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「業が全然止まってくんない……」
少女は小柄な体躯をさらに縮めながら結紀に訴える。
鋭く尖らせた目蓋の内で、琥珀色の瞳が不安げに揺れる。
その目には、数秒後に自分を飲み込む惨劇がありありと浮かんでいるようだった。
全身を流れていく汗が異様に冷たく感じられる。
せり上がってくる氷水に指先から少しずつ浸かっていき、末端から熱が抜けていくような恐怖に、体が震えるのを止められなかった。
「――ッ!? 知らない、こんなの……こんなの今までなかったじゃん!」
自身の業が、耳を覆いたくなるほどのけたたましさで、間断なく喚き散らしてくる。
――今すぐここから逃げろ、と。
しかしその選択肢は、隣の少年がこの状況に背を向けることがない以上、自分が選ぶこともまたあり得ない。
逃げようと引けそうになる足を叱咤し、嚙み締めた歯がギシと軋みを上げた。
その様子に、結紀を挟んで反対側に立っている、全体的に色素の薄い少女も気怠そうに息を吐き、口元を苦々しく歪めながら微かに頷いてみせた。
「ユクに同意するのは不本意だけど、正直立ってるだけでも苦痛」
「ちょっとココ! 不本意って何よ!?」
黙っていれば儚げな印象の雪肌白髪の少女、ココが小声で吐いた毒に、もう一人の見るからに活発な黒髪褐色の少女、ユクが食ってかかった。
二人の視線が結紀を挟んでぶつかり火花を散らす。その普段通りのやり取りに、結紀は僅かなりにも気が紛れたのを感じ、強張っている表情が微かに緩んだ。
未だに緊張に支配されてはいるが確かに浮かんだ笑みに、二人も無理やりにでも口角を吊り上げてみせる。
「正直、怖くて仕方ないんだけど……でも、それはこの人たちを見捨てていい理由にはならない!
二人とも、無茶なお願いなのは分かってるけど……つき合ってくれる?」
「当ったり前じゃん! 一人になろうとしたって許さないかんね!」
「確認不要。貴方がいる場所が、私のいる場所だから」
競うようにかけられた二人の言葉は、明らかに不足している力を補ってくれる勇気を、心の底から湧き上がらせてくれた。
顔を見合わせて頷き合い、三人は揃って、悪逆に抗うための一歩を確かな足取りで踏みだした。
「……ふむ」
その段になってようやく、昧弥は背後に立つ、矮小な群れを意識の下に置いた。
体を僅かに傾がせ、ゆっくりと煙を燻らせながら肩越しにその三人組を見やる。
どう高く見積もっても、自身に歯向かうには何もかもが不足している未熟な、相手にする価値など欠片もない下作ども……。
にもかかわらず、彼らは、常人では意識を保っていること自体が奇跡の空間にいて、恐怖に身を竦ませながらも膝を屈さずにいる。
――その光景が昧弥に一抹の興味を持たせた。
目を細め、三人を一人ひとり検品するように無遠慮な視線で上から下へ流し見る。
二人の少女は、どちらも一五〇にやや届かない小柄な体躯から幼さを感じさせることを除き、見てくれから纏う雰囲気まで、何もかもが対照的だった。
ユクが生命力に溢れた美しさを惜しげもなく外へさらしているのに対し、ココは触れることが躊躇われるような神秘的な美しさを内に向けて凝縮した印象を与える。
光を受けて艶めく、しなやかな生命力を感じさせるセミショートの黒髪。絹の生糸を思わせる無垢な色を柔らかく波打たせながら、背の中ほどまで届くロングの白髪。
キリッとした眉と大きなアーモンド形の琥珀色の瞳が目を引く快活な顔つきと、長い前髪が幕のように顔の半分を覆い、その隙間からアメジストのような薄紫の瞳が覗く陰鬱な顔つき。
見れば見るほど、共通項など背丈くらいしか見つけられないような二人だが、どうにも一人の少年、結紀への好意という点で競うくらいに想いを同じくしているようだった。
「……なるほど」
三人の様子から、この群れの相関関係を確かに見て取り、昧弥は振り返ることなく、その場から動かずに靴底を地面に打ちつけた。
――タンッ
それと同時に、未だに悲鳴を上げ続ける有象無象に取り憑いていた黒縄が、音もなく宙へ溶けるように消え失せた。
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