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「業の詳細は不明、人工精霊に至っては検出すらできなかったとある……お前、何をした?」
道祖は調書の内容を確かめるように指でなぞり、睨みを効かせる。それに対して不遜な態度を変えず、昧弥はティーカップをダニアに下げさせながら返した。
「これから検査所にはお上品に人形でも飾っておくんだな。端から話にならないなら、漏らさないだけ人形の方が幾分かマシだ」
つまり貴様らは糞だ、と言外に宣い、昧弥は口角を吊り上げる。あからさまな挑発に道祖は静かな怒りを腹の底に溜めながら、平坦な口調で返した。
「……彼らは国が認めた資格を持つ専門家だ。彼ら以上にマナスや人工精霊に精通している者はいない。彼らがどれだけ狭き門を通ってきているか知らんだろう?」
「だから貴様らは下作だと言うんだ。資格になど意味はない。物事を外からしか見ない、教科書との答え合わせしかできない貴様らには、その程度が限界ということだ。所詮は人工精霊がなんなのかも理解できない愚物。貴様らごときで私を測ろうなどと……思い上がったものだな」
昧弥が頬杖をつきながら目を細める。その瞳に戦意は欠片も含まれていない、そこにあるのは眼前を無遠慮に飛び回る羽虫に対する乾き切った殺意のみ。
――虫と戦う人間などいはしない。
そう目で語る昧弥。
有象無象であれば、死を覚悟する間もなく一瞬の内に醜悪な怖気に飲まれ、正気を失っていることだろう。しかし、道祖はその恐怖に真っ向から抗ってみせる。
両者の視線が絡み合い、空間が軋む。それは気迫による幻覚などではなく、現実として二つの世界がせめぎ合っているかのように、二人の中間で景色が歪んでいた。
まるでガラスにヒビが入っていくように、それは世界の崩壊を予期させるにたる、確かな歪を広げていき――道祖が視線を外したことで止まった。
「……はぁ~。止めだ、止め! これ以上やっていたら部屋がもたん。……だが」
顔を俯かせ、大きく息を吐きながらガシガシと頭を掻きむしる。――しかし、道祖にも学長としての責務と矜持がある。
故に、引き下がりはしても下出になることはあり得ない。
「いつまでも隠し通せると思わないことだ」
道祖は髪の隙間から野獣のごとき眼光を覗かせて、そう釘を刺し、威圧感を収めた。それと同時に、塞き止められていた悍ましい気配が部屋を埋め尽くす。
空気が腐り、床が汚濁に埋まり、すべてが地獄へと塗り替えられていく。
その抗いようのない気配に、道祖は表情を硬く強張らせた。
「やはり尋常ではないな。少し緩めただけでこれか……。私と同等か、あるいはそれ以上か」
「……フンッ」
何気ない言葉に昧弥は神経を逆撫でられ、苛立ちを込めて鼻を鳴らした。
「驕るな。私が貴様程度に力むなどあり得ん」
その言葉に道祖は目を見開き、歯噛みする。言われたままを信じるほど純真であるはずもないが、それでもあり得ると思わず頷いてしまいそうになった。
それ程に、昧弥から今なお漏れだす業の底が見えなかった。
「まぁ少しは貴様も肩の力を抜くといい。顔が強張っているぞ?」
「……ッ!」
歯を剥きだして笑う昧弥に、小さく舌打ちをする。維持で覆い固めていた顔に僅かな亀裂が走り、恐怖が覗いていた。
それを察した道祖は瞬時に感情を押し殺し、悟られないように小さく息を吐きだす。
これ以上弱みに感づかれるのはまずい。それでなくとも相手のペースに乗せられている、このままでは危険を冒してまで対面になるように呼び出した意味がなくなってしまう。
ここが無理のしどころだ。
道祖は意趣返しの意を込めて無理矢理に笑みを浮かべみせた。
腹に力を入れ――ほざけ、と。
「至高位である如の位を持つ私の全力を児戯扱いか。……やはりあり得ないな、これ程の業を持ちながら人工精霊を生みだせていないなど……冗談にしても質が悪い。これでは子供も笑わんぞ?」
数拍、二人の視線が絡み合い――次の瞬間弾けた。
「……ふ、くくっ。ハッハッハッ!」
脅しとも取れるその言葉を昧弥は笑った。あまりに稚拙な見栄。その涙ぐましい努力には思わず拍手を送ってやりたくなる。
その態度を隠すことなく、昧弥は肩を揺らしながら体を仰け反らせ、背後のダニアへ嘲笑に歪み切った顔で話しかけた。
「聞いたかダーニャ? 私のジョークは子供受けが悪いらしい! こいつは傑作だ! ああ、傑作だともッ! どうりでなぁ……くくっ。ダーニャ、飴玉は持っていたか? どうやら学長殿はいじけていらっしゃるらしい」
「なぁッ!?」
あんまりな揶揄に、道祖の顔がにわかに熱を帯びた。その顔を見てさらに笑みを深めて上機嫌に体を揺する昧弥に、ダニアが悲痛な面持ちで返した。
「まことに申し訳ありません。私の完全な準備不足にございます。次の訪問からは常備するよう徹底いたします」
「ああ、そうしてくれ」
息の合った主従のやり取りに、頬が一層熱くなるのを感じながら、道祖はキッと視線を尖らせて二人を射抜いた。しかし、そんな子供のじゃれなど意にも介さず、昧弥は笑みを広げたまま視線を戻した。
「ここまで馬鹿笑いをさせられたのは久しぶりだ。今の私は機嫌がいい。もしかしたら質問によっては答えてやらんこともないぞ? ん?」
――その言葉に道祖は一息で冷静さを取り戻した。
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