四十七日目
無事にエルフ達の新しい里が完成し、問題であったモンスターの襲撃も取り除いてエルフ達は新しい場所や家で平和な生活が送れるようになった。
それも全ては自分達が嫌っていた人間である詩音のおかげだ。
始めは信用すらしていなかった。だが、同胞であるフローリィを奴隷から助けてくれた恩義がある故に仕方がなく詩音の話に耳を傾けた。
モンスターの大群が集落を襲撃するから逃げてくれというとても信じられない話にエルフ達はまた自分達を騙すのではないか、と疑った。
だが、今思えばそれは真実であった。
エルフの長、その孫娘であるメティスもそれを目視して尚且つ魔王を倒したという話に誰もが動揺した。
その時、動揺と同時に恐怖を覚えた。
魔王を倒せる人間が自分達に脅威を向けるのではないか? と。
そうなれば抗うこともできずに死、よくて奴隷だ。
不安を覚え、恐怖に震えるエルフ達が次の日に詩音を見たら、どういうわけか死んだ目で女装していた。
そして黙々と作業をする姿になんとも言えない気持ちになるエルフ達。
遠目で一人の使用人がどこか満足そうにしていた。
不安も恐怖も抱きながらもそれ以上に戸惑う。でも、どう見ても何かしてくるようには見えなかったので自分達も仕事に入った。
次の日、また次の日。
詩音はまた別の女装姿で仕事はするも、エルフ達をどうこうするような気配は一向になかった。
フローリィに関しては逆に詩音を慰めに入っている。
日に日に詩音に対する警戒心は薄れ、それどころか敬意を払う様になった。
種族も違い、顔や名前も知らない相手を無償で助けにきた。いや、たった一人の少女を助けようと動いてくれた詩音にエルフ達は敬意と感謝を込めて―――
里の中央に詩音の石像を立てた。
「どうして!?」
それを聞いて、いつの間にか立てられた石像を見て詩音は声を荒げた。
「エルフは手先は器用よ? 剣や鏃だって自分で作るのだから石像ぐらい作れるわよ?」
「違う! そういう意味じゃなくてそうして俺の石像を作ったの!? 恥ずかしいから止めてくれ!」
自分の石像を見て悶える。その横にセルが石像の下に刻まれている文字を読み上げる。
「『エルフを救った英雄シオン。我等は彼に感謝を忘れない』ですか、ふふ」
「英雄シオン! すっごく格好いいですよ!」
「あああああああああああああああああああああああああああやめろぉぉおおおおおおおおおおおッッ!!」
剣を空に向けて掲げる英雄像である自分の石像に詩音は頭を抱える。
おまけにその傍らにはメティスと思われるエルフの石像もある。
「エルフの英雄の傍にはエルフの嫁がいてもおかしくなかろう。うむ、我ながらいいことを思いついたものじゃ」
「長! 貴方の仕業か!?」
元凶であるエルフの長に食って掛かる詩音だが長は冷静に訂正させる。
「これ、長ではなく御爺様と呼べ」
「呼ぶか!?」
「御爺様。私、シオンと、いえ、シオン達と一緒に幸せになります」
「うむ。たまには帰って来なさい。元気なひ孫を産むのだぞ?」
「任せて!」
「本人を無視して話を進めるなぁぁああああああああああああああ!!!」
当の本人を置いて勝手に話を進める祖父と孫娘に詩音は声を上げた。
だが、周囲のエルフ達からもメティスの幸せを祝福する言葉が飛んでくる。
詩音はその場でガクリ、と肩を落とす。
「どうして…………………俺はただ安全・堅実で平和的な生活が送りたいだけなのに………………………」
勇者にも英雄にもなるつもりは微塵もなかった。
ただ仕事をして、お嫁さんを貰って、子供ができて、前世では果たせなかった幸せな家庭を異世界で築きたいだけだったのに。
異世界転生して早くも二年。詩音の人生計画は破綻している気がする。
選ぶ特典を間違えたのか……………………?
今更ながらそう考え始める。
「では皆の者。我等の英雄と我が孫娘に祝杯をあげようぞ」
詩音とメティス。それから詩音と共にエルフ達を手助けしてくれたセル達に感謝を込めた宴会が始まる。
昔から伝わるエルフの曲と踊りを見ながら森で買ってきたモンスターの肉や果実。その果実をエルフならではの方法で作った酒を飲み喰いしながらも宴会を楽しむ。
自分が英雄として崇められているのは嫌だが、自分達の為に開いてくれた宴会を台無しにすることはできない詩音は深く息を吐いて苦笑を浮かべる。
「しゃがない、か………………………」
明日には帰る。詩音はエルフ達と一緒に宴会を楽しむことにした。
「メティスさん、少しよろしいでしょうか…………………?」
「なに?」
詩音が他のエルフ達と一緒に踊りに参加している隙にセルはメティスに告げる。
その夜。深夜とも呼べる時間帯まで盛り上がった詩音は作った家の一室で寛いでいた。
「明日でお別れか」
ぽつり、とぼやく。
フローリィはこの里で両親と一緒に生活するつもりらしい。詩音もそれに異を唱えることはしなかった。
やはり家族は一緒に生活するべきだ。少なくとも詩音はそう考えている。
短い間だったとはいえ、一緒に暮らしたフローリィと別れるのは寂しいがこれが一番いい。
会いたいときはまた会いに行けばいい。詩音は街に戻ってから溜まった分の仕事のことについて考えていると不意に扉が開かれた。
「お、お邪魔するわ………………………」
扉を開けて入ってきたのはメティス。それもバスタオル一枚だけという魅力的な恰好で。
「ど、どうしたの………………………?」
「………………………………セルに言われたのよ」
宴会で盛り上がっている際、セルはメティスにこう言った。
『本当にご主人様のことを愛するというのでしたら今夜の内にご主人様に抱かれなさい』
そうでないのならこの里に置いていきます。
セルにそう言われたらしい。
「セル………………………」
自分の為に言ってくれているのだろうけど、もう少し他に言い回しがあったのではないかと思う。
でも、セルがそう言うのも理解出来る。
メティスは詩音に敗れて詩音の女にされた。悪く言えば景品のようだ。
本人は勝負の前から自分より強い男なら種族の違いなど気にせず受け入れる、とそうは言ってはいた。
だが、知らなかったとはいえLvMAXの詩音に勝つことなど不可能だ。
そんな勝敗が分かり切った勝負に戦って勝ってメティスは俺の嫁とは言えないし、言いたくもない。
出来レースもいいところだ。
だからセルはメティスは当然として詩音自身の気持ちもはっきりさせる為に場を設けてくれたのは長い付き合いながらも理解出来る。
だからここははっきりとさせよう。
「メティス。本当にいいの? もうエルフの里は安全だし、あの勝負自体も結果が見えたものだった。それを自分より強い男という理由だけで抱かれてもいいの? もし、人身御供のつもりなら俺はそういう人を抱くつもりは一切ない」
詩音は己の気持ちをはっきりと口にする。
無理や無茶をする人を抱くつもりもなければ抱く気もない。むしろ拒絶する。
それに対してメティスは。
「……………………それだけで身体を許すことはしないわよ。少なくとも私は、私自身は貴方になら抱かれてもいい、そう思えたからここに来たのよ」
そう言って己の身体を隠していた最後の一枚、バスタオルを取り払って詩音に歩み寄る。
「これ以上恥をかかせないでよ、ばか」
詩音から視線を外しながら顔を赤くするメティスの顔に詩音はメティスを抱き寄せる。
「これから先、いろいろと大変だよ?」
「ええ、一緒に頑張りましょう」
詩音は彼女――メティスを受け入れた。




