四十三日目
メティスとの決闘に勝利した詩音は長が話してくれた通りに詩音を同胞として扱うことを約束してくれた。そして詩音は集落に住むエルフ達にモンスターの大群が押し寄せてくることを伝える。
なかには頑なに信じない者もいたけれど、それでも大半は詩音の言葉に耳を傾けてくれた。
そして、全員が物資を持って詩音の周りに集まると詩音は長が話していた場所まで神具ワールドテインで移動する。
「ここか………………………」
転移した先は険しい絶壁で閉じ込められた山間部にある隠れ里のような場所だ。
長の話では古代の時代に生きていたエルフが住んでいた場所だったらしい。だが、天然の毒ガスが発生し、多くのエルフが命を落とし、その場所を捨てるしかなかった。
今ではどうなっているかわからないが、その辺は生活が落ち着き始めたら追々調査をするらしい。
その前にまずは今の環境を整えない事には始まらないのだが―――
「あの、そろそろ離れてくれませんか?」
「いいじゃない。夫婦なんだから遠慮しなくても」
決闘が終えてからメティスは翔の腕に抱き着いて離れない。
男の子としてメティスの胸が肘に当たる度につい鼻の下を伸ばしてしまうが、後ろから感じる冷たい眼差しに当てられてそれどころではない。
「………………取りあえず環境整備からだな」
草木が好き放題に生えて、石も転がり、でこぼこした地面。家を建てるのにもまずは平らな地面にする必要がある。
「まずは炎中級魔法【フレイムアース】」
地面を走る炎が好き放題に生えている草木を根元から焼き尽くす。
「土中級魔法【アースエトランジュ】」
続けてでこぼこした地面を平らに変える。圧倒的レベルとステイタスを持つ詩音ならこれぐらい造作もない。
「これでやりやすくなったな」
詩音は収納指輪から人形を五個取り出して魔力を注ぎ込むと、人形は詩音と同じぐらいの大きさなる。
詩音お手製のゴーレム。注いだ魔力の分だけ動く半自動型のゴーレム。
木材も取り出して作業に入る。
「よし、行け」
指示を出し、ゴーレム達は木材を持ってそれぞれ与えられた指示通りに木材を運び始めると、詩音は続けて特殊能力である『植物創造』を使って植物や果実を創造。
「さて、トレイヤとシロットは食事の用意を頼む。セルは不慣れだろうけど俺の補佐を。エルフの人達はこの図面通りに家を完成してください。わからないところがあればすぐに俺が行きますから」
テキパキと仕事に入る詩音にセル達は動き、エルフ達も一瞬戸惑いを見せるも自分達が住む家を作る為に少し遅れて動きだした。
「さて、と。一仕事しますか」
槌を手にして詩音は早速家を作り出す。その動きは素早く、的確、確実で一瞬も動きを止めることなく家を建築していく。
普段から親方の下で建築の仕事をこなし、能力もレベルが限界突破している詩音にとって二階建ての一軒家を完成させるのに一日もいらない。
エルフ達に啞然とされながら恐ろしい速度で家が完成していくその凄さ。
「流石は私の夫ね」
メティスは自慢げに胸を張ってそう言うも――
「喋っている暇があったら手を動かす!」
「はい!!」
詩音の喝が入り、メティスもすぐに仕事に取り掛かる。
仕事がないプライベートならともかくとして詩音は仕事の時は厳しい。休憩時間ならまだしも、仕事中に怠けるなどはしないし、させない。
こうして詩音の指示の下、エルフ達の新しい住まいの完成に向かう。
夜天に広がる星空の下でエルフ達は天幕で身体を休ませていた。明日も自分達の住む家を作る為に英気を養わなければならないなか、詩音は一人、天幕から出た。
「どこへ行くの?」
周囲を見渡して神具ワールドテインを出した時、背後からメティスが声をかけていた。
「ちょっとトイレに………………………」
「その一瞬でどこへでも移動できる道具を持って?」
鋭い指摘と自分の下手な嘘に呆れながら詩音は観念して本当の事を話す。
「モンスターの大群がどうしてエルフの集落を襲うのか、その原因を調べないといけません。もしかしたらまた襲われる可能性だって十分にあります」
詩音はずっとそれが気になっていた。
どうしてモンスターの大群がエルフの集落を襲うのか。
たまたまなのか、人為的なのか、その原因を調査しないとまたエルフ達が襲われる可能性がある。
「私も連れて行って」
メティスはその調査の同行を懇願した。
「駄目。危険すぎる」
しかし、詩音は首を横に振った。
万が一の事も考えて圧倒的なステイタスを持っている詩音一人の方が動きやすく、逃げやすい。
だから連れて行くことなんてできない。
「……………………私は集落で一番強いエルフの戦士のつもりだった。だけど、私は自分の集落の子供さえも守ることができなかったの」
ぽつりとメティスは語る。
「私達が目を離した隙に集落の子供達は人間に攫われた。その時、私は何もすることができなかったわ」
それは恐らくフローリィが攫われたことを話しているのだろう。
「集落一の剣の使い手と言われているのに、その剣を握ることもできなかった………………………」
集落に住む同胞を守れなかったことに対しての後悔が言葉となって伝わってくる。
「私はもう何もできないでいるのが嫌なの。私は自分を変えたい、強くなりたい。貴方の傍で、貴方の隣で、貴方のように誰かの助けになれる存在になりたいの」
己の決意を語るメティスの強い意思と真っ直ぐな瞳が詩音に向けられる。
「だからお願い、私を連れて行って。私を変えるきっかけをちょうだい」
向けられるその真意ある言葉に詩音は困ったように頬を掻く。
「……………………わかりました。ただし俺の傍から離れないでください」
「ええ!」
ああ言われたら断れない。詩音はメティスの同行を許可するとメティスは詩音の腕に抱き着く。
「ところでいい加減に敬語はやめてちょうだい。それにさん付けも。夫が妻に話す口調じゃないでしょ?」
「夫や妻は置いておいて……………………わかったよ、メティス」
「ええ」
敬語を崩して素で話す詩音にメティスも満足そうに頷く。
「じゃ、行くよ」
「お願い」
二人はモンスターの大群の原因を調べる為にエルフの集落に転移する。




