四十一日目
フローリィの両親と故郷である集落にモンスターの大群が襲うと知った詩音はエルフ達を助けようとカリエルから貰った神具ワールドテインでエルフの集落まで一瞬で移動したまではよかった。
そこが集落のど真ん中でなければ。
突如現れた詩音達にエルフ達は驚き、パニック状態に陥る。
なんとか誤解を解こうと口を開けば、奴隷にされる、穢される、どこか行け、と散々に言われている間にエルフの戦士達が武器を持って現れた。
エルフの戦士達は詩音達を警戒しながらも尋ねてきたので詩音はフローリィを前に出して事情を話して貰うことにした。
フローリィは自分が攫われてから今日までどう過ごしていたのかを話して、詩音達の安全をエルフ達に伝えてくれたが、信用はしてくれなかった。
だが、同胞であるフローリィに傷らしい傷もなく、本人の強い要望もあり、エルフの長達の話が終わるまで身柄を拘束する程度で済んだ。
そして現在、牢屋の中で詩音達は生活している。一週間も。
「住めば都という諺はあるけど……………………牢屋はないわ」
牢屋の中でぼやく詩音は二度目の人生にして初めて牢屋で生活している。
初日は牢屋で生活するという経験に若干浮ついていたが、時間が経つにつれて不憫さを感じる。
「まったく、どうして集落の真ん中に転移したのですか? ああなれば誰だってパニックになりますよ」
「仕方ないじゃん、初めて使ったんだから………………………」
「まぁまぁ、セル様。今はそんなこと言っている場合じゃないですよ」
「そうだね~、早くここから出して欲しいよね~」
詩音に膝枕しながら呆れるような口調で話すセルを宥めるシロットと早く牢屋から出して欲しいことを切に願うトレイヤ。全員、同じ牢屋に入れられて牢屋が狭く感じる。
牢屋の数が少なくて、詩音達も含めて牢屋は満員。他の牢屋からは盗賊のような人間がちらほらと見える。
時折、セル達に邪な視線を向けるも詩音が岩肌に壁を少し砕いて小石にしてそれを投げて目潰しした。
洞窟を加工して作られた牢屋は若干ひんやりとしていて薄ら寒い。
だが、詩音達は抱き合って寝ている為にそれほど寒くはない。
「話はまだ終わらないのかな………?」
「ご主人様の話を信じる根拠がありませんからね」
「うっ…………」
辛辣な使用人の言葉が胸に刺さる。
何の確証もなく、ただモンスターがこの集落を襲うと言ってもそれは戯言にしか聞こえない。
それが同胞を攫った同じ種族である人間なら罠だと思い込んで警戒を強めるに決まっている。
詩音達が無事に牢屋から脱出する為にもフローリィが上手く説得してくれるのを祈るしかない。
すると、洞窟内に足音が響く。
武器を携えた二人組のエルフがやってきて詩音達の前に足を止めると、牢屋を開けた。
「出ろ、長達が貴様等に話があるそうだ」
ようやく話が終わったことに安堵し、牢屋から出ていく詩音達はそのまま二人について行く。
「まぶし」
一週間ぶりの太陽の光は眩しく、温かい。
そんな当たり前の事に若干感慨深くなる。
「さっさと歩け」
「はい」
注意され、足を動かす。周囲のエルフからは腫物でも見ているかのような視線を浴びながらも一つの邸宅に案内された。
「失礼します」
行儀よく挨拶しながら入ると、中には長と思われる老エルフと二人の男女、それとフローリィ。
「よかった………………」
恐らくフローリィの後ろにいる男女のエルフはフローリィの両親だと思って安堵の息を漏らすと、言われるがままにその場で腰を落ち着かせる。
「まず、我が同胞を救ってくれたことに感謝する。お前達」
長の一人が口を開いてフローリィの両親に視線を向けると、両親は深々と頭を下げた。
「娘を助けて下さり、本当にありがとうございます」
「貴方に感謝を」
「いえ、頭を上げてください」
フローリィを助けたのは本当に偶々なので、お礼を言われるようなことはしていない。
それよりも両親に会えたことに嬉しく思う。
フローリィの両親が頭を上げると、再び長が口を開いた。
「欲に溺れ、エルフを攫って奴隷にする人間を我々は信用していない。だが、貴殿等は我々の同胞を救ってくれたのも事実。恩には報いなければならん」
「故に我々は貴殿等の望みを一つだけ叶えるということで手を打った。貴殿等は何を望みでこの集落までやってきた?」
律儀にもエルフ達は詩音の望みを一つだけ叶えるという形で手を打った。
信用していないが、同胞であるフローリィに傷らしき傷はなく、フローリィ自身の話に耳を傾けてくれた。
きっと一生懸命に詩音達を庇い、説得してくれたのだろう。
詩音はフローリィに感謝しながら望みを口にする。
「後一週間もすればこの集落にモンスターの大群が押し寄せてくるという情報を得て、俺達はやってきました。だからどうか、この集落を捨て、別の場所に逃げてください。それが俺の望みです」
カリエルから教えてくれた情報をエルフ達に話す詩音は神具ワールドテインを出す。
「これがあれば一瞬で別の場所に移動することができます。ある程度の物資はこちらで用意していますから、どこかエルフ達が住めれる場所を教えて下されば――――」
「そのような話、信用なるものか!?」
「そうだ! また我々を誑かす気か!?」
詩音達の警戒の為に控えていたエルフの戦士達が怒鳴り、疑心暗鬼に満ちた瞳で武器を手にする。
エルフと人間との間にできた溝は大きい。
確信的な証拠も提示できず、ただ信じてくれは虫のいい話だ。
「落ち着け、お前達」
長がエルフの戦士達を宥めようと説得する。
「しかし!」
「この者達が信用できんのは我々も同じだ。だが、この者の話が嘘かどうかも確かめもせずに一方的に話を途絶えては奴等と同じになってしまう。話が終えるまで控えろ」
「………………………………はい」
「心得ました………………………」
長の説得で渋々といった感じに剣から手を離す。
「先程の話は誠か?」
「はい。確かな情報です」
「ふむ………………………」
真っ直ぐとこちらを見据えるような瞳で視てくる長達に詩音は目を逸らさない。
偽る気持など何一つないのだから。
しばらく見据えた後、長が小さく息を吐く。
「確かにその力があれば牢屋からの脱出も容易であろう。それに我々を誑かす必要もない。その力で我々を自分達が有利な場所に移動させればいいだけの話だ」
「では」
「ああ、嘘をつくのならもっとマシな嘘をつくであろう。それに同胞を救ってくれた恩義もある。故に一度だけ貴殿等を信用しよう」
話が分かる人、いや、エルフでよかったと安堵する。
「しかし、集落を捨てるとなると他のエルフ達がそれを信じるかと言われれば無理であろう」
長の言葉に詩音も悩まされる。
やはり、確信的な証拠もないのに信じてくれと言われても無理がある。
それがエルフ達を纏める長の言葉だとしても集落を捨てろと言ったのは詩音の方だ。
人間の言葉に耳を傾けるエルフが何人いるか? 自分達の故郷を捨てろという人の言葉なんてきっと信じて貰えない方が多い。
「他の者達からの信用を得る為に貴殿には我々の流儀に従って欲しい」
「それは………………………?」
「うむ。お前達、すまないがメティスを呼んできてくれ」
「はっ」
長の言葉に従って出ていくエルフの戦士はメティスと呼ばれるエルフを呼びに行き、少ししたらすぐに戻ってきた。
「長、呼びましたか?」
やってきたのは金髪の女性エルフだ。
長い金色の髪を邪魔にならない様にポニーテールにして、一つ一つの挙動は自分に絶対の自信があるように堂々としている。琥珀色の瞳で一度詩音達を一瞥しながらもすぐに自分達の長達に視線を向ける。
「あの、この方は?」
「彼女はメティス。私の孫であり、この集落一の剣の使い手よ」
ここまで聞いて詩音は話の流れが読めた。
アレだ。この娘と戦って勝ってみせろ、というよくあるパターンだ。
「貴殿には我が孫と戦って貰い、勝利を収め――――婚儀を結んでもらう」
「はい?」
長の口から予想斜め上を行く発言に詩音は自分の耳がおかしくなったと疑った。




