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悪逆の女帝 “スクラップミストレス”  作者: 黒一黒
第1章 悟りを開いた者たち
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 その様子を睥睨しながら、昧弥は大きく鼻を鳴らした。


 どうにもこの女は、自身が教師であることに並々ならぬ執着を持っている。そうでなければ、あのような詭弁を受け入れ、自身の(カルマ)を抑えることなどできるはずもない。


 その様は、自身が求めるものとは違えど、覚者(かくしゃ)という存在が至るべき解脱した姿の一つであるように思えた。


 それは認めるところではあるのだが、この場においては感慨などなんの意味もなさない。


 昧弥は今一度、すでに事態が収束したかのように気を抜いている道祖に向けて、ここがどこで誰の前にいるのか、分からせるために声を上げた。


「――道祖夕里(みちのやゆり)。貴様、どうやら勘違いをしているようだな……。こいつらが今死んでいないというのは、今後も死なないという保証ではない。

 未だにこいつらの命は私の手の中にある。――この意味が分かるな?」


 その言葉に、跳ね上げられた道祖の顔には鋭さが戻っていた。


 緊張で強張った表情に、昧弥は表には出さず心中だけで満足げに頷く。

 道祖は、そこにどのような心境があるかなど、露と知らない。

 ただ、どこか試すような含みを感じさせる昧弥を見れば、このまま座っていても碌なことにならないのは火を見るより明らかだった。


 道祖は力の抜けてしまった足を叱咤して素早く立ち上がると、再びいつでも動ける体勢を取って昧弥を油断なく睨み据えた。


 ただ同時に、わざわざ忠告してくる以上、それがなされる確率は相当低いだろうとも考える。とはいえ、その言葉を疑いなく飲み込むのは、致死性の毒を飲むのと変わらない。


 警戒して、しすぎるということはない。


 常に最悪を想定して、その十倍は悪辣な結果を生みだしてみせるのが、目の前の堺昧弥(さかいまいや)という鬼畜非道の在り方だということは、この数十分で骨身に染みていた。


 事実、昧弥の背後にはまだ倒れていない、しかし見るからに危険な状態の生徒が三人いる。

 これを盾にでもされたら道祖は手を出すことができない。つまり、この場を支配し、裁可を下すのは変わらず、昧弥であるという宣言だった。


「……分かった。取引をさせて欲しい。そちらの言い値を払おう。だから三人を今すぐ開放して、他の生徒たちと一緒に救護室に連れて行かせてくれ……頼む」


 故に道祖が出した答えは、昧弥から視線を外し、深々と頭を下げることだった。

 加えて、それだけでも大概だというのに、あろうことか白紙の手形まで切ってみせる酔狂ぶり。

 それがどのような危険を孕むか、分からぬほど愚鈍でもあるまいに……。


 これには昧弥も開いた口が塞がらなかった。

 もっとも、表面を鉄皮面で覆った顔には変化など欠片も見えなかったが。


 どこまでも教師としてあろうとする馬鹿(・・)に、昧弥はある種の感動すら覚えていた。


 ――だが、ハイ分かりましたとはいかない。


 落とし前というのは、当事者につけさせるから筋が通るのだ。いくら学園の長が名乗り出たところで、それは揺るぎない事実だった。


 故に昧弥は分かりやすく見せつけてやることにした。


『グッ!? ギィィ……』


 昧弥は左手に握っている鎖を強引に引き寄せ、人工精霊(タルパ)を自身の下へひれ伏せさせた。人工精霊(タルパ)は苦しげに顔を歪ませるが、抵抗する力はすでになく、なされるがまま昧弥の足元に結紀と共に倒れこむように(くずお)れる。


 そして、起き上がろうともがく人工精霊(タルパ)の後頭部めがけて、(おもむろ)に足を振り下ろした。


 ゴッと、重く濁った音が響き、その音に耳にした道祖は顔を上げ、すぐに目を見開いた。


「なっ!? 待て! 何を」

「――黙れ」


 しかし、非難の声は響く前に、昧弥のたった一言によって完全に封殺された。


 見たものを切り裂くような鋭さで、昧弥の視線が道祖を射抜いていた。

 たったそれだけのことで動けなくなった道祖に、昧弥は徐に声をかける。


「……道祖夕里。やはり貴様は何も分かっていない」


 動揺を隠すこともできずにいる道祖に、これこそが人工精霊(タルパ)の扱い方だと知らしめるように、昧弥は足の裏でその後頭部を念入りに踏み躙る。



 その瞳には、血など通いようもないと思わせる、冷たい漆黒が広がっていた。


      ☆      ☆      ☆


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イラストなんかも載せてますので、

お暇な時にでも覗きに来ていただけたら幸いです。

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