第44話:天上から降ってきた瓦礫と、極大の嫉妬心
「ルシウス殿下!コアが露出したわ!今よっ!」
「了解だレヴェリア!僕の極大魔法を浴びせてやる!」
「おっと、あなたの相手はこの私よ!詠唱中の魔法使いに被弾させてたまるものですか!」
レヴェリアの鉄壁の防御が敵の猛攻を完全に弾き返し、生じた一瞬の隙。そこへ、背後から放たれたルシウスの白光の魔法が露出された守護者の核を正確に射抜いた。
互いの背中を完全に預け合った、完璧なコンビネーション。
敵を全て駆逐したのを確認すると、彼らは互いに背を合わせて座り込んだ。
「はぁ……はぁ。やっと倒せた。なんという複雑なギミックだ。やはり古代人の文明は侮れんな」
「ぜぇ……ぜぇ。私気付いたけどこの遺跡に点在するこの壁画模様、神霊と人が並んで描かれている。つまりこの遺跡の深部が造られたのは上部が建設されるより遥か昔と言うことになるわ。これ、調査したら学説がひっくり返るような歴史的事実が出てくるんじゃないかしら」
「……あぁ、ぜぇ……それにこの石板や通路の素材も上部の遺跡とは違うな。まさか人が神霊と共に生きていた神代の遺跡とは、思わぬ発見をした」
「こっちの壁の古代精霊語によると……」
ここに来て二人には呑気に遺跡の壁画について語り合う余裕まで出てきた。宝箱らしき重厚な箱から根こそぎ魔導書なども収集し出す始末だ。
幾つもの戦いを経たことにより二人の絆が最高潮に達し、『こいつといれば最強!』という深い信頼が生まれたからである。
「だいぶ階段を上がってきてはいるからな。そろそろ出口は近いと思いたいが」
「殿下ったら30分前も同じこと言ってたわよ!次の分かれ道は私が進む道を決めますからねっ!」
「む、しかし明確な行き止まりにはあってないじゃないか」
口喧嘩までし出して、もはや親友のような二人は、ついに最上層の巨大な空間へと辿り着いた。
「さあ、ここを抜ければ地上だ!一気に行くぞ、レヴェリア!」
「ええ、殿下!」
二人が勢いよく歩みを進め、待ち構えていた『真の守護者』が巨大な影を落として咆哮を上げた――その瞬間だった。
ズドォォォォォォォンッ!!!
鼓膜を破るほどの爆音と共に、遺跡の分厚い天井が跡形もなく吹き飛んだ。
何が起きたのか理解する間もなく、降り注ぐ巨大な瓦礫の下敷きになり、出落ちで絶命する『真の守護者』。
「ちょ!なになに!?殿下、下がってください!!」
「君こそ下がれ!良い加減なんでも体当たりで済ませるのはやめるんだ!」
「はぁ!?魔法防御ですけど!?」
互いを庇いながら咄嗟に身を寄せ合い、小競り合いを始める二人。
もうもうと舞い上がる土煙が明けると。
その中から、塵一つない純白の軍服に身を包んだディートリッヒが静かに舞い降りてきた。
「……これは随分と、楽しそうなピクニックの最中だったようですね、ルシウス殿下」
完璧な微笑み。非の打ち所のない、帝国の皇子としての優雅な一礼。
しかし、その見目麗しい笑みの奥の瞳は、絶対零度のように冷たかった。
(俺がこれほど……己の半身を裂かれる思いで、狂うほどに焦燥を募らせていたというのに。君は、他の男とそんなにも輝かしい絆を結んでいたというのか……!)
内心でドロドロとした真っ黒な嫉妬の炎を燃えたぎらせながらも、ディートリッヒは決して『同盟国の王子を救出しに来た高潔な皇子』の建前を崩さない。
「救出が遅れ、申し訳ありません。ですが……どうやら私の焦りは杞憂だったようですね。殿下には、我が帝国軍の一個大隊にも匹敵する、ずいぶんと『優秀な盾』がついていたようですから」
その言葉には、極上の敬意に包まれた猛毒が混じっていた。
『王族でありながら、か弱き令嬢に前衛を任せて生き延びたのですか?』という、冷酷で遠回しな嫌味である。
しかし、当のレヴェリアはそんな水面下の牽制など微塵も気づいていなかった。
(えええええーー!?!?帝国の皇子がなんでここに!?あ、この前一緒に鍛錬して仲良くなったとか!?わざわざ救出に来るって凄く人情味ある人なんだなぁ……!)
思いがけず好印象を獲得するディートリッヒだが、残念ながらそれどころでない本人はその朗報には気づいていない。
一方のルシウスは、目の前の帝国皇子から放たれる『名状しがたい底知れぬ圧』に、嫌な汗を流しながらも王族としての矜持で彼に向き合った。
「え、ええ……感謝いたします、ディートリッヒ殿下。彼女の献身と規格外の強さがなければ、私はとうに命を落としていたでしょう」
「……本当に、ご無事で何よりです」
ディートリッヒは今すぐにでもレヴェリアをその腕に強く抱き寄せたい衝動を必死に理性で押さえ込み、ひび割れそうな微笑みを浮かべ続けるのだった。




