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四十二日目

「いやいや、ちょっと待ってください。それ、どういう意味ですか?」

「言葉通りの意味だ。貴殿には我が孫――メティスと戦い、勝利を収めて、婚儀を結んでもらう」

あまりにも予想を斜め上を行く発言に思わず確認を取るも、聞き間違いではなかった。

「我が集落の戦士達は戦いで全てを決め、強い者こそがあらゆる決定権を有する。孫に勝てばこの集落の戦士達は貴殿の言葉に耳を傾けるだろう」

説明する長の言葉に納得する。

この集落で一番強いメティスに勝てば、同時に他の戦士達も詩音の言葉に従うということだ。

「そして、婚儀を結べば貴殿を我等の同胞として受け入れる。同胞の言葉には他の者も異を唱えることはしないはずだ」

「そういうことですか………………………」

エルフは仲間意識が強いと聞いたことがある。

だから同じ種族、同胞になるというのなら詩音の言葉に耳を傾けて信じてくれる。

その為にもこの集落で一番強いメティスと戦って勝利し、婚儀を結べと言ったのだろう。

しかし―――

「一応、お尋ねしますが、他に方法は……………?」

「ないな」

はっきりと言い切られた。

「どうした? 腕に自信がないのか? それとも孫に不満でもあるのか?」

「いえ、そういうわけでは………………………」

そういうわけではなく、そもそも相手にならない。

メティスのレベルとステイタスがどれほどか、詩音は鑑定能力(スキル)で確認する。



名前:メティス

Lv:42

体力:4675

筋力:4210

耐久:3871

敏捷:4889

器用:4502

魔力:4988

魔防:4788


魔法

風魔法(初級Lv9・中級Lv9・上級Lv7)

炎魔法(初級Lv6・中級Lv7)

水魔法(初級Lv8・中級Lv6)


能力(スキル)

精霊の加護(Lv9)

剣術(剣Lv8)

弓術(Lv5)

体術(Lv7)

狩人(Lv4)



僅かだが、ガーゼを上回るレベルとステイタス。

この集落一の戦士なのは間違いないだろう。それにメティス自身に不満などない。

顔も容姿もセル達と負け劣らずに整っている。

何一つ不満などはなく、長の話も納得いくものなのだが………………………。

「長、こんないかにも弱そうな人間と私とでは相手にもなりませんよ。レベルだってよくて20前後でしょうし」

痺れを切らしたのか、メティスが口を開いてそう言った。

だが言いたい。違う、と。

そうじゃないと。

絶対にこちらが勝ってしまうからどうにか別の手段が取りたいと素直に口に出して言いたい。

レベルもステイタスも完全にこちらが上。それに詩音にはアスモデウスとの契約で得た魅了(チャーム)がある。正直、開始一秒で勝てる自信しかない。

流石に勝ち戦で勝っても嬉しくないし、そんなことでメティスと婚儀を結ぶのもどうかと思う。

「えっと、メティスさんでしたか? 貴女は勝負をすること自体はいいのですか? 万が一に負けたら貴女は好きでもない、それも種族も違う異性と婚儀を結べと言われているようなものでしょう?」

「構わないわ。私より強い男なら種族の違いなんて気にしないし、ちゃんと受け入れるわよ。まぁ、私より強い男がいたらだけど」

自信たっぷりに告げる彼女に詩音は思わず苦笑い。後ろに控えているセル達はもう勝負の結果がわかりきっているために息を吐いていた。

詩音の強さを知っているセル達と、シオンの強さを知らないメティスとでは反応はまるで違う。

「えっと、もう一度お尋ねしますが他に方法は………………………」

「ない」

長は一秒も考える間もなく即答した。






集落の中心にある広場で野次馬とかしたエルフ達に囲まれながら詩音とメティスは対峙していた。

「これより、我が孫にしてこの集落一の剣の使い手であるメティスと人間であるシオン殿との決闘を執り行う!」

審判に入る長の一声に周囲のエルフ達は声を上げる。

「安心なさい。殺さない程度に手は抜いてあげるわ」

「はぁ…………」

鞘から剣を解き放ち、抜剣するメティスは変わらず自身たっぷり。負けるはずがないと顔に書いてある。

とりあえず詩音も自分の愛刀『夜月』を抜刀する。

「勝敗はどちらかが敗北を認めるか、戦闘不能になるかで決める。では、始め!」

開始早々、メティスは驀進。

先手必勝の一撃を詩音に叩きつけようと剣を振るう。

「ハッ!」

風の音とともに、銀の剣閃が瞬く。

次の瞬間、乾いた金属音が辺りに木霊する。

「え?」

勝った。そう思った。

確かに詩音を斬り伏せた筈なのに詩音の身体に傷一つ与えるどころか逆にこちらの剣の刀身が途中から無くなり、半分ほどの長さになってしまっている。

空に輝く何かが猛回転しながら落ちて地面に墓標のように突き立つのは無くなった刀身の先だ。

「えっと、剣も折れたことですし、降参してくれませんか?」

詩音は申し訳なさそうに降参を勧めるもメティスは慌てて詩音から距離を取った。

その瞳はまだ諦めていない。

「へ、へぇ………………予め自分に防御系の魔法や道具でもかけていたのかしら? 卑怯で用心深い人間らしい姑息な手ね。だけど、私にはまだ奥の手があるのよ!」

風がメティスの折れた刀身に纏わり、竜巻の形をした剣となる。

「風上級魔法【スパイラルヴィント】」

風を幾多にも重ね合わせて小さな竜巻を作り出す。その竜巻に触れれば斬り裂かれ、振れば薙ぎ払われる。

派手さはなくとも、その殺傷性と実用性は非常に高い風の上級魔法。

「これで終わりよ!」

接近するメティスは竜巻の剣と化した渾身の袈裟斬りを炸裂させる。

鋼以上の硬度を誇るモンスターの鱗でさえも容易く斬り裂いてしまうメティスの奥の手。

風閃剣(ラ・ファール)!」

己の必殺技。渾身の一撃、最強の切札。

その技を詩音に炸裂させるも、竜巻の刀身は詩音に直撃すると同時に折れて何者にも縛られない自由の風のように霧散する。

「………………………………………………………」

「えっと………………防御系の魔法も道具も使ってないんだけど、なんかごめん」

固まるメティスに申し訳なさそうに謝る。

素のレベルとステイタスが違い過ぎる為にメティスでは詩音に傷一つ負わせることができない。それを知らずに、自信満々に勝負をし、必殺技さえも詩音には効かなかった。

「え…………………うそ、だって、そんな………………………」

愕然とするメティスは信じられない光景を目の当たりにして混乱すると、詩音は自分のステイタスをメティスに見せる。すると、つい先ほどまで自身たっぷりだったメティスの顔がどんどん青白くなって何度もステイタスと詩音の顔を交互に見比べて剣を手放し、脱力したようにその場に座り込む。

「ま、参りました………………………」

「勝者! シオン殿!」

メティスの敗北宣言に勝敗は決した。

同胞であり、集落一の剣の使い手であるメティスの敗北はエルフ達からしても驚きを隠せれないなかで、長は目頭を押さえてぽつりと……………………。

「これでひ孫の顔が見れる………………………」

「おい長。なに本音をぶちまけてる。それ、完全に私用じゃねえか」

「気にするでない。孫をよろしく頼む。正直嫁の貰い手がなくて困っておったから助かったわ」

「その為に決闘をさせたのか!?」

「私だってひ孫の顔ぐらい見たい。なに、孫だけ愛せとは言わん。大切にしてくれるのであればこちらも文句はない。ただ、ひ孫の顔は見せておくれ」

この老エルフは本当にいい性格をしていると、詩音は苛立ちながら思った。

それなら他に方法があったはずだと、一言文句を言ってやろうと口を開こうとしたその時、不意に袖を掴まれた。

「………………………………私の完敗よ。今日から私は貴方の女だから、その、幸せにしなさいよ。あなた」

耳まで赤く染めながらそう告げてくるメティスに詩音はがくりと肩を落とす。

どうしてこうなった?

こうして詩音は新しいお嫁さんを手に入れたのであった。


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