第43話:背中合わせ共闘と物理破壊される遺跡
「ルシウス殿下っ!このヒカリダケ、風味が効いててめちゃくちゃ美味しいですよ!殿下の焼き加減も流石なものです!」
「ふ、僕の火加減を甘く見るなよ?レア、ミディアムレア、ミディアム、ウェルダン、どれでも来いだ」
「はぁ。ここにバターと塩胡椒があれば最高だったんですが」
「案ずるな。外に出たらいくらでもご馳走してやろう」
地上に恐ろしい勢力が集まりつつあることなど梅雨知らず。
ルシウスとレヴェリアは呑気に食事を取っていた。
レヴェリアが魔法植物学の知識で食物を選別し、ルシウスの魔法で調理しする。かなり理想的なサバイバル術であった。
「しかし自ら攻撃を受け頭突きで攻撃し、屈託なく笑うとは。君はなんとも不思議な令嬢だな」
「ふふふ、エレイン様とは大違い……ですか?」
レヴェリアはわざと茶化すようにそう言った。
それに返ってきたのは彼女の予想を超えた回答だった。
「……そうだな。彼女は自ら動くのではなく他者を動かす、根っからの女帝だ。だからこそ僕たちは彼女にうまく踊らされているのだろうが」
「ぐっげふんげふん!!」
「大丈夫か?」
水を気管に詰まらせ豪快にむせていたレヴェリアはバッと顔を上げた。
まさか攻略対象の筆頭からそんな客観的な発言が飛び出すとは思いもしなかったのだ。
「お、お気づきだったんですか……!彼女の逆ハーに!」
「逆ハーという言葉は知らないが、彼女の周囲に男が集まっていることなら当然気付いている。僕だけじゃない。ドミニクもフェリクスもノエルも理解した上で彼女に惹かれている」
「さ、さすがだわ……!!」
そのポジションはさながらヒロイン。
レヴェリアはエレインの手腕と彼らの精神的な成熟っぷりに、心からの賛辞を送った。
「僕たちは彼女に救われたからな。エレインと出会っていなかったら僕は君とこうして話すこともなかっただろう」
過去のしがらみを乗り越えたからこその、穏やかで澄んだ瞳。ルシウスのその真っ直ぐな表情を見て、レヴェリアは確信を深めた。
(私の推理通りだわ!幼少期に彼女が彼らのコンプレックスを解消したことにより、全員原作より断然能力も性格も魅力も高くなっているのね)
一人で納得して深く頷くレヴェリア。だが、そんな呑気なサバイバル生活は、地響きと共にゆっくりと開いた奥の巨大な石扉によって唐突に終わりを告げた。
暗闇の奥から姿を現したのは、先ほどの鉄魔像とは比べ物にならない凶悪な魔力を持った、遺跡の防衛システム。
「……どうやら、食後の運動には少しばかりハードすぎる相手のようだ」
「ヒカリダケのカロリーを消費するには丁度いいわ」
「さて、やるか」
遺跡のサバイバルを共に息抜き絆を深めた戦友たちによる少年漫画さながらの、背中合わせの共闘が始まろうとしていたーー。
***
「何、帝国から援軍だと?ブランシェール男爵家からも!?ノルドレイン聖国の騎士も混ざっているぞ!」
夜明けとともに到着した援軍は、即座にアステリア王国の拠点を訪れ遺跡の破壊許可をもらうと、先を争うように複雑なダンジョンとなっている遺跡外部の破壊に取り掛かった。地面の下に続く道を探すためだ。
また既に見つかっている地下階段へは複数に分かれた精鋭部隊の突入、一部のスペシャリストたちは特殊スキルを使った遺跡内部の解析など、王国の陣営に代わって瞬く間に現場の主導権を握ってしまった。
「クロード・ブランシェールです。娘の救出に参りました。私兵並びに親交のあるノルドレイン聖国大使館より精鋭の騎士を借り受けております」
「ニルヴァス帝国第三皇子、ディートリッヒ・ヴォルフ・ヴァン・ニルヴァスだ。友人であるルシウス殿下の救助のため、我が国の精鋭を投入させてもらう」
恭しく、しかし一切の拒否を許さない強烈な圧を放つ二人の美しき代表者。
演習の監督であった教授陣や近衛騎士たちは、目の前の光景に眩暈すら覚えていた。『救出』という名目こそ掲げているものの、彼らが引き連れてきたのはどう見ても私兵の規模を超えている。
一国の王子(と男爵令嬢)が落ちたとはいえ、大国の特務部隊と他国の精鋭騎士団が結集し、歴史的価値のある古代遺跡を物理的に解体しようとしているのだ。前代未聞の過剰戦力による、大地を揺るがす救出劇が幕を開けた。




