第18話:一芸特化のDクラスと頼れるヒロイン
「ゴーレムの動力源を止めるには……投射角度を計算して……」
ブツブツと呟きながら前に出たのは、代々錬金薬草学に精通する家系出身である地味な男子生徒テオドールだった。
彼はゴーレムの前に立つと慣れた手つきで、実習用に持っていたポーチから『乾燥した灰色の薬草』と『水色の液体が入った小瓶』を取り出した。
「テオドール、何してるの!?無機物のゴーレムに魔法薬なんて効くわけないでしょ!?」
逃げ惑う他の生徒が叫ぶ中、彼は見た目に反した的確なコントロールでそれらをゴーレムの『関節部分』へと投げつけた。
パリンッ!と小瓶が割れ、水色の液体が灰色の薬草に降り注ぐ。
その瞬間。
「ギュルルルルルルッ!!」
ゴーレムの関節に張り付いた薬草が、異常な速度で爆発的に成長し始めたのだ。
太くて強靭な緑の蔓がゴーレムの腕や脚に何重にも巻き付き、土の装甲の隙間にびっしりと根を張っていく。
「『魔力喰いの蔦』だよ……。 ゴーレムの動力源である魔力を吸い上げて急成長して、同時に関節の駆動部を物理的にロックする。こういう戦い方もあるって訳……」
「わたくしの占いもお役に立ちましてよ!」
テオドールに呼応して叫んだのは、天球儀を片手に持った、占星術の名手を多く輩出する男爵家令嬢ミラだった。
彼女は修練場の天井とゴーレムたちの配置を素早く見比べ、鋭い声を上げる。
「現在の星の配置と、この修練場の地脈のバイオリズム……ゴーレムの次の突進ルート、完全に予測できましたわ。前衛のみまさま、次の攻撃が来る前に右斜め前へ3歩移動してくださいませ!」
「了解っす!」
リュカたちが彼女の指示通りに動いた直後、ゴーレムの巨大な拳が彼らの『たった今までいた場所』を虚しく叩き割った。
「すごっ、全部避けられるぜ!」
「動力源の弱点位置も算出できましたわ!胸部装甲の左下、『天蠍宮』の座標でしてよ!しかし、中々に動きが早いですわね……。この状態でピンポイントに狙うのは困難ですわ」
「そ、それなら、私がゴーレムの動きを鈍らせます……」
そう言って前に出たのは、いつも教室の隅で大人しく竪琴を弾いている音楽家一族出身の小柄な女子生徒アリアだった。彼女は震える手でライアーハープを構えると、心細げな表情で弦を弾く。
「あの恐ろしい狂乱状態……原因がイザベラ様の『鈴の音(特定の魔力周波数)』なら、私が逆位相のメロディをぶつけて相殺すれば……」
彼女が奏でたのは、美しくもどこか奇妙な不協和音。
その音色が修練場に響き渡った瞬間、イザベラの赫鈴の音が搔き消され、狂暴化していたゴーレムたちが「ギガガッ!?」と苦しむように頭を抱え、その動きを著しく鈍らせたのだ。
「おおおお!動きが遅くなった!アリア嬢の弱体化成功っす!」
「アイーダ様の回復と防御バフもある!いける……これなら私たちでも戦えるわ!」
薬草による物理ロック、占星術による未来視と弱点看破、そして音楽による弱体化。
魔力量が少ないからこそ彼らの特化した知識と才能を使った『工夫と泥臭い連携』が次々と発揮され、絶望的だった戦況がひっくり返り始めたのだ。
(ええええええええええええ!?!?)
しかし、ただ一人。
この激アツな少年漫画展開を前に、レヴェリアだけは絶望の表情を浮かべていた。
(嘘でしょ!?Dクラスのみんなが有能すぎて、完璧なレイドパーティが完成しちゃってるじゃない!このままだと、王子様たちが助けに来る前に修練場が平和になっちゃうわ!せっかくのストーリーイベントが!!)
か弱いヒロインのポーズのまま、レヴェリアは心の内で血の涙を流していた。
そして。
「な、なんてことなの!狂宴の赫鈴で強化されたゴーレムたちが次々と」
一方でイザベラもその状況に驚愕していた。
彼女は没落する前の侯爵家なら本来Aクラスに入れていた人間だ。
そんな由緒正しい家系に生まれた彼女は当然魔力もDクラスの中ではレヴェリアの次に抜きんでており、うっすらとクラスメイトたちを見下していた。
それがまさか自分が逃げ惑うほどに強化されたゴーレムたちを、彼らが沈静化するとは思ってもみなかったのだ。
イザベラが呆然としているところへ、Dクラスの反撃から逃げたゴーレムが突進してきた。
「イザベラ様!危ないっ!!」
「ひいいいっごめんなさい!!!」
周りにはイザベラしかおらず、リュカたちは他のゴーレムを相手している。
絶体絶命に彼女が目を閉じた瞬間。
ドゴオオオオオン
という凄まじい音が鳴り響き、ぱらぱらと土塊が降ってきた。
イザベラがおそるおそる目を開けるとそこには。
凛と背筋を伸ばした、恐ろしく華奢なレヴェリアが天に腕を突き上げたポーズで立っていたではないか。
(なんてことなの……せっかくイベントが発生したというのに誰も来ないじゃないのよ……っ!!!)
レヴェリアは絶望するあまり無我の境地に入っていた。
ちなみに残念ながら、このDクラスのゴーレム暴走イベントは、原作同様のストーリーイベントではないので、どれだけ待っても誰も助けに来ない。
本来の修練所イベントはAクラスで起こったため、遅れてやってきた攻略対象たちがその場を沈静化したのだが、そもそもクラスが違い別の授業を受けている彼らが修練場にやってくるわけがなかったのだ。
そこまで考えが及ばなかったレヴェリアは、無我の境地により敵の気配を『自動感知』して、次々と残りのゴーレムを一撃粉砕していった。
「メデューサ……いや、レヴェリア様すげええええええ!!!」
「あんな細腕で、分厚い土の装甲を素手で砕いてる……!」
「レヴェリア様が道を切り開いてくれる!みんな、彼女を全力で援護するんだ!!」
クラスメイトたちの熱狂は最高潮に達し、アイーダの回復魔法やテオドールの薬草、ミラの予測が、すべて前衛で無双するレヴェリアを中心に完璧に機能し始めた。
誰もが『恐怖のメデューサ』ではなく、いつの間にか『頼れるDクラスの絶対的エース』として彼女の背中を追っていた。
「そんな……なんて展開なの……」
魔力の限界とあまりに予想外の展開に、完全に理解が追いつかなくなった脳がショートを起こし、その場にバターンと気絶するイザベラ。
彼女の魔力が途絶えたことで、狂宴の赫鈴は鳴りやみ、Dクラスの生徒たちは無事、高難易度レイドを乗り切ったのだった。




