四十五日目
詩音がメティスと共に魔王アリアマーシャを呆気なく倒したその光景を遠くから見ていた者がいた。
「こちらカリエル。詩音さんが魔王を討伐したところを確認しました」
その人物は女神アウルに仕える神の使徒、カリエルは自分の主にそのことを報告する。
『ご苦労様。彼のおかげで多くの人が救われるでしょう』
「魔王の被害は災害と同じですからね。そうなる前にどうにかできたのは幸いです」
この世界で最も多くの被害が出るのは魔王による襲撃。その次に自然災害。
詩音の行動はこれから先出るであろう多くの人達の命を救った。
『平和で生きたい彼には悪いことをしてしまいますが、これも世界の命運の為。カリエル、他の転生者の様子を見ながらでも構いませんので彼の事を気にかけておいてください』
「それは構わないですが………………………一つ、よろしいでしょうか?」
『何でしょう?』
「アウル様、彼のステイタスに何か細工をしましたね?」
『………………………さぁ、何のことでしょう? あ、御茶菓子がありますけど戻ったら食べますか?』
「話を逸らさないでください! 彼と会った時、興味本位でステイタスを覗いて見ましたけどあり得ないでしょう!? 能力の限界突破なんて! この世界において最大能力値はLv10で能力限界! それ以上あがることは決してありません! 考えられるのはアウル様! 貴女が彼のステイタスに細工をしたとしか思いません!!」
『………………………神の使徒が覗き見などいけませんよ?』
「だから話を逸らすな!! この甘党女神!」
『なっ!? あ、甘いものに罪はありません!! 貴女こそ少しは辛い物を控えなさい! 辛党使徒!』
「はぁ!? 辛い物の素晴らしさも知らない甘々の女神様が何を言っているんですか!?」
『それはこっちの台詞です!! あまり不遜な物言いをしますと時給を下げますよ!!』
「上等ですよ! その時は使徒なんてブラックを通り越したドブラック会社に辞表叩きつけてやりますよ!!」
女神と使徒は互いに口喧嘩し、しばらくして無意味な争いは止める。
『ええ、そうですよ。私が彼を転生する前に限界突破できるように細工しましたよ』
「………………………………やっぱりそうでしたか」
ようやく観念して白状した自分の主に深い溜息を吐く。
「アウル様。貴女、ご自分が何をしたのかご理解しているのですか? そこまでして彼に何をさせようとしているのですか?」
『………………………………………………』
「彼に、神殺しでもさせようとするのですか?」
真剣な声音で主に問いかける。
「能力限界を超えた今の彼はその能力に関して人間以上の力を振るうことができ、更には私達、使徒や神々にまで届く力となる。彼が持っていたあの刀、あれは神々までとは言いませんが、私達使徒なら通じる武器にまで昇華されています。下手をすれば数年後には貴女にも届く武器を彼は作り出す可能性だって………………………」
カリエルが恐れているのはまさにそこだ。
能力の限界突破。それは極めれば神々にさえ通じる力となる。
詩音はその気になれば自らの手で神具だって作り出せる。既にそれほどの領域まで能力が昇華されている。
今はまだ誰も詩音自身も気付いていないからいいのかもしれないが、その力に気づき、悪用するようになってしまえば手の施しようがなくなる。その可能性だってある。
『………………………その心配はいりません。仮に彼がその事実に気付いたとしても悪用しないことは私の名に誓って約束しましょう』
「そんなのわからないじゃないですか? 今までだって人格者と思っていた転生者が何人悪辣の道に進んだのか………………………人間の心は簡単に変わります」
『それは元人間である貴女の考えですか? 加藤理恵さん』
「今はカリエルです。その名前はもう捨てました」
『貴女にとってはそうかもしれませんが、それも貴女の名前には違いありません。ですから私はいつまでも覚えていますよ。それに彼はきっと道を違えることはないでしょう』
「…………………その根拠は?」
『女神の勘です』
「一番当てにできません」
最も当てにできないものを信じる根拠にされてカリエルは大きく息を吐いた。
「まぁ、今は彼を信じるしかないでしょう。それでは私は次の転生者のところに行きます」
『はい。よろしくお願いします』
そこで女神アウルとの通信を切ってカリエルは次の転生者のところに向かう。
「そうか、魔王の仕業であったか………………………」
「はい」
メティスは昨夜の一件をエルフの長へと報告する。
何故魔王がエルフの集落を襲おうといたのかは最後までわからなかったが、結果だけを見れば危機は去ったことには間違いはない。
「わかった。報告ご苦労であった。作業に戻ってくれ」
「失礼します」
自分の祖父である長に報告を終わらせたメティスは同胞が住む為に必要な家づくりに精を出す。
とはいえ、建築の知識も技術もない為に下働きになるが、自分の旦那である詩音のおかげで順調に家は出来つつある。
その詩音といえば………………………。
「………………………………」
フリフリのゴスロリ衣装を着て、死んだ魚の目で無言で仕事をしている。
その動きはもはや命令に従うゴーレムのようで詩音から漂る無の雰囲気に当てられ、唾を呑み込んだ。
「ど、どうしたの………………………?」
「………………………………セル達を心配させた罰」
今にも消えそうなか細い声で詩音はそう答えた。
昨夜、詩音はこっそりと集落に戻ったことがセルにバレて、更には魔王を倒したと白状してしまい、心配かけた罰として女装中なのであった。
フリフリのゴスロリ衣装にカツラまで付けられ、ぱっと見では男には見えない。
その愛らしい詩音の女装姿にエルフの男性は何度もチラ見している。
メティスでさえも可愛いと思える程に似合っていた。
「えっと、よく似合ってるわよ?」
「………………………………やめて」
似合っているからこそその言葉は鋭い刃となって詩音の心に突き刺す。
かつて男子生徒に告白された黒歴史を思い出してしまうなか、フローリィが落ち込む詩音の背中を優しく叩く。
「お兄ちゃん、元気だして」
「………………………………俺の味方は君だけだよ」
詩音は幼い子供の励ましに涙を流した。




