四十四日目
モンスターの大群がエルフの集落を襲う、その原因を調査する為に詩音はメティスと共に神具ワールドテインで集落へ戻ってきた。
「ねぇ、ついてきて今更なんだけどどうやって調べるの?」
「ちゃんと考えてあるよ」
詩音は懐中時計型の探知系魔道具を取り出してここから半径数100㎞にモンスターの動きを調べると―――
「ビンゴ」
南西方面から複数のモンスターの反応を発見した。
それを見てカリエルが言っていたことは紛れもない事実だったことがはっきりした。
それも魔道具が反応しているだけで100体は余裕で超えている。もし、これだけのモンスターがエルフを襲撃したらひとたまりもなかっただろう。
「嘘………………これ、全部、なの?」
詩音の肩に顎を乗せて覗き見るメティスもその数の多さに目を見開いた。
「………………………………とりあえず、調べに行こう」
「けど、ここまでどうやって…………………」
「勿論飛んで」
詩音は収納指輪から空色の宝石が嵌められた指輪を取り出して自分とメティスの指に嵌める。
「これは飛行の魔道具。それに魔力を注いで」
「えっと、こう?」
詩音の指示通りに指輪に魔力を注ぐとメティスは空に向かって打ち上げられた。
「きゃぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
「魔力を抑えて!」
いきなり星空が輝く夜空までやってきたメティスに瞬時に追いついて魔力を抑えるように言う。メティスも動揺しながらもすぐに注ぐ魔力を抑えると、空に上がる速度が緩まった。
「う、浮いてる…………………」
「指輪に意識を向けながら鳥をイメージしてみて。コツさえ掴めば簡単だから」
「は、はい…………………」
言われた通りに頭の中で空を飛ぶ鳥をイメージする。すると―――
「うわぁ、なにこれ。面白いわね」
メティスは空を自由自在に飛び回り、その姿は空を舞う踊り子のようだ。
「呑み込みが早いな…………………」
自分で言っておきながらメティスの呑み込みの早さに感心した。この魔道具は作った詩音でも慣れるまで数日の時間がかかった。それをメティスは一分もかからずに使いこなしている。
「これ凄いわね! あなたが作ったのよね!? 私の旦那は何でも作れちゃうの!?」
「何でもってわけじゃないけど…………………まぁ、出来る範囲」
空を舞いながら興奮気味にそう言ってくるメティスに苦笑いする。
何でも作りますがキャッチフレーズだけあって幅広く色々な物を作っているけれど、子供のように瞳を輝かせて凄いと言われると照れてしまう。
「と、それどころじゃなかった。とりあえず急ごう」
「ええ」
二人はモンスターの大群がいる南西の方角に向かって飛んで行く。
「うわぁ」
「なに、これ……………………」
しばらく空を飛んでいると二人はそれを目撃した。
薄闇の中を無数の影が蠢いて、月の光に当てられてその影の正体がモンスターの大群だ。
怪物は絨毯のように行列となって移動している。
空からざっと見ただけで数百、下手をすれば千は超えているモンスターの数に流石の詩音も顔を歪ませる。
「どうして、これほどのモンスターが私達の集落を………………ッ!」
信じられない光景を目撃しながらも、最もな疑問を口にするメティスに詩音は暗視効果がある眼鏡を取り出してモンスターを空から観察する。
ゴブリンからコボルト、オークから詩音の知らないモンスターまでがまるで徒党を組んでいるかのように移動している。
ほぼ間違いなくこのモンスターを束ねる統率者がいる。
何の為にエルフの集落を襲うのかはわからないが、統率者をどうにかすればなんとかなる。
詩音は統率者がどこにいるか、探そうと思った矢先、ジャキン、と鞘から剣が解き放たれる音がすぐ隣で聞こえた。
「ん?」
思わず隣を見ると、決死の覚悟を固めた顔をしているメティスが剣を強く握りしめて突貫しようとしていた。
「ちょっと待って!! 速まらないで!!」
慌てて詩音はメティスを抱きしめて止めに入った。
「離して!! あれをなんとかしないといけないのでしょう!? なら、倒すしかないじゃない!!」
「別にモンスターを全滅させる必要はないから!! 統率者をどうにかすればいいだけだから!!」
「でも、それでも!」
腕の中で悔し気に歯を噛み締めるメティスはどこか焦っているように見えた詩音は集落に移動する前にメティスが言っていたことを思い出す。
何もできなかった自分を変えたい、とその為にメティスはここにいる。
だから無理にでも何かしようと勇み足になったかもしれない。
詩音は小さく息を吐いてメティスの両肩を掴み、正面から告げる。
「メティス。何もできなかった自分を変えたいのはわかる。だけど、それは無謀をしてでも変えなきゃ駄目なのか?」
「それは………………」
「人もエルフも変えようと思って急に変わることはできない。少しずつ変わるしかないんだ。レベルやステイタスだってそうだろう? 急にレベルアップしないし、ステイタスも一気に上がったりもしない。長い時間をかけて努力してそこで初めて変われると俺は思う」
詩音だってそうだ。
レベルやステイタスはともかくとして能力は自分の力で少しずつ上げていった。その結果、今の詩音がいる。
「だから落ち着いて。今はこの状況をなんとかするしかない」
「………………………………わかったわ」
どうにか宥めることに成功した詩音はほっと一息ついてメティスに尋ねる。
「メティス。これだけのモンスターを従えさせる事に何か心当たりはある?」
「………………………………思いつくのは催眠や魅了といった状態異常系の魔法か能力もしくは魔王かもしれない」
「うわぁ…………………」
また魔王ですか………………………。
今更ながらだとは思うが、詩音のモットーは安全・堅実だ。危険なことは避けて通るようにしている。
なのにどうして自分はこういうことに巻き込まれるのだろうか?
いや、時々は自分から首を突っ込む時もあるが、それは仕方がないことで………………………。
「あ、あそこ!」
自分自身に言い訳するかのようにぶつくさとぼやいていると、メティスが何かに気づいて指を指す。
その方向に一体だけ豪華な椅子に座っている骸骨の王冠を被った美女がいた。
アマゾネスのように褐色色の肌をし、脱色した真っ白な髪を弄る美女に詩音は鑑定能力を使う。
名前:アリアマーシャ
Lv:80
体力:8102
筋力:8021
耐久:8001
敏捷:8215
器用:8432
魔力:8879
魔防:8987
魔法
土魔法(初級Lv6・中級Lv7・上級Lv8)
闇魔法(初級LvMAX・中級Lv7・上級Lv6)
光魔法(初級Lv5・中級Lv3・上級Lv1)
生命魔法(初級Lv9・中級Lv8・上級Lv6)
能力
魔王(LvMAX)
幻視(LvMAX)
使役(LvMAX)
魔歌(LvMAX)
魔王でした。間違いなく魔王様でした。
詩音は心の中で涙が出てきた。
おまけに今回は以前の植物系の魔王と違って鑑定結果から推測するに洗脳、使役などいった異常攻撃系の魔王様でした。
わからないのはこの『魔歌』という能力。
歌を媒介に何かする能力には違いはないだろうが、兎に角、ずっとこのままでは始まらない。
「メティス。行くよ」
「ええ!」
二人は互いに刀と剣を持って空から魔王に奇襲を仕掛ける。
「!?」
急降下してくる二人に気付いた魔王アリアマーシャは息を大きく吸って歌った。
「――――――♪ ――――――――――♪」
すると歌が結界のようになり、間一髪でメティスの剣を止めたアリアマーシャは不敵な笑みを浮かべるも詩音の刀はその結界を紙きれのように容易き斬り裂いてその勢いのまま魔王を斬った。
「あ」
「え」
互いに驚きの声を出す詩音と魔王。だが、魔王は左肩から右横腹まで綺麗に両断され、灰となって宙を舞い、魔王核だけがコトンとその場に落ちる。
「「………………………………………………」」
なんとも言えない空気のなか、呆気なく魔王を倒してしまった詩音は無言で愛刀を鞘に収めて魔王核を収納指輪に収納して頷いた。
「………………………………まぁなにはともあれ、結果オーライ!」
強引に場を明るくしようとするも、覚悟を決めてついてきたメティスは固まったまま。そして、統率者がいなくなったことにモンスター達は雄叫びを上げながら暴れ出す。
詩音は慌ててメティスを抱きかかえて空に避難。抱きかかえるメティスの口から「私の覚悟って…………………」と嗚咽交じりの声が聞こえるも聞かないことにする詩音は何事もなかったように神具ワールドテインでセル達がいる場所まで転移するのであった。




