二十五日目
「よしよし~」
詩音はトレイヤに存分に甘えて、トレイヤも存分に甘やかしていた。
トレイヤの胸の中で顔をうずめる詩音。その様子を離れた位置から見ているセルとシロット。
「どうしたのですか?」
「色々ありまして………………………」
首を傾げなら詩音の様子を尋ねるシロットにセルは嘆息交じりで答えながら先日の事を思い出す。
それは詩音がエンレンを見つけて野営地に戻ってきた頃。
「お嬢様!!」
カバリはエンレンの姿を見て慌てて駆け寄り、怪我がないことに安堵すると詩音に頭を下げた。
「店主殿、お嬢様をお救いくださったことこの場を代表して感謝の言葉を述べたい。ありがとう」
カバリに続いて他の騎士達も敬礼する。それを見て苦笑いしながら首を横に振った。
「いえ、原因はこちらにもありましたので」
詩音は天幕まで戻る道のりでエンレンからどうして夜の森に行ったのかその理由を尋ねて、セルとの話を聞かれていたことを知った。
「そうだとしても全てはお嬢様の勝手な行動のせいです。店主殿が気に病む必要はありません。お嬢様、わかっておられますよね?」
「………………………………ええ、申し訳ございませんわ」
いつもの苦労人のカバリも今回ばかりは険しい顔をする。
「この事はご両親にご報告させて貰います。しばらくは勝手な行動は慎むようにお願い致します」
「………………………わかりましたわ」
殊勝な態度のエンレンにカバリもこれ以上は何も言わずに他の騎士達に指示を出しに向かう。
「…………………シオン様」
「何ですか?」
「恐らくですが、街に戻れば私はしばらくは外出は許されないと思われますわ。ですから、その前に一つだけよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「シオン様は運命の出会いを信じてはおられますか?」
そんな問いかけに詩音は微笑しながら答える。
「ええ、信じていますよ。ですが、それはあくまで一つの出会いに過ぎません。そこからその人とどうなるかは自分次第ではないでしょうか?」
「自分、次第…………………?」
「だってそうでなければ私はいったい何人の女性と運命の出会いをしていると思いますか?」
「それは………………………」
「出会って、そこから運命の相手になれるかはその人次第です。少なくとも私はそう思います」
そうでなければいったい何人の女性を侍らせているのかわからない。
これまで自分の眼の届く範囲ではあるが、不良にからまれた女性を助けたことは何度かある。その全てが運命の相手では正直身体が持たない。
だから出会いはきっかけ。そこからどうなるのかはその人次第と無難な言葉を選んだ。
「そう、ですの………………………」
その詩音の答えに何度も頷くエンレンは次に笑顔で見せた。
「なら私はシオン様を運命の、いえ、将来の殿方に決めましたわ!」
「………………………………………………………はい?」
突然の告白に呆気を取られる詩音だが、エンレンは詩音にぶたれた頬に手を当てる。
「シオン様にぶたれた痛みは今では心地良く感じられますの。それに私の為に怒鳴りつけてくださったあの怒声は耳から離れませんわ………………………」
少女ではまず見ないうっとりとした恍惚の表情。
詩音は頬に一筋に汗を流しながら口を開く。
「し、しかしですね、貴族と平民との結婚は法律的に禁じられて………………………」
「何も問題ありませんわ。表向きはシオン様を私の愛人として迎え入れ、婿は貴族のどなたかにすればいいだけの話ですわ。ふふ、そうすれば将来、お父様とお母様の目を誤魔化してシオン様と私の子を跡継ぎにすれば………………………」
「………………………………」
詩音は恍惚な表情のまま何か呟いているエンレンに頬を引きつかせて後ずさりするも、エンレンは詩音の腕を掴んだ。
「大丈夫ですわよ? 悪いようにはしませんわ」
その時のエンレンの瞳がハートになっているように見えた詩音だった。
「怖い、女の子、怖い………………………」
「よしよし~」
あの後も熱心に子作りや女性の好みまで根掘り葉掘りと聞かれてようやく自分の家に帰ってきた詩音は真っ先にトレイヤの胸に跳び込んだ。
妹のように思っているルージュと大して歳も変わらない少女に恐怖を覚えた詩音をトレイヤの母性で癒される。
「トレイヤ、今日は一緒に寝て………………………」
「いいよ~いっぱい甘やかしてあげるね~」
「うん………」
よほど怖かったのだろう。軽く幼児退行している詩音を見てそう思わされた。
トレイヤはそんな詩音を優しく抱きしめ、頭や背中を撫でて少しでも気持ちを安らげようとしている。
そんなトレイヤの優しさが心に染みわたる。
「………………………………やっぱりシオン様は大きい方がお好きなのでしょうか?」
「ええ、あの様子を見てもそうでしょう。くっ、本来であれば私がご主人様を癒してあげたいのに……………ッ! あの胸は反則ですよ」
「セル様だって十分に大きいじゃないですか!? 私なんかお二人に比べればまだシオン様のを挟めても、隠すことはできないのですよ!」
「貴女はそれでいいのです。性処理兔は大人しくご主人様に虐められればいいのです」
「嫌ですよ! 私だって普通に愛されたいですし、いっぱいいっぱい癒してあげたいのですから!!」
トレイヤの胸を見て悔しそうにする二人にトレイヤは自分の胸に甘えている詩音を満喫している。
「どうやら調教が不足だったようですね。いいでしょう、もう一度一から躾けてあげます」
「な、舐めないでください! 私だってそう簡単に屈する兔ではないのですよ!!」
鞭を取り出して床を叩くセルに怯えながらも強気な態度を見せるシロット。
「貴女はご主人様の嗜虐心を高めるのに打ってつけな性奴隷として買ったのです。己の立場を弁えなさい」
「嫌です! 私だって一人の女性としてシオン様と対等な関係になるのですから!」
「対等? 何を言っているのですか? 貴女はただの性処理兔です。ご主人様の嗜虐心を高めて為の贄とでもいいましょう。普段の優しいご主人様もいいのですが、鬼畜外道のご主人様に襲われたい私の細やかな願望の叶える為にも犠牲になりなさい」
「嫌ですよ!! 何をとんでもないことを企んでいるのですか!?」
「企むとは人聞きの悪い。私は使用人としてご主人様の夜の幅を広げようとしているだけです。安心しなさい。私も鬼ではありません。鬼畜責めを覚えたご主人様の最初の相手ぐらいは譲りますよ?」
「私は普通のがいいんです!!!」
使用人と兔が騒ぎ出すいつもの日常のなかで詩音はトレイヤに甘え続ける。
「今日も平和だね~」
しみじみとトレイヤは詩音の頭を撫でながらそう言った。




