが、自分の中にわだかまるモノが言葉になることはなく、結局、黙り込む以外の選択をすることができなかった。


 それは、言葉が見つからなかったというより、もし返した言葉まで否定されたら、それをさらに否定することが自分にできるか、その確信が持てなかったからだった。


 歯噛みし、俯いた道祖に、昧弥(まいや)の言葉がさらに突き刺さる。


「何を理由に足掻いているのか知らんが……すべては徒労だ。

 表面上では人情やら正義を謳ってみせても、その根にあるのはどこまでも底のない我欲(エゴ)のみ……こいつらを見ろ」


 昧弥は腕を横薙ぎに振り、自身の背後と足元で絶望に意識を呑まれた三人を示す。


「こいつらが、正義感などという反吐の塊を振りかざし、割り入ってきて何をしたと思う?

 ――何もしなかった。いいか? 何も(・・)だ。その口から糞を垂れるように、有難いお言葉(・・・・・・)(のたま)いながら、周囲の有象無象に手を差し伸べさえしなかった」


 その目に侮蔑の色はなく、ただ羽虫に(たか)られたような煩わしさだけが覗いている。昧弥からすれば、この三人が(さえず)っていたことなど、蚊の羽音と同等の無価値さでしか響いていなかった。


 ただ、その不快さだけはいつまでも耳元に残っている。

 それが許せないと、唾を吐き捨てるように言葉を足元に投げつける。


「挙句、私が少しばかり撫でて(・・・)やったら、気持ち良くお寝んねときた……分かるか? 道祖夕里。こいつらは有象無象共を助けにきたのではない。マスをかくのを見せつけて、気持ち良く(・・・・・)なりにきただけだ。

 ――まったく、盛大に撒き散らしてくれたよ」


 そこまでを一息で吐きだした昧弥は、肩を揺らしながら喉を鳴らして笑った。

 明らかな嘲笑だが、それを非難する者がこの場にいるはずもない。

 無論、道祖にしても彼らを庇う言葉など持ち合わせてはいない。


 だが、このまま昧弥の言葉を受け入れるだけでは、この状況が好転しないことも明らかだ。

 故に、道祖は自身に利も論もないことを知りながら、それでも縋るような声音で昧弥に語りかけずにはいられなかった。


「――分かった。お前からすれば、前触れなく上から目線で断罪をかけてきたんだ。理不尽に思うのも無理はない……だが、そいつはまだ学生だ……子供だ。

 視野も狭ければ、間違いも犯す! たった一度の過ちで、何もかも失えというのはあまりに――ッ!」

「それを私が飲み込んでやらねばならない理由があるか?」


「そ、それは……そう……だが、……」


 それ以上続きはしなかった。あまりに呆気なく、道祖の言葉は途切れた。


 だが、それも当然だろう。


 法による秩序がほぼ機能していないこの島で、どうして善性を掲げて生きろなど言えようか。己が掲げるだけならいい。だがそれを他人に強制するなど、死ねと言っているのと同じだ。


 それは学生であるとか、子供であるとか、そんなラベルの違いで変わるようなことではない。



 ――平等こそが法の根幹だというなら、それこそが昧弥の言い分を肯定していた。



      ☆      ☆      ☆


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