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第61話:天才たちの知恵の輪と未来のお飾り王女の『宮廷運営学』

冬休みまで残り僅かの貴族学園。

生徒たちはバカンスへの喜びを胸のうちへ秘めながら、翌週金曜日に予定されている期末試験に向けた最後の追い込みへと励んでいた。

もちろんレヴェリアの所属するDクラスも同様である。


「はぁ……。学科はそこそこ取れる自信あるけど、魔法と剣術の実技試験、憂鬱だな……」

「私も剣術試験、今から不安ですわ。魔法操作には自信がありますが、体術となるとうまくいかなくて」

「俺は逆に剣術試験以外マジでピンチっすよ。特に今学期の占星学、ほとんど寝てたんで赤点確実っす」

「自業自得じゃないの!あなたたちって本当に一芸特化ね。ま、私は魔法も剣術もできるけど。……魔法数学だけは苦手なのよね」


テオドールのため息から始まったいつものメンツのやり取り。

イザベラが言ったように、Dクラスには『一芸』に秀でた結果として爵位を得た家系出身者が多く存在する。

テオドールは家業である『錬金薬草学』に関しては教授レベルに精通しており、学科の成績は総じて良いが、魔法と剣術は苦手。アイーダの緻密な魔法操作は他の生徒を寄せ付けない域だが、剣術などの体術が苦手。リュカは剣術以外が苦手。元々高位貴族の血を引くイザベラは、全体的に水準が高いものの魔法数学が苦手、といった具合である。


「けど、みんなの一芸ってこの名門校でもトップクラスよ。長年の修行を積んで実力を身に着けたはずの私だって、それぞれの分野じゃみんなに敵わないもの」


そう言ったのは机上に各国の家系図を広げ、これまで黙々とヘルマンの課題である『周辺諸国の貴族派閥の暗記』をしていたレヴェリアであった。

彼女は完璧なヒロインになるためにおよそ10年に渡り乙女ゲーム『Eternal Lovers』の基本ステータスである学科、魔法、剣術、裁縫をはじめとした淑女教育を仕上げていた。もしゲーム画面のステータスが見られるならばまごうことなきカンストステータスである。

そんな彼女さえ、Dクラスの面々の特化されたスキルには舌を巻いていた。


「思うに全員で力を合わせれば怖いもの知らずだと思うんだけど。ほら、前期のゴーレム事件の時みたいに」


何気なく本心を口にしたレヴェリアであったが、その言葉にリュカが目を光らせた。


「おおっそれ、めっちゃ良いっすね!俺、剣術や体術のコツ……テストで減点されない最低限の身体の動かし方なら教えられますよ!」

「ええっ!?リュカ様、ぜひお願いしたいですわ!魔力操作や語学なら、私、教えられると思います」


それを聞いたアイーダが手を合わせて同調する。


「あ、リュカ、僕もお願い……。錬金術と薬草学は僕が教えるよ」

「仕方ないわね。数学以外でしたら私も教えてあげても良いわよ?」


テオドールとイザベラも話に乗り、たちまち四人の間で即席の『相互補修協定』が結ばれたのであった。


「今の聞こえたのですが、わたくしも剣術は苦手でして……。よろしければ混ぜてもらっても?代わりに占星術は任せてくださいませ。80点は保証いたしますわ」

「わ、私も良いですか……?史学は少しは貢献出来るのと、脳を活性化させる音楽を奏でます……」


そう言って話に入ってきたのは占星術の名手であるミラと、音楽家一族出身のアリアだ。

それに続いて「俺も体術なら教えられるぞ」「魔法数学なら私が」と知恵の輪が広がり、気づけばクラス全員が期末試験に向けて一致団結を始めたのであった。

しかし、一芸特化の彼らはいわば『感覚派の天才たち』。教え方も感覚的で極端であるためそのままでは上手い指導には繋がらない。

そこでレヴェリアがヘルマンの王妃教育により習得した『宮廷運営学』が火を噴いた。


「みんな、ストップ!気持ちは凄く嬉しいけど、無計画に教え合っても時間が足りないわ。……ふ、この私に任せなさい。全員の得意・不得意科目をリスト化して、最も効率的な『補修タイムテーブル』を作成するから!」


レヴェリアはどや顔で宣言すると、黒板の前に立ち、凄まじい速度でクラス全員の得意不得意をマトリクス化し始めた。

誰が、いつ、どこで、何を教えるか。限られた放課後の時間を分単位で区切り、無駄のない完璧なスケジュールを組み立てたのである。


それから数日、Dクラスの教室や修練場は、他クラスの生徒が戦慄するほどの魔境と化していた。


「剣術試験の基準点を取るためには、減点になる当たり判定を受けないことっす。コツとしては教官と一定間隔を保って、剣先の軌道から半歩ズレる」

「一定間隔……B級魔獣グリムホーンのバリア範囲くらいでよろしいでしょうか?」

「あ、ズバリそれくらいっす!ていうかグリムホーンのバリア範囲今覚えた!」


「テオドール様、そちらの星回りは錬金術の星辰魔道具と同じ内容です。性質も似通っておりますのでそのまま置き換えて考えれば大丈夫ですわ」

「本当だ……気づかなかった。ちなみにそっちの薬草の相乗効果試算は、魔法数学の魔力効率計算と同じ考え方だよ」

「え、凄い。学問同士って案外繋がりあるのね」


一芸特化な生徒たちが各々の知識を掛け合わせることで、かつてない化学反応が起きていた。

レヴェリア自身も全体のスケジュール管理という裏方作業に徹しつつ、持ち前のカンストステータスを活かして全員の隙間を埋めるように補足指導を行っていく。


かくしてDクラスの生徒たちはこれまでにない、満を持した状態でテスト当日を迎えたのであった。

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