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第32話:極大魔法を顔面で受け止める元ヒロインの彼女

アステリア王立貴族学園が誇る巨大な闘技は、割れんばかりの歓声と熱気に包まれていた。

広大な闘技場のフィールドには、『星紡ぎの陣』のために用意された複雑な遮蔽物が設置されている。

その両側にそびえ立つのが、各陣営の拠点となる『星見の塔』だ。


「これより、一学年クラス別対抗戦『星紡ぎの陣』最終戦、Aクラス対Dクラスの試合を開始する!」


魔力拡張された審判の声が響き渡ると同時に、闘技場の中央上空に、眩い光を放つ『流れ星の欠片』がふわりと出現した。それを奪い合い、自陣の塔へ持ち帰るか、敵陣の最深部まで押し込めば勝利となる。


「よーし、やるわよ!」

「おっし、頑張るっす!」

「全力でサポートしますわ!」

「できる限り頑張るよ……」

「ふん、私の邪魔をしないでよね」


ここまで負けなしで突破してきたDクラス。

同様に当然のように全勝で勝ち上がってきたAクラスと、決勝というかたちで相対していた。

Dクラスの応援席ではアリアが竪琴で、戦意と攻撃力を底上げする旋律を奏でている。

代表に選ばれた彼らはアイーダがデザインし、レヴェリアが仕上げた戦闘装束を身に纏い、手を合わせた。

そして、短い掛け声で鼓舞すると、ミラが占星術で最適化したそれぞれのポジションへと着いたのだった。




開幕のブザーが鳴り響いた瞬間、最初に動いたのはテオドールだ、

彼は走りながら錬金術で精製された特殊な植物の種を周囲へばら撒いた。

種は闘技場の石畳に触れた瞬間、異常な速度で発芽し、瞬く間に人間の背丈を超える強靭なバリケードと、視界を遮る濃密な胞子の罠を構築した。

陣取りゲームにおける基本、見事な盤面支配エリアコントロールである。


「よし……これでしばらくは」


テオドールが手応えを感じた、その直後。


「小賢しい真似を」


Aクラスの陣営から、ルシウスの冷徹な声が響いた。

彼が杖を軽く一振りした瞬間、極大の熱波が放射状に放たれた。


ドオォォォォンッ!!


轟音と共に、テオドールが構築したバリケードと胞子の罠があったりと消し飛んだ。

それは、作戦や小細工を一切許さない圧倒的な『魔力』による蹂躙であった。


「げ……規格外(チート)じゃん……やばい」

「怯むな!押し込まれるっすよ!」


熱風が吹き荒れる中、Dクラスの前衛リュカが飛び出した。

彼の目前に迫っていたのは、騎士団長子息フェリクスの重い大剣だった。


「ハァッ!!」


フェリクスの全力の唐竹割りがリュカに襲い掛かる。

まともに受ければ、剣ごと腕の骨が砕かれるような一撃だ。

しかしリュカは冷静だった。


「……ここっす!」


ガキンッ!と鋭い金属音が響く。

リュカは自身の身体全体に常時強化魔法を掛けられるほど大きな魔力を持ち合わせていない。

代わりに、フェリクスの大剣と自分の剣が接触する『コンマ数秒間だけ』魔力を集中させて身体強化を行ったのだ。

極限まで魔力消費を抑えつつ、相手の力をそらす達人級の受け流し。


「おおおっ!さすがだなリュカ!!」


フェリクスが楽し気に笑い、さらに追撃を入れる。リュカは冷や汗を流しながら、極限の集中力でその猛攻に食らいついた。


一方、支援魔法担当のアイーダもまた、針の穴を通すような神がかった攻防を繰り広げていた。


「ルシウス殿下の魔法、被弾しますわ!」


彼女にはDクラスのメンバー全員を覆うようなバリアを展開するだけの魔力を持っていない。

だからこそ、彼女は飛んでくる魔法の軌道と着弾点を予測しながら、味方に魔法が着弾する数秒前にだけ、ピンポイントの極小バリアを展開していた。

パァンッ!と、空中でアロイスやルシウスの放った光刃が、バリアに相殺される。

一瞬のタイミングのズレが仲間の致命傷に繋がる極限の支援だ。


テオドールもまた、Aクラスの参謀であるドミニクの放つ厄介な重力魔法や視界妨害魔法に対して、錬金植物の特殊な胞子を散布して魔力波長を中和させ、泥臭く盤面を維持し続けていた。


「すごい……DクラスがあのAクラス相手に、完全に全面を維持しているぞ!?」


観客席から上がる驚愕の声。

本来なら拮抗することすらあり得ない絶望的な戦力差であるはずのAクラスとDクラス。

魔力量で圧倒的に劣る彼らが持ちこたえているのは、各々が自分のリソースを完璧に管理し、ミクロの技術を極限まで研ぎ澄ませているからに他ならない。


そして、この前線が崩壊せずに済んでいる最大の理由。


「ルシウス殿下の極大魔法もドミニク様のデバフも、まとめて私によこしなさいっ!!」


闘技場の中央に陣取り、狂ったように敵の攻撃を受け続けている絶世の美少女―—レヴェリアだ。

彼女は『流れ星の欠片』を持つアイーダをその背に庇いながら、Aクラスの魔法攻撃に身体をぶつけ、ときには顔面でそれらを受け止めていた。


「なんだあの令嬢は!?」

「アッあのお方はメデューサ様……!!」


会場から謎のどよめきが起こる。

爆炎に顔を焼かれ、雷撃に身体を貫かれても「ふっ、私にダメージを与えたいならドラゴンでも連れておいでなさい」とどや顔する、限界突破した物理防御とオート魔法防御。

彼女という理不尽な盾が、敵の攻撃を一身に集め、強引にAクラスの前進を押しとどめているのだ。


(完璧だわ!私がすべての攻撃を集めている間に、イザベラ様の高火力で一気にAクラスの陣形を吹き飛ばせば勝てる!!)


レヴェリアは最前線で攻撃を弾き飛ばしながら、勝ちを確信していた。


しかし。


「あら、なぜかしら。ラインが下がっている……?」


レヴェリアが足元を見ると、死守していたはずの中央ラインから、じりじりとDクラスの『星見の塔』側へ陣形が押し込まれていた。


その原因は、後方で固定砲として構える『最強の矛』―—イザベラにあった。


「どうして……なんで私の魔法が通らないのよっ!!!」


イザベラは焦燥に顔を歪めながら、持てる最大の魔力を込めて炎の上級魔法を連発していた。

その一つ一つの威力は、Aクラスのノエルと同等、あるいはそれ以上の破壊力を秘めている。

だが、そのすべてが、敵陣に届く前に薄氷の盾に相殺されていた。


「……軌道が単調なんだよ、フロレンティア嬢」


Aクラスの最後方で防御を担当するノエルが、涼しい顔で呟く。


「君の魔力は素晴らしい。でも、撃ち出すタイミングが実に『自分本位』だ。詠唱の癖、杖の角度、着弾位置……すべてが読み通り。君一人のタイミングで打ってくる魔法なら、どんなに威力が強くても防ぐのは容易いよ」


ノエルの言葉通りだった。

イザベラは、リュカやテオドールが敵の体勢を崩している状況や、アイーダの支援魔法のタイミングを一切見ていなかった。『自分の魔法で圧倒してやる』というプライドが邪魔をして、チームとの連携を無意識に拒絶し、単独で孤立した砲台に成り下がっていたのだ。


「くっ……私が足手まといだなんて……許されないわ!!」


焦ったイザベラがさらに大振りの詠唱に入った瞬間、ノエルの支持を受けたドミニクの妨害魔法がテオドールの胞子を抜け、Dクラスの足元を襲った。


「しまった……!!」

「くっ!!」


限界ぎりぎりで前線を支えていたリュカとテオドールが、ついに体勢を崩す。

二人のカバーが遅れたその一瞬の隙を、Aクラスは見逃さなかった。

ルシウスの鋭い魔法が、レヴェリアの後方で『流れ星の欠片』を保持しながらサポートを続けていたアイーダの腕を掠め。


「きゃあっ!!」


アイーダがバランスを崩して、その腕の中から『流れ星の欠片』がこぼれ落ちた。

淡く光る星の欠片は、無情にもDクラスの陣地の目の前―—防衛ラインの最終防壁の手前で、虚しく宙に浮きあがった。


「ああっ……!」


イザベラが絶叫する。


「ここまでだ。よく善戦してはいたがやはり俺たち(Aクラス)には及ぶまい」


ルシウスはそう呟くと、浮き上がった欠片ごとDクラスの陣地を吹き飛ばすべく、杖の先に最大級の魔力を収束させ始めた。


誰もが、Dクラスの敗北を確信した瞬間だった。

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