第22話:物理防御限界突破のヒロイン
ようやく前期期末試験が終わり、ほっと一息吐いた午後。
修練所に、Dクラスより選ばれし精鋭たちが集っていた。
『星紡ぎの陣』に出場する5人の精鋭に選ばれたのは、レヴェリア、アイーダ、リュカ、テオドール、そして――イザベラだった。
「ふん。あなたたち、本気でAクラスに勝てると思っているの?相手はルシウス殿下と、極めて優秀な公爵家の令息たちよ?正直頑張るだけ時間の無駄だわ」
腕を組んでそう吐き捨てたのは、侯爵家から降格して男爵家となったフロレンティア家の令嬢イザベラだ。
彼女はゴーレムの事件の後、短い謹慎期間を経て戻ってきたのだ。
明らかに場を乱す彼女が代表に選ばれた理由は他でもない、彼女の保有する大きな魔力だった。
「そんなことないわよ。確かに殿下たちは強いけれど、彼らが連携を取るところなんて想像つかないもの!」
笑いながらそう言ったのは、我らがヒロインである。
「それにイザベラ様、あなたの魔力はルシウス様に次ぐノエル様と同じくらい。学園でもトップクラスよ!私とあなたがいれば魔力不足は補える。そして、アイーダ様、リュカ君、テオドール君の技能と機転があれば良い勝負になる、保証するわ!」
「ええ、私たちがレヴェリア様を優勝に導く礎になりますわ……!」
「女神がいれば優勝も夢じゃないっすよ!」
「足手まといにならないよう、頑張るね……」
レヴェリアの意気込みにアイーダ、リュカ、テオドールが応える。
彼らが結束を固める中、イザベラは明らかにイライラしていた。
(これまで一緒になってレヴェリアを僻んでいた令嬢たちも掌を返してしまって、すっかり私が浮いた存在じゃない!なんだってこの平民がこんなに受け入れられているのよ!)
そしてその彼女の苛立ちは、修練場での実践訓練にも如実に表れていた。
「私の魔力を見るがいいわっ!上級火炎魔法【ステラ・レイ】!」
イザベラが持つ強大な魔力が乗った火炎魔法が訓練用の木製ダミー人形を次々と吹き飛ばしていく。
その威力は確かに学園トップクラスだが、明らかに力みすぎていた。
「イザベラ様、少し抑えてください。ペースが速すぎます」
「私に指示しないで頂戴!私は私の魔法で、高貴な血統であることを証明して見せるんだから……!」
アイーダの静止も振り切って、イザベラは即座に次の火炎魔法の長い詠唱に入っていた。
しかしその時、彼女が勢いよく吹き飛ばした炎で燃え盛ったダミー人形の一体が天井付近の壁にバウンドし、凄まじい勢いで回転しながら、無防備なイザベラの死角へと飛んできた。
「イザベラ様!!!」
「危ないっ!!」
アイーダやリュカが反応するも、間に合わない。
(えっ……?)
イザベラが気づいたときには燃えながら迫りくるダミー人形がすぐ頭上に迫っていたのだ。
詠唱中の彼女は身動きが取れず、目を見開いて硬直した。
その瞬間―—レヴェリアの脳内で『乙女ゲームのイベント発生音』が高らかに鳴り響いた。
(これはっ!!まさしく『修練所での訓練の事故で友達を庇って怪我をした健気なヒロインが保健室に運び込まれる』イベント!!今回の事故が起こるのはDクラスだけど、多分リュカ君あたりがフェリクス様に知らせてくれて誰かしらはお見舞いに来てくれるはず!ヒロイン指数と好感度アップ間違いなしだわ!!)
レヴェリアは迷うことなく地面を蹴り、驚くべき俊敏さでイザベラの前に躍り出た。
「危なーーーいっ!!か弱い私がイザベラ様を庇ってみせる!!」
可憐な説明口調の悲鳴と共に、レヴェリアはイザベラに両手を広げて立ちはだった。
そして今回は慎重に、オート防御魔法もオフにした。
(ふ、魔法防御なしなら少しは怪我をして心配してもらえるはずっ!)
――バキィィィッ!!
彼女の打算通り人形が彼女の身体に直撃し、鈍い衝撃音と共に、木片が盛大に宙を舞う。
さすがのレヴェリアも致命傷を受けたか――!?
と、思いきや。
「…………あれ?」
レヴェリアは、全くの無傷で立っていた。
(えええっ!?全然痛くないじゃない!それどころか、そよ風が当たったくらいの感覚しかしなかったわよ!?私の物理防御どうなってんの!?)
実は元の防御力に加え、義父クロードが毎朝食べさせていた『究極のヒロイン朝食セット』によって極限まで高められた物理装甲が、ダミー人形の運動エネルギーを完全に上回り、破壊してしまっていたのだ。
「おおおおーっ!さすが女神!あの重いダミー人形を、一歩も引かずに体当たりで粉砕するなんて……完璧な『盾』の動きっすね!」
「怪我はないかい?……って、聞くまでもなさそうだね。一応、特級の治癒薬を調合しておいたんだけど、レヴェリア嬢の物理耐性の前じゃ、僕の錬金薬草学の出番は一生なさそうだね……」
リュカが目を輝かせて拍手を送り、テオドールが苦笑いしながら緑色の小瓶を白衣のポケットにしまった。
「さ、さすがですわ……レヴェリア様っ!!さながら戦いの女神ミネルヴァのようなお姿!私、これからも精一杯精進して完璧なサポート魔法を掛けさせていただきます!!」
限界突破して祈りのポーズを捧げるアイーダ。
(ち、違うのよ!みんなして私を盾として称賛しないで!私はただ、か弱く怪我をして保健室スチルを回収したかっただけなのよぉぉ!)
無傷で立ち尽くすレヴェリアは、心の中で激しくツッコミを入れながら血の涙を流した。
「あ、あなた……」
背後から、震える声が聞こえた。
振り返ると、イザベラが粉砕されたダミー人形とレヴェリアを交互に見比べながら、信じられないものを見るような目をしていた。
「あなたぶつかる直前、オート防御魔法オフにしてたでしょ!?一体全体、なんで無傷なのよ!?バケモノなのっ!?」
「え、えーっとそれは……たまたま、物理的角度が奇跡的に私に味方したというか」
さすがの高魔力保持者の眼力でオート防御魔法オフを見破るイザベラ。
それに対して、しどろもどろに無理のある言い訳をするレヴェリア。
「…………。私を庇うなんて、ほんと馬鹿じゃないの」
「イザベラ様……」
「でも……もしあなたが壁にならなかったら、私が大怪我してたわ。……あなたみたいに頑丈じゃないんだから」
イザベラはツンとそっぽを向きながら、消え入りそうな声で付け足した。
「……悪かったわね。あなたの足手まといにならないように、次からは周りを見て詠唱してあげるわよ」
(あら?保健室イベントこそ物理で粉砕してしまったけれど、これってもしかして孤高のツンデレ令嬢からの『デレ(好感度アップ)』なんじゃないかしら!?)
嬉しくなったレヴェリアは、イベントへの未練をスパッと切り替え、満面の笑みを向けた。
「ふふふ、頼りにしているわ!私たちの誇る最高火力さん!」
「なっ……!ば、馬鹿言ってないでさっさと陣形に戻りなさいよね!次こそは私の魔法だけでダミーを全部灰にしてやるんだから!」
顔を真っ赤にしてプイッと背を向けるイザベラ。しかし、再び杖を構えた彼女から立ち上る魔力は、先ほどまでの荒々しい苛立ちが嘘のように、静かで澄んだものへと変わっていた。
手を取り合うほどの完全な和解とまではいかないものの、無敵の物理盾と高火力の魔法砲台の距離は、この日確実に一歩縮まったのだった。




