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同時に、縛られていた者たちは糸を切られた操り人形のように地面に投げだされ、地に伏したままピクリとも動かない。
その様は、物言わぬ骸が無秩序に列をなして跪き、この地獄の主を崇め奉っているかのようで……。
それが怖気を湧き上がらせる光景であるのは間違いない。だが同時に、彼らの現状がどうであれ、これ以上の苦しみに嘆くことはなくなったことも確かだった。
それを素早く理解した結紀は、僅かだけでも安堵の息を吐こうとして……息ができなかった。
「――ァッ!?」
それは両隣の二人も同様だった。
異なる色の肌を一様に青褪めさせ、喉を引き攣らせながら喘ぐ。しかし、大きな鉛を詰め込まれたかのように、空気は僅かにも喉を通らない。
目尻に涙を浮かべ、口を戦慄かせ、喉に穴を穿たんばかりに爪を立てる。
――どうか一吸い、ほんの少しでいいから空気を……ッ!
しかし、三人の体はその意思をたやすく切り捨てる。
まるで一瞬のうちに体の操作権を他人に握られてしまったような感覚。
脳裏を掠めた恐ろしい想像に、三人は体の内で恐怖が爆発的に膨れ上がっていくのを感じた。
その暴力的な感情に飲まれまいと抗う三人の足元に、影が落ちる。
同時に顔を跳ね上げた三人が見たのは、いつの間に距離を詰めたのか、息遣いが感じるほど近くまで迫った、昧弥の顔だった。
「―――」
――感情が腐れ堕ちるのを感じた。
結紀は不運にも、感情の起伏を見せず無機質に見下ろしてくる、その奈落の穴のように底知れない黒の瞳を、真正面から覗き込んでしまっていた。
常ならば、喉が裂け、血を吐いても、なお止まらない金切り声を上げていただろう。しかし、噴火寸前の火山のように衝き上がってきた恐怖が、声になって噴きだすことはなかった。
恐怖は体から一滴も零れることなく、冷え固まったタールのようにへばりついてくる。まるで、この責め苦を永遠とするため、自身の内に根を下ろそうとしているかのように……。
刻一刻と死んでいく結紀の心情など気にも留めず、昧弥は脂汗が伝い落ちる顔を眺めながら、目を細めて独り言ちる。
「――凡庸だな。やはり、貴様ごときが私の業の圧に抗うだけの力を持つとは考えづらい。だが、直接向けたものではないとはいえ、僅かでも抗って見せたのも事実。ならば……」
昧弥は結紀から視線を切ると、顔は向けずに視線だけをスッと右左に流し、少年と同じように自身の圧に飲まれて震えている少女たちを睥睨した。
「やはり、共存関係にある他者が鍵と見るのが妥当か……。ある種の相互結合回路を繋げ、互いの精神強度を底上げしたのか? ……ふむ、なかなかに興味深い」
ユクもココも、視線が向けられたことを明確に察知しながらも、けして目を合わせないように漠然と正面を見つめ続けている。にもかかわらず、二人の顔色は青を通り越し、死人のような土気色に染まっている。
状態が悪化しているのは明らかだった。
その様子に、少女たちの精神状態が少年と同調するように動いているのを確信し、一人納得したように首肯して、一歩後ろに引いた。
昧弥は三人を一瞥の内に収め、顎に手を添えて思案を巡らせ始める。
間を置かず、思考によって研磨されるように鋭く細められた瞳の奥で、好奇心を種火に仄暗い眼光が灯った。
「だが、そうであると仮定するなら……」
その光に三人は見覚えがあった。
どこであったか、その記憶の詳細は各々違う。しかし、その本質は間違いなく同等のもの。自分たちは確かに、あの瞳に宿る暗い光を知っている。
――あれは……物を見る目だ。
自分たちを人ではなく、物として映している。
そうだ、あれはヒトデナシの――。
「――支柱となるものを折れば、他も連鎖的に崩壊する……ということになるな」
裂けるように口角が吊り上がっていく。
それが、三人の目には嫌にゆっくりと感じられた。
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