48 伝達事項
「昨日、始業式前日ってことで、ケミホ中学の全職員が学校に集まったんだけどね。
文化祭も近いから、全ての出し物を対象に、念のための最終確認が行われたの」
「何の確認を?」
「えっ。ええとね。あ、安全性とか」
シュレナが軽く質問を挟んだだけで、早くも口調を崩すサミヤ。
「どういう意味ですか?」
同様に、たった二回目の質問で、自分の声が早くも震えていることに気付いたシュレナ。
(うそでしょ。この嫌な流れ。まさか……)
話の先をシュレナに読まれたことを、サミヤも悟ったらしい。むしろ、吹っ切れたかのような早口で、
「来場者や、生徒に危険を及ぼすおそれがないか、ということだよね」
「私の作ったロボットが、そうだと言いたいのですか?」
シュレナは切り返す。
重い沈黙は、状況を理解させるには充分であった。
シュレナの勘の鋭さに、敬愛するサミヤ先生との信頼関係も加わって、通じ合うものがあるのだ。
サミヤは、
「本当にごめんなさい。顧問として力及ばずで。
結論を先に言ってしまえば、職員会議決定としては、今年の文化祭に理学研究部のロボット出展は許可できない、と」
一瞬、足もとの床が消えたかと錯覚した。それでも倒れなかったのは、同時に頭へ血が上り、妙なバランスが保てたからだろうか。
「何でこんなギリギリに。ふざけんな!」
下を向き、怒鳴るシュレナ。
のどに掛かった高い声は、かすれて濁り、プレハブの壁や天井をワーンと反響した。
更なる沈黙。フーッ、フーッと、シュレナの荒い鼻息だけが聞こえる。
こみ上げる怒りを早めに吐き出したためか、シュレナは少し落ち着きを取り戻し、
「……済みません」
と、上目づかいにぽつり。サミヤは、
「いい。お怒りはもっともだし、悔しいのは私だって一緒」
だが、直後に首を振り、サミヤはこう付け足す。
「ううん、この言い方はずるいよね、みんなにいい顔してて。
私も、上を説得できなかったし」
(それだって弁解じゃん!)
胸の中で叫ぶシュレナだが、口には出さないでおいた。
実は、夏休みに入る前に「ロボット展示は前例がないので、最終決定は二学期まで待ってほしい」と、サミヤから告げられてはいたのだ。したがって、厳密には約束違反ではない。
もっとも、「まず心配ない」がサミヤの見解ではあったが……。
もう一つ、シュレナが今、比較的冷静でいられる理由。
それは、自身にも思い当たる節があったからだ。そのことを口にする。
「や、やっぱり、市民ギャラリーの件が引っかかったんですか?」
すると、サミヤのまなざしが悲しげに和らぐ。まるで、「自覚はあったんだね」と哀れんでいるようにも見えた。
シュレナは泣きそうになる。
その表情は、「しょせんはサミヤも一教師にすぎず、最終的にはシュレナに味方してくれない」ことを物語っていたからだ。




