四十日目
「いいか? 落ち着いて聞いてくれ」
詩音は居間にセル達を集めてカリエルが教えてくれたことをありのままに伝える。
二週間後にフローリィの故郷であるエルフの集落がモンスターに襲われる。そのことを包み隠すことなく、伝えるとフローリィはその事実にただ驚き、啞然とする。
トレイヤはそんなフローリィを優しく抱きしめる。
「………………………………それは本当なのですか?」
「そうですよ! もしかしたら間違いかもしれません!」
疑念を抱くセルとシロットだが、詩音の真剣な顔にそれが事実だと思い知らされる。
「今ならまだ間に合う。俺は準備が整え次第、すぐにエルフの集落、リゾットの故郷に向かうつもりだ」
「ご主人様、ここからエルフの集落までの距離があり過ぎます。流石に二週間では」
「その心配はなくなった。神具『ワールドテイン』」
神具の名前を呼んで詩音の右手に出現する球体に全員は目を丸くする。
「これがあれば一瞬でリゾットの故郷まで移動することができる。後は他のエルフの人達を安全な場所まで避難させれば誰一人傷つくことなくモンスターの大群をやり過ごせる」
詩音はこの神具の力でエルフ達を別の場所に避難させるつもりでいる。二週間あれば十分にそれが可能だ。
だけど、ただ移動するだけではその後の生活が出来ない為にある程度の物資も集める為に一日はいる。
「問題はエルフがそれを信じてくれるかだ」
「そうですね………………………」
ここにいるフローリィは人間に拉致されて奴隷にされた。
人間で、それもモンスターが襲うという確固たる証拠もない詩音の言葉をエルフ達が信じてくれるかわからない。
「………………………………」
エルフ達を、自分の故郷を守ろうと真剣に考えている詩音のことがフローリィはわからなかった。
何故、この男の人は助けようとしてくれるのだろう?
助ける事が当たり前のように考え、行動しようとする詩音は自分の知っている人間の男性とは大きく異なる。
「リゾット」
突然呼ばれて驚いてしまったフローリィは恐る恐る顔を上げると、真剣な眼差しをした詩音が真っ直ぐフローリィを見据えていた。
「多分、俺達が何を言っても信じてくれないと思う。その時はリゾットが他のエルフ達を説得してくれないか? 同じエルフであるリゾットならきっと信じてくれるはずだから」
どうしてここまで真剣なのだろうか?
種族も違うのに、助ける義務も義理もないはずなのにどうして助けようとしてくれるのだろうか?
わからない。でも。
自分の故郷を助ける為には詩音の力が必要なのは確か。
フローリィは了承する為に首を縦に振った。
「ありがとう」
頭を撫で、礼を告げる。
「セル、お前は明日から数日の仕事のキャンセルをしてきて」
「かしこまりました」
「シロットは親方の所に行ってできる限りの材木を貰って来て」
「わかりました!」
「トレイヤは悪いけど農業ギルドから食料をお願い」
「は~い」
リゾットの了承をきっかけに動き出すセル達に詩音も準備しようと動こうとした時、フローリィに袖を掴まれた。
何か言いたそうに口を開けては閉じるを繰り返すフローリィは覚悟を固めて言った。
「どうしてそこまでしてくれるの…………………?」
初めて聞いたフローリィの声。嬉しくもどこか複雑に思いながら詩音は屈んでフローリィと目線を合わせて言う。
「俺は皆からよくどうしようもないお人好しや甘いってよく言われる。俺もその自覚はある。止めないといけないとわかっていても放っておくことが出来ない性分なんだ…………ほんと、自分でも馬鹿だと思う」
苦笑しながら自虐気味に話す。
「でも、今回はそうじゃないって言える。リゾット、俺はもうリゾットのことを大切な家族だと思っている。家族が困っているのなら助けたいと思うのは当然だろ?」
例え種族が違えど、血縁がなくても、詩音は家族としてフローリィを愛している。
その家族が困っているのなら助けるのは当たり前だ。
「だから助けさせてくれ。リゾットの両親も帰るべき場所もきっとなんとかしてみせるから」
詩音はその為の力を持っている。
身の安全を守れるように、生活に困らない様に手に入れた特典だけど、誰かの為にこの力を使えるのなら詩音は使う。
女神アウルもきっとそれを望んでいるはずだ。
「………………………………フローリィ」
「ん?」
「私の名前…………………フローリィ……………」
詩音だけに明かしていなかった本名を教えるフローリィに詩音は一瞬目を瞬き、笑みを見せる。
「ありがとう、フローリィ。名前を教えてくれて」
「………………………………うん」
ようやく心を開いてくれたのか、信用してくれたのかはわからないが、フローリィとの距離が縮まった気がした詩音はフローリィの頭を撫でて自分自身もエルフ達を助けに行くための準備を始める。
そして、翌日の早朝。
詩音達は準備を終えてエルフ達が住む集落に行く為に詩音の周りに集まっている。
詩音の手に持つ神具ワールドテイン。その力を持って移動する。
「じゃ、行こう」
「はい」
「了解です!」
「は~い」
「うん」
全員の返答に詩音はワールドテインに意識を向けて操作する。頭の中に流れる地図に詩音達の行きたい場所を示す。すると、詩音達はその場から姿を消した。




