第2話:ヒロイン、必須イベントを奪われ初期位置に残留する
ルシウスが首席を務めた始業式が終わり、次は貴族学校伝統の『魔力測定式』の時間である。
(気を引きしめるのよ、レヴェリア。原作では儀式の際、ルシウスの強大な魔力によって『魔力測定球』が故障する。それを私が助けることによって、レヴェリアはDクラスからルシウスたちと同じAクラスに特別編入する……!今後のストーリー展開のために絶対欠かせない重要イベントだわ!!)
オープニングで出鼻を挫かれたレヴェリアは、なんとか気を取り直して始業式に参加し、そのまま儀式に参列するためにDクラスの列に並んでいた。
この貴族学園のクラス編成は原則、身分ごとに分かたれている。
Aクラスは王族、公侯爵家を始めとした上位貴族の子息令嬢が集まる最上位クラス。
一方でDクラスは、主に男爵子息が所属する、全員が貴族であるこの学園においては下位に位置するクラス。
アステリア王国では爵位が高いほど魔力保有率も高い。そのため王立貴族学園では、入学条件である一定以上の魔力を満たす者の割合が上級貴族ほど高かった。
結果として貴族社会全体では男爵家が最も多いにもかかわらず、学園内では各爵位の生徒数はある程度均衡しているのだった。
ちなみに『Eternal Lover』の攻略対象者は全員Aクラスに所属している。
ここでAクラスに編入しないと、男爵令嬢のレヴェリアは本来雲の上の存在である攻略対象たちと、そもそもの接点がなくなってしまうのだ。
***
大講堂で行われる伝統の魔力測定式は、厳かな空気に包まれていた。
「次、ルシウス・ヴェルクール・ド・アステリア」
「はい」
Aクラスの筆頭である第二王子ルシウスが名前を呼ばれ、壇上へと上がる。
彼が中央に置かれた古い魔力測定球に手を触れた瞬間、事件は起こった。
ピキッ……バキバキバキッ!!
「な、なんだこの魔力は!?測定球が耐えきれないぞ!」
教師たちの悲鳴が響き渡る。
強大すぎる魔力の奔流に耐えきれず、巨大な水晶が激しく発光し、ひび割れ始めたのだ。
「くっ……!」
ルシウス本人は自身の魔力の暴走に当てられ、その場に苦しげに膝をついてしまった。
今にも測定球が爆発しそうな絶体絶命のピンチに、講堂内はパニックに陥る。
(((神イベントキターー!!これよっ!)))
Dクラスの列に並んでいたレヴェリアは、原作通りの展開に内心ガッツポーズを決めた。
ここで動けなくなったルシウスを庇うため、Dクラスのヒロインが咄嗟に飛び出すのだ。
そして無意識に発動した聖なる光のバリアで彼を救い、その功績と規格外の魔力を認められ、特例としてAクラスへ昇格する。
エタラバ屈指の名シーンであり、今後のストーリー展開に置いて絶対に欠かせないシンデレライベントである。
(さあ、行くわよ!ルシウスを庇って、今回こそスチルを回収するんだから……!)
レヴェリアがドヤ顔で勢いよく一歩踏み出そうとした、その瞬間ーー。
「ルシウス様、お気を確かに!!」
凛とした声が大講堂に響いた。
いつの間にか壇上に上がっていたのは、Aクラスの列にいたはずの公爵令嬢エレインだ。
彼女は一切の無駄がない優雅な所作でルシウスの前に立つと、懐から取り出した『魔力制御魔石』を素早く測定球に押し当てた。
ジュッ!!シュゥゥゥゥゥゥ…………
音と煙を立てて、暴走していた魔力が瞬く間に鎮静化していく。
「エレイン……!君のおかげで助かった。ありがとう」
「ご無事で何よりですわ、ルシウス様」
膝をつく第二王子と、彼を包み込むように微笑む美しき公爵令嬢。
まるで絵画のようなワンシーンに周囲から感嘆の声が漏れる。
「さすがエレイン様!」
「なんという見事な対応だ!」
「それに引き換え我々は動くことすらできなかった……」
教授陣、生徒、参列者、全員が惜しみない賞賛を送り、割れんばかりの拍手が巻き起こる。
エレインは気恥ずかしそうにしつつも、控えめに笑みを返している。
(((……はっ!!)))
その圧倒的なヒロインムーブを目の当たりにして、石のように固まっていたレヴェリアは我に返った。
(えっえっえっ……?嘘でしょ?)
彼女は現状をうまく把握できないでいた。
今後のストーリー展開に置いて絶対欠かせないシンデレライベント。
男爵令嬢が本来雲の上の存在である攻略対象たちと毎日顔を合わせるための唯一の機会。
それをまさかの、悪役令嬢にイベントを捕られてしまったのだ。
(なんで……なんで魔力制御魔石なんか持ってるのよ……っ!!)
我らのヒロインは、千載一遇のAクラス昇格イベントを悪役令嬢に奪われ、引き抜かれる理由を永遠に失いーーただのDクラスの男爵令嬢として学園生活をスタートさせることになってしまったのだった。
(う、う、嘘でしょ……!?私の特別編入はどうなるのよ!?っていうか攻略対象全員Aクラスなんだけど……!!!)
彼女はあまりのショックに真っ青な顔でその場に崩れ落ちた。
10年という歳月を掛けあらゆるステータスを底上げして満を持して入学した完璧なヒロイン、レヴェリア。
彼女は「君、大丈夫か!?」「保健室へ!」という周囲の優しさに感謝をしつつも、愛する『Eternal Lovers』の神シナリオからまたしても大きく離れてしまったことに目の前を暗くしたのだった。




