表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/20

第5話:ヒロイン、鮮やかな一本背負いで少年心(闘争心)を擽る

「くっ。ドミニク様と知り合えたのは良かったにしても、あれから会うたびに難問を出されるわ……!一体どうなってるというの!?こちとらクイズゲームやってる訳じゃないのよっ!!」

「はっはっは!あー、やっぱり君は面白いな。……で、結局スチルってやつは獲得できたのか?」

「うっそれがまだ1枚も!獲得できてないのよっ!コンプする予定だったというのにこんな失態許されないわぁぁっ!!」


情報屋はおおげさに泣き崩れるレヴェリアの肩をポンと叩いた。


「まあ待て、次の情報を仕入れてある」

「次の情報!?」


情報屋の「次の情報」とは、レアなスチルが発生する合言葉であり、レヴェリアにとって魔法のセリフであった。


「リヴェ公子が放課後に修練所で鍛錬していることは知っているだろう?今日の放課後は修練所は上級生の貸し切りで使えないんだ。彼の行動パターンから推測するに、一人で校舎裏で鍛錬をするとみた」

「フェリクスが一人でっ!?確定演出なのね!?」


レヴェリアが歓喜の声を上げると、「失礼します」という声とともに第二音楽室の扉が開き、シルバーアッシュの髪を肩で切りそろえた美男子が入ってきた。

そして、何やら情報屋に耳打ちしている。


「お、悪いな。喜べ、たった今さっきの推測が確定した。校舎裏に行けば一人で鍛錬している公子に会える。修練所が使えないという言い訳も使えば自然に接触出来るってわけだ」

「ほ、本当!?っていうかその方はだれ!?」


こちらに怜悧な紫色の目を向ける、あきらかに良い家柄の貴公子。

エタラバ原作では見たことはないが、もしゲームに出ていたら確実に攻略対象に入っていたであろう麗しい容姿をしている。


「ああ、彼は部下だ。……いや、おたくそんなことを気にしてる場合か?早く行かないとせっかくのイベントが終わってしまうぞ」

「はっ!!!そうだったわ!情報屋ありがとね!そちらの貴公子のお方も!」


レヴェリアはそう言うと、貴公子への関心を放り投げ、情報屋に魔法石のはめ込まれたボンボンドロップシールを手渡し廊下へと駆け出したのだった。




***




情報屋の目論見通り、一人で剣を振るフェリクスを発見したレヴェリアは今度こそ勝利を確信した。


(【背後から密着☆剣術指導】スチル発生条件が完璧に整っている……!)


レヴェリアの中の攻略済みデータベースが彼のページを読み込んだ。


フェリクス・ド・リヴェは、アステリア王国の騎士団長子息である。

彼は幼少期から剣術のスキルが抜きんでていたが、優しすぎるがゆえに騎士としての適性に悩んでいた。

人を傷つける武器を振るい、ときには命を奪う覚悟を持たなくてはならない騎士としての業。そして、他人を簡単に打ち負かしてしまう自身の才能の残酷さ。

それらが明るい兄貴肌の中に、どこか影のある一面を作り出していたのだ。

しかし彼はヒロインと交流していくうちに、自分より遥かにか弱い彼女を守ることに自身の剣を振るう意義を見出し、「俺の才能(ちから)は、お前を守るためにあったんだな」と覚醒する、王道かつ胸キュン必至の忠誠騎士ルートへ突入していく仕様になっているのだ。


レヴェリアは完璧に誂えた修練服を着て完璧な角度でポニーテールで結んだプラチナブロンドを揺らし、彼に近づいた。


「アッドウモ失礼いたします~。修練所が使えなくって、泣く泣くこちらに来たのですが、お邪魔でなければご一緒させてもらってもよろしいでしょうか~??」


レヴェリアは木剣を抱きしめ、完璧な角度であざとい上目遣いを決めた。

原作では合流してからのセリフしかなかったので彼女なりに一生懸命考えた完全アドリブ(なのに棒読み)だが、滑り出しが少し不審者めいていた。

しかしその棒読みに優しく返してくれたのが……。


「ん?ああ、もちろん。女性だってのに放課後に鍛錬するなんて珍しいな。相手が必要なときは声をかけてくれよっ!」


騎士団長の子息フェリクス。

アッシュブラウンの髪に青灰色の瞳を持つ精悍な騎士である。

彼の誰にでも優しく兄貴分に振舞う姿はエタラブの癒しであり、大型犬のような愛嬌も持ち合わせていた。


「ありがとうございますっ!」


(……よし、まずは自然に素振りを見せて、隙を作るのよ!)


レヴェリアはニヤリとほくそ笑むと、意気揚々と少し離れた場所に立ち、木剣を大げさに構えた。

そして――。


「きゃっ!遠心力により剣がうまく振れないわっ!どうしたらよいのかしらっ!?」


スチル発生の必須条件であるセリフを完璧な表情とタイミングで叩き込んだ。


「どれどれ、俺で良ければ見てやるぞ。一度振ってみせてくれ」

「はいっ!」


自身の鍛錬の手を止め、彼女の元へ顔を向ける兄貴分のフェリクス。

レヴェリアはしめた!とばかりに、わざと下手に、ふらふらと木剣を振った。


「うーん、重心が違うんだよな。ちょっと手を重ねて良いか?」

「は、はいっ!もちろんですっ!」


レヴェリアは、フェリクスの面倒目の良い申し出に目を光らせた。


(やったわ!これぞ【背後から密着☆剣術指導】スチル!!!やっと念願の初スチル達成よーー!!!)


と狂喜乱舞した次の瞬間。


レヴェリアのカンストした剣術ステータス(反射神経と筋力)が、背後から迫るフェリクスの僅かな隙と重心のブレを完全に敵の隙として『自動検知』した。


「きゃっ」と可愛くもたれかかるはずが、レヴェリアの身体が勝手に動き、フェリクスの腕を掴んで完璧なタイミングで鮮やかな一本背負いを決めてしまったのだ。


ドゴォォォン!!


轟音と共に、屈強な騎士団長子息が宙を舞い、地面に沈んだ。


またしてもハッと我に返ったレヴェリアは口を大きく開けて頭を抱えた。


(((ああああっ!私のバカァァァッ!!またしてもイベントが!王道密着スチルがぁぁぁ!!)))


自分が投げ飛ばしたくせに、地面をバンバン叩いて本気で悔しがる彼女。

仰向けに倒れたフェリクスは、しばらくぽかんとした後、ゆっくりと立ち上がった。

そして。


「……はははっ!お前、すっごく強いな!俺、こんなふうに本気で投げ飛ばされたの初めてだ!」


レヴェリアに向かって屈託のない、ゲームには存在しない少年のような笑顔を向けた。


「俺の名はフェリクス・ド・リヴェ。レヴェリア嬢、これから一緒に鍛錬していこうぜっ!」

「ああっまた原作と違う差分!?甘いスチルはどこへ行ったというのーー!?!?」


さわやかな風に吹かれ確立する、強敵に対する尊敬と熱意。

彼女は今度は、『最高の好敵手(ライバル)』ルートへと足を踏み入れてしまったのだった。



***




翌日、レヴェリアは情報屋に報告しに向かった。


「スチルは逃したけど、なんかフェリクス様がすっごく爽やかな顔で『次は負けないからな! 今日も手合わせ(デート)しようぜ!』って誘ってくるようになったの!! これって原作が戻ってきたってことよね!?」


情報屋は呆れながら、「いや、それ完全に『好敵手ルート』に入ってるだろ」とツッコミを入れるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ