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愛していなかったのに私が死んで泣いたのは、失ったものの大きさに気づいたからでしょう  作者: 九葉(くずは)


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第6話 数え終えた朝

領民のミュラーが屋敷を訪ねてきたのは、朝の食卓を片付けている最中のことだ。


「旦那様、種籾の件でございますが」


ミュラーは帽子を手にしたまま、玄関先に立っている。アルベルトは彼の顔を知っていた。領地の東側の農家だ。リーリアが生きていた頃、この男は毎年春になると種籾の前借りに来ていた。


「種籾の前借り。記録はあるか」


「奥様がお帳面をつけておいでだと聞いていたのですが」


帳面はない。リーリアは台帳をつけずに頭の中で管理していた。誰がどれだけ前借りしたか、いつ返済したか、どの年の不作で免除したか。そのすべてが妻の記憶の中にあり、妻の死とともに消えた。


「記録はない。ミュラー、いくら借りていた」


ミュラーは困惑した顔をした。奥様に聞けば分かると思っていたのだろう。奥様はもういない。何年も前からいない。何年も、誰もこの問題に対処しなかった。アルベルト自身が対処しなかった。


ミュラーを帰した後、アルベルトは妻の部屋に戻った。


日記を最初から読み返す。二度目だ。一度目は数週間前、蜂蜜壺の蓋が閉まっていることに気づいた日に読んだ。あのときは最初の数頁と最後の頁しか読めなかった。今日は、すべてを読む。


日記は二年分。毎日書かれている。内容は、ほぼすべてが仕事の記録だ。感情の言葉は少ない。「今日も、愛していないと言われた」という一文が月に一度か二度現れる以外は、食卓の準備、使用人への指示、来客の手配、領民への対応の記録が淡々と続く。


読み進めるうちに、一つのことに気づく。


リーリアは自分の体調について、ほとんど書いていない。書いているのは三箇所だけだ。「体が重い」「朝、起き上がるのに時間がかかった」「倒れるかもしれない」。三箇所のすべてが、その直後に仕事の記述で終わっている。体が重くても食卓を整えた。起き上がるのに時間がかかっても、来客の手配をした。倒れるかもしれないと書いた翌日、座席表をハンナに渡そうとして、渡せないまま倒れた。


日記の最後の頁。


「明日、倒れるかもしれない。体が重い。けれどお客様の手配がある。座席表をハンナに渡しておかなければ」


アルベルトは日記を閉じ、食卓に向かった。


椅子に座る。向かいの席は空だ。パンが塊のまま置かれている。蜂蜜壺の蓋は閉まっている。数週間前に自分で開けたが、また閉まっている。使用人が片付けたときに閉めたのだろう。開けておくように指示する人間がいないから。


妻が毎朝やっていたことを、一つずつ数え始めた。


パンを切り分ける。蜂蜜壺の蓋を開ける。銀の匙を添える。これが食卓の仕事。献立表を書く。来客に合わせて品数を変える。客の好みを覚えている。これが台所の仕事。使用人の配置を管理する。庭師の仕事を監督する。洗濯女の仕事を確認する。蝋燭の配分を決め、客間には蜜蝋を、廊下には獣脂を配る。招待状の文面を整え、封蝋を押し、座席順を考える。領民が種籾の前借りに来れば対応し、台帳をつけずに頭で管理する。不作の年には免除の判断をし、井戸の修繕が必要と聞けば手配をする。


数え始めたら止まらない。一つ数えるたびに、リーリアがやっていたことの総量が積み上がっていく。


父のマティアスが食堂に入ってきた。


「アルベルト、何をしている」


「数えている」


「何を」


「あの人がやっていたことを」


マティアスは黙って椅子に座った。しばらく息子を見ていた。


「あの嫁は務めを果たしていた」


「務めではなかった」


アルベルトは父の目を見た。


「俺が受け取っていたのは」


言いかけて、止まった。言葉が見つからない。務めではなかった。仕事でもなかった。愛という言葉を使う資格は自分にはない。自分は「愛していない」と宣告した側だ。では、あの毎朝の食卓は何だったのか。名前のつかないものだった。名前がつかないまま消えた。


その日の夜、ソフィアに手紙を書いた。


何を書けばいいか分からなかった。謝罪の語彙が貧しい。「あの時の自分が間違っていた」と書いた。「やり直す機会をいただきたい」と書いた。どちらの言葉も、日記に書かれていた妻の痛みに比べれば、あまりにも軽い。


手紙は三日後に戻ってきた。開封されていない。封蝋がそのまま残っている。ソフィアは読まなかった。


数え終えてようやく分かった。あの食卓を整えていたのは義務ではなかった。そして、もう二度と整えられることはない。

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