17
ドンッと、床に衝突した何かは大きく建物を揺るがし、その衝撃によって天井から建材の破片がパラパラと降り注いだ。
コンクリート製の床に刻まれたバスケットボール大のへこみが、その威力の高さを物語っている。
見るからに非現実的なその現象に、しかし二人は一切の動揺を見せることなく。
それどころか気に留めるようなことではないとでも言うように、チラリとも目を向けなかった。
前触れのない明らかな敵勢力の襲撃。その只中に晒されているにもかかわらず、ダニアは昼食の時間を告げるような穏やかさで主の問に答える。
「五分と二十一秒にございます。ご主人様」
その返答に、昧弥は砲弾が飛んできた先を見据え、歯を剥きだしにして獰猛に笑った。
「一服が終わる前に方がつきそうだな……。
では、ダーニャ。私は少々散歩をしてくる。なに、軽くその辺を歩くだけだ。お前は昼食の用意をしておけ、そろそろいい時間だろう」
「承りました。それでは、お時間になりましたらお迎えに上がります。ご主人様。
それまで――ごゆるりと」
ダニアが頭を下げたままスカートの裾を摘まみ、略式のカーテシーにて見送りの礼とする。
それに対して昧弥は鷹揚に頷き、悠々と歩みを再開させた。
その進行を阻むように、再度目に見えぬ揺らぎが迫る。しかも一度目とは異なり、複数の塊が大砲さながらの威力と速度で飛来する。
常人には知覚すらできない、矢継ぎ早の砲撃。
その脅威にさらされているはずの昧弥は、言葉通りの、まさしく散歩に出る気軽さで、ふらっと迫りくる死に向かっていき――、
「――では、行ってくる」
次の瞬間、その場から消えていた。
まるでそこにあったのは幻であったかのように、音もなく消失した昧弥は、その時にはすでに十メートル先を駆け抜け……いや、歩み抜けていた。
床を踏み抜き、クレーターを作るような壮絶さはない。
ただ静かに、水の上を滑っていくような滑らかな挙動。
通常の一歩ではあり得ない距離を進みながら、それが目にも止まらぬ速さと、塵一つ舞い上がらない穏やかさで行われている。
人体構造も物理法則も無視したような動きは明らかに尋常ではなく、それでいて舞踊の足運びを思わせる優雅さがあった。
昧弥は右手に煙管を持ち、灰を落とさない器用さまで見せながら、不可視の砲撃を潜り抜けていく。
その身のこなしは、人の域を超えた業を行使する覚者からしても、理解の範疇を軽く超えるもので、音もなく迫りくるその姿はまさに死そのものだった。
「――近づけるなァアァアアアッ!!!」
それは激ではなく、悲鳴だった。
昧弥が進む先、廊下の突き当たりに生徒たちが一塊に陣取っている。クラスの半数以上がその場に集っていた。
誰が中心となり組織したとわけでもない。ただ『死にたくない』という一心を同じくしたことが、彼らを烏合の衆から一所に向かって共に邁進する群へと昇華させていた。
――しかし、悍ましき悪逆が無慈悲にすべてを蹂躙する。
戦闘になどなるはずがなかった。
不可視の砲撃だけではない。昧弥が有効射程距離位に入った瞬間、火球が、ガラクタを寄せ集めた鉄球が、統一性の欠片もない砲弾が雪崩のように襲いかかってくる。
しかしそれらの一つでも、昧弥の羽織にすら掠ったものはなかった。
昧弥はその不可思議な動きだけで、死の雨の中を傘もささずに突き進む。
「近づかれたらお終いだッ! それまでに、なんとか……ッ!?」
すでに懇願にしかなってない、その悲鳴は――叶えられるはずもない。
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