25
「あ゛ぁあ゛あぁぁあああッ!?!」
『ガァアアアァアァアアアッ!?!』
結紀と人工精霊の悲鳴が重なった。
何が起こっているのか、二人に分かるはずもない。
ただ、自分たちの最も重要な何かが、己を形作っている根源的な何かが、二人を繋いでいる何かが。侵され、汚され、殺されようとしている。
それだけが確かなことだった。
「――クッ……ククッ、クハッ! ハッハッハッハッ!!!」
しかし、二人分の慟哭は、たった一人の狂笑に搔き消される。
――見下ろし、蔑み、嘲笑う。
骸に囲まれ、地獄の主は生者を嗤う。その瞳は、この世の悪徳をすべて詰め込んだかのように、暗い喜びに満ちていた。
「ハハハハハハハハハハ――――――――――――――――――――――ッ!!!」
笑声は学園中の隅々にまで木霊した。
それは産声でもあった。
ここに、学園を、島を、世界を、恐怖で埋め尽くす悪逆があると知らせる、地獄からの啓示だった。
その時、声を聞いた者は皆、自ずから運命の手を取った。
もはや希望はない。
多くの年月と犠牲を積み重ねた果て、絶海の孤島に築かれた砂上の楼閣、現の彼岸、覚者共の孤独と平穏の島。
それは、今この時を以って儚くも幻想と消える。
それが、誰であろうと止めようのない、真実だった。
「――堺昧弥ぁ!!」
――しかし、それと知って、座して待つばかりが人ではなかった。
なんの前触れもなく、まるでその場に空中から染みだしてきたかのように、声の主は忽然と昧弥の背後に現れた。
その声は壮絶な怒りに震え、声音だけで人が殺せそうなほどの殺意を感じさせた。
しかし、名を呼ばれながら、昧弥は返事をするでも振り返るでもなく、鎖を掴んでいる方とは反対の手を背後に向かって無造作に振り抜くことで答えた。
――ガギィイィィッ!
巨大な鋼鉄同士をぶつけ合ったような、耳障りな爆音が響いた。
しかし、派手な音で周囲を揺るがしながらも、衝突した当人たちは掠り傷一つ負うことなく、両者の間で不可視の力が互いの威力を消滅させ合っていた。
「チィッ!」
襲撃者は盛大に舌打ちをしながらも、このままで拮抗するばかりで決定打にならないことを、僅かなりにも冷静な部分の残った思考で弾きだす。
すぐさま拮抗している腕から力を抜き、押し込まれる勢いに逆らわず、吹き飛ばされるのを利用して距離を取った。
空中で翻り、危なげなく足から着地する。
その間も一切昧弥から視線を切らすことなく警戒したが、当の昧弥は未だに背を向けたまま、チラリとも視線を向けることはなかった。
湧き上がる憤怒をなんとか抑え、襲撃者はその背に向かって声をかける。
「堺昧弥。これはどういうことだ? 私は確かに、お前が学生として学園で過ごすと、そう宣言したと思ったんだが……間違いだったか?」
その声に、昧弥はようやく半身だけ体を向けた。
悪辣な笑みを浮かべ、肩越しに視線を向けた先には、つい十五分ほど前に対面していた顔が、冷え冷えとした殺意を滲ませていた。
「何も間違ってなどいないとも、道祖夕里。私は正しく、ここの学生だ」
「……なら……なら! これはいったいどういうことだッ!?」
道祖は腕を振り払い、廊下に広がる惨劇を指し示す。昧弥を除き、死屍累々と転がる生徒たちの残骸。これを見逃して何が教育者か。
荒く息を噴きだす相貌に、昧弥は鼻で笑って答える。
「――は。何を言うかと思えば……あまり退屈させてくれるなよ、道祖夕里。貴様の目は飾りか? ならばそんなところに晒しておく必要もあるまい。額に入れて、学園長室の壁にでも飾っておいたらどうだ? 過去に囚われる貴様にはお似合いだろう」
「なんだと!?」
学園長室では抑え込めていた怒りだが、この惨状を前にして冷静になれるほど、道祖は感情を切り捨てられてはいなかった。
そもそも、彼女もまた人工精霊を抱える覚者の一人。
内に秘める獣性は凄まじく苛烈であり、きっかけさえあれば理性など容易く食い破る。
今まさに、その獣が鎖を引き千切ろうと、顔を半ばまで覗かせていた。
端的に言って――ブチ切れそうだった。
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