第17話:王子様の到着を待つか弱きヒロイン
その不気味な鈴の音は突如、修練所を恐ろしい地獄絵図に変えた。
「何事です!?きゃあああっ」
異変を察し動いた教員を、先ほどまで動きを停止していたゴーレムの大きな手が捕らえた。
次々と予備として眠っていたゴーレムが起き上がり、生徒たちに襲い掛かる。
「うわっ突然動き出した!?」
「出口が!ゴーレムの巨体で塞がれてるぞ!!」
「きゃあああ!助けて!!」
修練場は一瞬にしてパニックに陥った。
本来、安全装置が働いているはずの訓練用ゴーレムたちが、両目を赤く発光させ、明確な殺意を持って生徒たちを蹂躙し始めたのだ。
「おーほっほっほ!見なさいレヴェリア!これこそが由緒正しき……って、え?ちょ、ちょっと待ちなさい!わたくしには向かってこないって仕様のはずでしょ!?……きゃああああっ!!」
ベルを鳴らして高笑いしていたイザベラすらも、狂暴化したゴーレムの無差別な標的となり、情けない悲鳴を上げて逃げ惑う羽目になっていた。
阿鼻叫喚の嵐。圧倒的な暴力の前に、魔力の低いDクラスの生徒たちは為す術もなく崩れ落ちていく。
誰もが絶望した、その時。
(きゃーー!!嘘でしょ!?間違いないわ!)
ただ一人、レヴェリア・ブランシェールだけは、目を輝かせていた。
(これ、学園中盤の強制発生イベント『修練場のパニック』じゃない!?ヒロインが絶体絶命のピンチに陥ったその時、重い扉を蹴破って攻略対象の王子様たちが助けに来てくれる激アツ展開!!まさかこのタイミングで本編ストーリー軸のイベントがちゃんと発生するだなんて!恋愛スキルをカンストさせた効果かしら!?)
限界乙女ゲーマーの脳内は、恐怖ではなく歓喜に打ち震えていた。
今度こそこのイベントを逃してはなるものかと、助けに来てくれる(予定の)ルシウスやドミニクたちの姿を想像し、彼女は『正しいヒロインの行動』を頭で綿密に計算する。
(ここは絶対に『か弱く』振る舞わなくちゃ!私一人でゴーレムを全滅させたりしたら、助けに来た彼らの見せ場がなくなってイベントが消滅しちゃうわ!)
「レヴェリア様っ!危ないっ!!」
隣でアイーダが悲痛な叫び声を上げた。
レヴェリアたちの頭上にも、巨体を揺らして一体の凶暴なゴーレムが迫っていた。丸太のように太い腕が、容赦なく二人の少女へと振り下ろされる。
「きゃあっ!こわぁ〜いっ!!」
レヴェリアはアイーダを抱き寄せるように庇いながら、完璧な角度で身をすくませてギュッと目を瞑り『恐怖に打ち震える可憐なヒロインのポーズ』を決めた。
直後。
ドゴォォォォォォンッ!!!
修練場に轟音が鳴り響く。
しかし、それは少女が押し潰された音ではなかった。
「……え?」
アイーダが恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
レヴェリアの華奢な背中に直撃したはずのゴーレムの巨大な腕が、まるで硬すぎる鋼の城壁に叩きつけられたかのように、根本からバキバキに砕け散っていたのだ。
「きゃあ……。だれか、早く、たすけてぇ……(チラッ)」
当のレヴェリアは、カンストしたオート魔法防御が発動し、完全ノーダメージ。
服に土埃ひとつつけないまま、自壊していくゴーレムの残骸の下で、助けが来るはずの扉の方をチラチラと見ながら『か弱いヒロインアピール』を大真面目に続けていた。
(((アイーダ嬢の防御魔法で、メデューサの装甲が要塞と化しているぅぅぅ!!!)))
Dクラスの生徒たちは、ゴーレムの恐怖よりも、迫り来る鉄拳を微動だにせず背中で粉砕したレヴェリア(と、それを支援したと思い込まれているアイーダ)の異常性に、さらなる戦慄を覚えたのだった。
そして、そんなレヴェリアの姿を見て別の意味で震えた者たちがいた。
「レヴェリア様……っ!!さすがですわ!私、私……全力で支援いたしますっ!!」
感極まった瞳に闘志を燃やしたのはアイーダであった。
そう、実は彼女はレヴェリアの隠れファンであった。
登校初日にレヴェリアに話しかけられたものの、あまりの眩しさにうまく言葉が返せず、そのまま段々と触れてはいけない存在に変わっていってしまった彼女に話しかける勇気も待てず、そんな自分を責めていたのだ。
しかし、陰口をたたかれ遠巻きにされながらも逆風に負けずに勉学に励む彼女の姿に心を打たれていた。
レヴェリアへのファンとしての想いが天元突破し、ますます洗練されたアイーダの補助魔法が、本来発動していたレヴェリアのオート防御魔法と合わさり、もはやレヴェリアに攻撃を打ち込んだ瞬間それが倍になって相手に返る最強の『リフレクター』を完成させてしまったのだった。
「レヴェリア嬢、やっぱり凄すぎるっす……」
そして、アイーダのほかにもう一人。
レヴェリアの防御力と身体能力に改めて感化された男がいた。
男爵家の子息リュカ・ ド ・フォークナーだ。
フォークナー家は代々騎士を輩出する男爵家であり、その嫡男であるリュカも、気の抜けた口調とは裏腹に学園屈指の剣の腕を誇っている。
(はじめ修練場でフェリクスさんと話している姿を見た時は口実を作って公爵子息に取り入ってる男爵令嬢かと思ったが、一度でも彼らの鍛錬を見たら、そんなこと言えなくなるぜ)
リュカは武人として、彼女の卓越した能力を正確に見抜いていた。
そして、自らも実力ある騎士として、いつしか彼女の境地に達したいというパッションが湧いたのだった。
「よっし、自分も加勢するっす!」
リュカは先ほどのレヴェリアの拳で装甲を粉砕していた姿を真似て、その少ない魔力を秀でた身体能力に還元させることで筋力を増強させると、素手でゴーレムたちを殴りに行った。
そんなアイーダとリュカの姿を見て。
少しずつ我を取り戻したDクラスの生徒たちも自分たちの才能を活かした能力でゴーレム制御を試みはじめた。
一方で。
「くっ!狂宴の赫鈴が制御できないなんて……!こんなはずでは!」
と、鳴りやまない鈴をなんとか制御しようと試みつつ逃げ惑うイザベラ。
(あ、あれっ??助けが来ないんだけど!遅くない……??っていうかなぜかクラスメイトたちが立ち向かい始めちゃった!!待って待ってイベントがまだ発生していないのよーーー!!!)
そして、未だに扉を気にしてか弱いヒロインポーズを徹するレヴェリア。
波乱の強制発生イベント『修練場のパニック』は様々な思惑を乗せて、なぜかDクラスの一致団結による熱血サバイバルへと変貌を遂げていた。
果たしてレヴェリアの王子様たちはやってくるのか――!?




