第16話:ヒロイン(畏怖の対象)、孤立を回避する
「その眼光、まさしく相手を石にするメデューサと聞いたわ」
「なんでも恐ろしい呪詛まで使い、絶対服従の呪いをかけられるとか……」
「しっ!聞かれたら石にされるわよ!」
その後都市伝説が広まったことで、レヴェリアのDクラスの立場もまた変化していた。
彼女は高嶺の花から僻みの対象を経て、『恐怖のメデューサ(畏怖の対象)』へとクラスチェンジしていた。
さらに触れざるを得ない存在となってしまった中、Dクラスに恐れていた瞬間が訪れてしまうーー。
「はーい、それじゃあ二人一組を作ってくださーい」
実戦魔法演習の授業。
何も知らない教員の呑気な声が響き渡った途端。
広い修練場に、かつてない緊張が走った。
「私と組みましょう!」
「も、もちろんですわ!」
「俺と組むよな!」
「当然だ!」
光の速さで成立していくペアたち。
誰もが(メデューサと組んだら精神を制圧されてしまう……!)という恐怖に支配され、生存本能による危機回避行動を取っていた。
そんな中、なんと。
「あの、レヴェリア様。よろしければ、私と組んでいただけませんか……?」
と、
一人の令嬢がポツンと佇むレヴェリアへ声を掛けたのだ。
赤毛にブラウンの瞳を持つ男爵令嬢アイーダ・ド ・ブライアである。
(((あ、アイーダ嬢!?まさか自ら犠牲に……!?なんという高潔な自己犠牲精神!!良いやつだった……)))
Dクラスの生徒たちはアイーダ嬢の献身に心のうちで涙を流した。
「まあ、喜んで!一緒に頑張りましょうねっ!」
「は、はいっ……!」
パアアッと花が咲いたような、満面のヒロインスマイルで手を差し出すレヴェリア。
アイーダはその眩しさに焼かれそうになりながら、なんとかその手を握り返したのだった。
「はい、二人組が作れましたね。それではこれより魔法仕掛けのゴーレムを相手にした模擬戦を行います。ゴーレムの攻撃を受けながら反撃する前衛、回復や防御魔法でそれをサポートする後衛に分かれてゴーレムの動きを止めてください」
二人一組になった生徒たちは、ゴーレムの前に移動した。
そして教員に呼ばれた順に実技演習を行っていく。
ゴーレムの出力は「低」に抑えられているが、魔力量の少ないDクラスの生徒たちは重い巨体とランダムな動きに苦戦していた。
「アイーダ様、でしたよね。どちらがよろしいでしょうか?」
「そうですね……私はどちらかというと攻撃魔法より支援魔法の方が得意なので、後衛をやらせていただいてもよろしいでしょうか?」
「分かったわ、それじゃあ私が前衛するわね」
大半が終わったいま、半数が達成し、半数が失敗した。
そんな折、ついにレヴェリアとアイーダの番となった。
「行くわよ、アイーダ様!」
「は、はいっ!」
レヴェリアが意気揚々と一歩前に出ると、駆動した巨大な土のゴーレムが重い腕を振り上げて突進してきた。
ヒロインたるもの、ここは可憐に回避して魔法で反撃を……と思いきや。
レヴェリアは「えいっ☆」という(本人的には)愛らしい掛け声と共に、両腕を交差させてゴーレムの重い一撃を真正面からガシィッと受け止めた。
「きゃっ……!【ヒール】!【プロテクション】!」
背後からアイーダの焦ったような声が響き、同時にレヴェリアの身体を淡い緑色の光が包み込む。
(わ……驚いた。アイーダ様の回復魔法、魔力自体は少ないけど驚くべきタイミングと精度だわ。私がダメージを受けると予測されるコンマ一秒前に、継続回復と物理耐性アップのバフを完璧に重ね掛けてきた……!?)
一切の無駄がない、フレーム単位の完璧な回復魔法。
レヴェリアは驚きつつも、間違って一撃で粉砕してしまわないよう極力力を抑えて下級魔法弾をゴーレムにぶつけた。
「素晴らしいわアイーダ様!あなた、最高のヒーラーね!よし、私がこのままヘイトを固定するわ!」
「あ、ありがとうございますっ!よろしくお願いします!」
「まかせて!あなたには指一本触れさせないから!」
レヴェリアは嬉々としてゴーレムの懐に飛び込むと、可憐なステップからの苛烈な拳で分厚い土の装甲を次々と粉砕していく。アイーダは褒められて頬を染めつつ、必死にレヴェリアへ支援魔法を飛ばし続けた。
結果、二人の見事な連携により、彼女たちのゴーレムはあっという間にただの土塊へと還った。
(((アイーダ嬢の魔法でメデューサが狂暴化したぁぁ!! 洗脳されたアイーダ嬢が、恐ろしいバッファーとして使役されている!!)))
周囲のDクラス生徒たちがさらなる恐怖に震え上がっていることなど露知らず、レヴェリアは「ナイスヒール!」とアイーダの手を取って満面の笑みを浮かべていた。
そんな、和やかな空気の背後で。
「ふん、成金風情が調子に乗って」
苛立った声を上げたのは、金髪盾ロールの男爵令嬢イザベラ・ド ・フロレンティアである。
フロレンティア家は、元々由緒ある侯爵家であったが、先代の王位継承争いの際に敗れた王子を支持していたため、領地を没収されて降格させられた経緯がある。
彼女の家には過去の栄光を感じる様々な『歴史的価値のある魔導具や美術品』が残されているものの、実態は火の車であった。
だからこそ彼女は、莫大な金の力で貴族となった名誉男爵、そして金で買われた平民の孤児であるレヴェリアのことが、どうしようもなく我慢ならなかったのだ。
「平民上がりが貴族社会で持て囃されるなんて不愉快だわ。ちょうど良い機会だから、思い知らせてあげる」
彼女は唇の端を吊り上げると、彼女の家に眠っていた呪われた美術品『狂宴の赫鈴』を取り出したのだった――。




