第14話:ヒロイン、ステ振りを間違える
「……という経緯でレヴェリア嬢はエレイン嬢を守るパーティーの一員となり、上級魔物の攻撃を一身に引き付け、最終的には一人で2トンの素材を運び、納品されていました」
「ブフッ!!相変わらず期待を裏切らないな……」
季節は夏に入り、空もいよいよ青く色濃くなってきたある日の午後。
アロイスは上司である情報屋に合同演習のことの顛末を報告していた。
するとそこに、タタタッという明らかに廊下を走っているであろう足音が聞こえた。
そしてその音がピタリと止むと同時に。
「聞いてよ情報屋〜〜!!」
と、ガラッと第二音楽室の扉を開けて勢いよく飛び込んできた美少女こそ我らがヒロイン、レヴェリア・ブランシェールである。
「おっ噂をすれば影だな」
「私、私……してやられたの!エレインが……転生記憶付き悪役令嬢だから……私のこと、愛らしいヒロインって呼んで、カンスト魔法が見たいとか言ったから……私はメインタンクとして敵の集中砲火を……!!!」
「待て待て待て、感情が先走り過ぎて何言ってるか分からないぞ。一旦深呼吸してから話してみろ」
レヴェリアは、情報屋の「吸って、吐いて」という指示に合わせてすーっはーっと、深く呼吸して息を整えた。
「あ、ありがとう。少し落ち着いたわ……。そう、聞いてよ!驚くべき真実が明らかになったの!やっぱりあの悪役令嬢、確実に私と同じ前世の記憶持ちよ……っ!!」
「ほう。根拠は?」
レヴェリアのトチ狂ったかのような発言に、情報屋は冷静に合いの手を打った。
「エレインったら、自己紹介のときに私のことを【愛らしいヒロイン】って呼んだの!そのワードチョイスが全てを物語ってる……!あのイベント、本来手に入るスチルの名前が【みんなの宝物☆愛らしいヒロインの特等席】って言うのよ。魔力測定式での魔力制御魔石といい、偶然にしては出来過ぎているわ!」
「なるほど。つまり、ベルクロア公女もおたくみたいに前世で『Eternal Lovers』をプレイしたことがあるって訳だ」
「ご明察!!その通り!」
レヴェリアはズバリ!と言うように人差し指を上げた。
そのまま口元に指を当てると、思案するポーズで音楽室をうろうろ歩き出す。
「最初から違和感があったのよ。エタラバ原作では、攻略対象たちはみんなコンプレックスを抱えた状態で入学してくるんだけど、思い返すと入学時点でそれらはすでに解消されていた」
ルシウスの『優秀な兄と比較されることによる第二王子コンプレックス』。
ノエルの『男なのにと親に言われ封印していたファッションへの憧れのコンプレックス』。
フェリクスの『優しすぎるがゆえに騎士としての適性に悩んでいたコンプレックス』。
ドミニクの『賢すぎて大人から畏怖の目で見られていたコンプレックス』。
原作では全て、ヒロインが関わることで解消されるはずのコンプレックスなのだ。
オープニング時点で、コンプレックスを持つ彼らがヒロインとの関わりにより本来の自分を取り戻し、恋に落ちていく。そんなストーリーのはずだった。
「エレインはルシウスの婚約者候補であり、ノエルの幼馴染。公爵家令嬢としてフェリクスやドミニクとも親交があった。幼い彼らと接した際に本来ヒロインが解消するはずだったコンプレックスを彼女が解消した。これが私なりの推察よ」
「ふむ。ベルクロア公女は記憶を取り戻して我儘姫じゃなくなったのに加えて、ルシウス王子たちのツボを理解した上で攻略した、と言うことか。今のアステリアの公子たち(とレヴェリア)を手のひらで転がしてる様子を見るに、無駄に恋愛スキルも高いみたいだな」
レヴェリアの夢みたいな話を100パーセント理解した上で、自身の考察も乗せて返してくれた情報屋。
彼女はその余裕ある態度と回答に感謝と感動を抱きながらも、一つの聞き慣れないワードに戦慄を覚えていた。
「ちょっと待って……!れ、恋愛スキル……ですって……!?」
まるで初耳というような反応。
学科、剣術、魔法、裁縫スキルをカンストさせた彼女が明らかな動揺を見せる。
「そんなスキル考えたことなかったわ……!!」
そう言いながらガシッと頭を抱えるヒロイン。
「おたくはそうなんだろうが、そもそも乙女ゲームってやつの目的が恋愛フラグを成立させることなら、恋愛スキルを上げるのが一番の攻略法なんじゃないか?」
「ななな、なんですってーーー!?!?」
飄々と真理を付く情報屋。あまりの『それを言っちゃおしまい』なド正論にレヴェリアが絶叫した。
「た、確かに一理あるかもしれない!つまり、つまりエレインはエタラバにおいて、カンスト恋愛スキル持ちの私の上位互換ってこと……!?」
「そうなるな」
ガーーーーーン。
ゲーム画面では。
学科、剣術、魔法、裁縫、そして容姿を磨けば自ずとイベントが発生したのだ。
『恋愛』というステータスはなく、各キャラの好感度が指標になっていた。
しかし。
エタラバがゲームでなく現実になった時点で、ある種認識も変わったのかもしれない。
そもそもイベントを発生させる相手はゲームの中のキャラじゃない、生身の人間なのだから。
「……エタラバ本編のストーリーは……」
レヴェリアは目から鱗という表情で、ぼんやりと、彼女の学園生活の目的を口にした。
「ベルクロア公女はかなりの手練れ且つ攻略対象との縁も歴史も深い。割って入るのはかなり厳しいと見た。諦めるが吉だな」
情報屋の冷静かつ無慈悲な宣告。
その容赦ない返答にレヴェリアは再び大きな衝撃を受けた。
「嫌ァァァァ!!最上綾先生の極上シナリオといちごほっぺ先生の神スチルが……っ!完璧なヒロインになるためにあらゆるスキルをカンストさせた私の10年間はなんだったって言うのよーーーっ!!」
彼女はそう叫ぶや否や頭を抱えたまま教室の外へ走り去っていった。
バタン!!と扉が閉まる。
「……」
静寂が支配した教室に、情報屋とアロイスが残った。
「帰りましたね」
「帰ったな」
情報屋は椅子の背もたれに深く体重を預けながら、可笑しくてたまらないといった様子で肩を揺らした。
「っ……ふふ、はははっ!相変わらず賢いのか阿呆なのか分からないな。天才と馬鹿は紙一重というのは彼女のことか?まさか10年もかけてステータスの振り分けを間違えていたことに今さら気づくとは」
「殿下。笑いすぎです」
たしなめるアロイスの声に、情報屋―― 大陸の覇者たるニルヴァス帝国の第三皇子は、深く被っていたフードをわずかに押し上げた。
白銀の髪がさらりと溢れ、フードの下から覗いた金灰色の瞳が窓の外へと向けられる。
眼下のグラウンドを駆け抜けていく華奢な背中が見えた。おそらく恋愛スキルカンストのための特訓にでも向かったのだろう。
「まあ、動機が『乙女ゲーム』とやらで不純極まりないにしてもだ」
情報屋は、窓の外の彼女を見下ろしたまま、ふっと声音を落ち着かせた。
「彼女の学科、剣術、魔法、裁縫スキル、どれを取っても一朝一夕には仕上がらないものだ。正真正銘、長い年月、血反吐を吐いて取得した賜物だろう。……俺は、彼女のあの馬鹿みたいな努力を評価する」
「ええ。自分の目から見ても、レヴェリア嬢のスキルは卓越しています。先日の魔物討伐での立ち回りと言い、我が国の近衛騎士にも引けを取らないかと。ご本人はあくまで『か弱いヒロイン』と言い張るなど、自覚は薄いようですが」
大真面目な顔で近衛騎士並みと分析するアロイスに、情報屋は再び吹き出した。
そんな主君の様子を見て、アロイスは静かに目を細める。
「……それにしても珍しいですね。殿下が特定の誰かを、それも他国の令嬢をずいぶんと買っておられる」
「そうか?」
「ええ。普段は他人に無関心で、退屈そうになさっていることが多いですから」
アロイスの指摘に、情報屋は少しだけ目を伏せた。
窓から差し込む初夏の陽光が、彼の瞳を宝石のようにきらきらと輝かせる。
「……ふ、なんでだろうな。彼女を見てると、なんでだか無性に応援したくなるんだよな」
情報屋はそう言うと、フードの下で端正な唇に、甘く、優しげな弧を描いた。
「さて。彼女が、今度はどんな斜め上の恋愛特訓を始めるのか……引き続き、特等席で見物させてもらうとしよう」
昨日は疲れて寝落ちしてしまい、21時に上げそびれてしまいました。
今後は念の為に予約更新を入れておこうと思います。
すでに1部完まで書いているので、そこまでは毎日更新出来るはずです。
どうぞよろしくお願いします。




