四十八日目
エルフ達を救った詩音達はエルフであるメティスと共に自分達が住んでいるキャリティアに戻ってきた。
新たな家族であるメティスと共に過ごすなか、シロットが唐突に尋ねた。
「そういえばシオン様とセル様はどのように知り合ったのですか?」
あまりにも唐突な質問。だが、気にならないと言えば嘘になる。何事も完璧にこなし主人である詩音に絶対の忠誠と愛を捧げているセルとレベルがMAXの詩音。二人のなれそめ馴れ初めがどんな感じだったのか気になる。
「あーそういえばまだ皆に話してなかったね」
「そうですね。私とご主人様の愛の出会いを」
恥ずかしくもなく、むしろ誇らしげに告げるセルに苦笑しながら詩音はセルの出生について語る。
「セルはメガレイアという街の王族なんだよ」
「今は姓もない平民ですけど」
セルの出生を聞かされてシロットとトレイヤは目を見開き―――
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっ!!?」
一拍空けてシロットが驚きの声を上げた。
「え、なに? それってそんなに驚くことなの?」
「当り前ですよ!!」
人間の事情を良く知らないメティスは急に驚きの声を上げたシロットに驚きながら尋ねるとその疑問をトレイヤが答えた。
「平民、貴族そして王族。人間社会の頂点に立つ人達が王族なんだよ~。貴族より立場も権力も強いからね~シロットちゃんが驚くのも無理はないよ~」
「エルフの里でいう長のようなものね」
「そうだね~」
とりあえずは話を理解できたメティス。セルは自分が何故ここにいるこれまでの経緯を皆に話した。
「私はメガレイアの街で王族として生を受け、英才教育を受ける日々を送っていました。しかし、ある夜、私は〈百夜の貪狼〉に攫われたのです」
「〈百夜の貪狼〉って確か数年前に世間を騒がせた盗賊ですよね………………? 盗み、人攫い、殺害まで悪行の限りを尽くす残忍で卑劣な盗賊団。私も冒険者の時に聞いたことがありますよ」
「私も~」
聞き覚えのある名前に反応する。
「私は誘拐されてこの首に奴隷の首輪を嵌められてどこかに売られそうになったところを助けて下さったのがご主人様なのです」
「まぁ、偶然だったんだけどね………………………」
詩音は二年前のあの時、この世界に転生した時の事を思い出す。
青白い空の下で目を覚ました詩音。
「ここは……………………森?」
女神アウルから特典を授かって異世界に転生した詩音が最初に目を覚ました場所は森の中だった。
「女神様、転生してくれるならせめて人が住む街の近くにしてくださいよ………………………」
危険がいっぱいの異世界。転生してすぐにあの世逝きは流石にしたくはない。そんな愚痴を溢しながらとりあえずは動くことにした。
森を抜けてどこか道が整備されている場所にでも出れば人と出会えるかもしれないと思って動き始める。
道なき道、獣道を歩いていると詩音の耳に人の声が聞こえた。
「よかった。誰かいる………………………」
人の声が聞こえて助かったと思いながら親切な人だといいな、と楽観的な考えを持ちながら声がする方向へ歩いていく。
「え………………?」
そこには大きな荷馬車とガラの悪い男達が休憩していた。
「頭! 今回も大儲けですね!」
「ああ、俺達にもツキが巡ってきた」
森の茂みから男達の様子を見て詩音は冷汗を流しながら思った。
「もしかしなくても、盗賊…………………?」
それもざっと見ただけで十人以上はいる盗賊団。全員が武器を携えて酒を片手に飲んでいる。
うわぁ、と思いつつ異世界で最初に出会った人が盗賊とは自分の不運さが恨めしくなる。
幸いにも盗賊達は詩音の存在に気付いていない。ここは静かにこの場を立ち去ろうと踵を返す。
「いや、離して!」
女性に叫びにその足はぴたりと止まった。
振り返ると先ほど頭と呼ばれていた男性がドレスを着ている銀髪の女性を荷馬車から連れ出していた。しかし、その女性には首輪と鎖がある。
「奴隷………………?」
なんとなくそうでないかと、思って呟いた。しかし、間違いではないだろう。
だが、問題はそこじゃない。今まさにその女性は犯されようとしている。必死に抵抗してはいるも男の力の前には何の意味もなさない。むしろ逆にその反応を楽しんでいる。
「――――――っ」
咄嗟に出ていこうとした足が止まる。
転生前と同じだ。女子生徒を助けようとして自分は強姦魔に殺された死の恐怖が見えない鎖となって詩音の動きを止めている。
足が震える。身体が竦む。動けない。
もし、出ていけば確実に殺される。こちらは武器なんてないし、戦闘経験だって皆無だ。なにより相手は十人以上いる。勝ち目なんてない。
言い訳染みた言葉が脳裏を過る。そんな時だった。
「………………………………たすけて」
「!!」
助けを求める声が詩音を動かした。
「やめろ!!」
無謀にも詩音は姿を現した。盗賊達も突然現れた詩音の存在に気付いて視線を向ける。
「なんだ? ガキか?」
「ヒュー、なんだよ、可愛いらしいガキじゃねえか」
「ぎゃはは、お嬢ちゃん。こんなところで迷子でちゅかー?」
一瞬だけ驚くも相手が女の子のような容姿を持つ詩音だと知って馬鹿にするように嘲笑う。
だが、そんなことはどうでもいい。この盗賊達は言ってはいけないことを言った。
「俺は男だ!! 可愛らしくもなければ、お嬢ちゃんでもない!!」
『………………………………………………え?』
詩音の告白に盗賊も犯されそうになっている女性も目を丸くする。
「いやいやいや、嘘だろ? え、マジ?」
「嬢ちゃんにしか見えねえ……………」
「やべぇ、俺、新しい扉開いちまったかも」
「戻ってこい! それは開いちゃいけねえ扉だ!」
詩音が男という事実に驚く盗賊達。一部では開いてはいけない扉を開けてしまった仲間を必死に呼び戻そうとしていると同時に詩音は貞操の危機を感じた。
気を取り直した盗賊は武器を持って詩音に近づく。
「あ~まぁ、ボク? 俺達が誰だか知らねぇで正義の味方ごっこしてんなら諦めな。俺達は泣く子も黙る〈白夜の貪狼〉だぜ? 俺達の前に出てきた以上どうなるか覚悟はできてんだろうな?」
「おい、傷付けんなよ。そのガキ、変態貴族の商品として高く売れそうだからな」
「わかってますよ、頭」
笑う盗賊達。詩音はもう恐怖でどうにかなってしまいそうだった。でも―――
視線を女性に向ける。すると何か口パクで伝えようとしている。
に、げ、て。読唇術を会得していないから予想でしかないけれどそう言っている気がする。自分も危機的状況なのに他人を心配する人を放っておくことはできない。
「正義の味方か…………」
「あぁ?」
別にそんなつもりはない。ただ、勝手に身体が動いてしまうだけの話だ。
安全・堅実がモットーの詩音には正義の味方は務まるわけがない。だけど―――
『いいかい? 他の人に馬鹿にされても、後で後悔することになっても自分が正しいと思ったことはやり遂げろ。お前はそれができる子だ』
母の教えが脳裏を過る。
「そうだったよね、母さん」
詩音は覚悟を固めて拳を作って眼前までやってきた盗賊を殴る。
「え?」
呆気をとられた。その言葉が出たのは盗賊ではない。詩音だ。何故なら詩音が殴った盗賊は投げられた剛速球のように他の盗賊達の横を過って木に衝突する。
驚く詩音と盗賊達。数秒静寂が続く中で最初に声を上げたのは盗賊の頭だ。
「全員武器を取れ! 奴を殺せ!」
明らかな高レベルだと知った頭は警戒を上げて捕縛から殺害へ変更。部下達も剣や槍を持って一斉に詩音に向かってくる。だけど―――
(遅い……………?)
その動きはまるでビデオのスロー再生を見ている以上に遅く感じた。正直、蟻の方が早いんじゃないかと思えるぐらいに。
そこで詩音は思い出した。自分が女神アウルから授かった特典を。
この世界はゲームのようにレベルが存在している。そして今の自分のレベルはMAXだ。
つまり、最強だ。
詩音は盗賊を蹴る。その動きは素人そのものだが、レベルMAXの詩音の動きを盗賊達は目で追うこともできずに蹴り上げられ、星となる。
軽く殴るというよりも当てるだけで盗賊は簡単に吹き飛び、素手で鉄の武器も壊してしまう。
文字通りの無双。詩音は瞬く間に盗賊団を倒し、最後に残った頭を見る。
「く、来るな! こいつがどうなってもいいのか!?」
女性の喉元にナイフを当てて人質にする頭だが、頭が詩音を認識するより前にナイフを持つ腕を掴まれる。
「へぇ?」
間抜けな声を上げる頭。詩音はナイフを指で叩き折ってその指を頭の首に当てる。
「や、やめ」
「さよなら」
懇願する頭に詩音はお別れの言葉を言うと頭は泡を吹いて気を失った。ハッタリが通じてよかったと胸を撫でおろす。
「あ、あの……………」
「あ、大丈夫でしたか? 怪我とかありませんか?」
「は、はい…………」
恐る恐る声をかけてくる女性に怪我がないことに安堵する詩音に女性は頭を下げて感謝の言葉を口にする。
「助けて下さり本当にありがとうございます。私はセル・アミィ・ハルファス。メガレイアで代々続く王族の一人です」
「えっと、詩音と申します………………」
それが詩音とセルの初めての出会いだった。




