第13話:ヒロイン、物流の要となる
あの後、『最強の盾』を手に入れたエレイン親衛隊は、勝利を確信し、最も難易度の高い上級魔物の多く住まうエリアへと移動した。
「レヴェリア!ヘイト集めろ!もっと丸太を振り回せ!」
「あっごめーん裁縫士!魔法弾当てちゃった!まぁ君なら大丈夫だよね?」
「レヴェリア嬢、お次はあちらの洞窟の合成獣を狙いますよ。すぐに配置へ」
すっかりメインタンクに就任してしまったレヴェリアは、あらゆる上級魔物の集中砲火を受けながら、彼らに容赦ない指示出しをしていた。
「フェリクス様、シャドウビーストの弱点は腹の下です!風魔法で巻き上げてから止めを!」
「ドミニク様は中級回復魔法を5秒ごとに私に掛けてください!ついでにエンチャントも!」
「ノエル様!サンダーバードに魔法を当てるタイミングは攻撃開始前の硬直です!私を狙う瞬間を見逃さないで!」
いつの間にか、途中で手に入った大きな盾と丸太を持ちながら大声を張る美少女ヒロイン。
フェリクスたちは「了解っ!」と短く返事をするとレヴェリアを囮としてフル活用して魔物を仕留めていった。
一方、エレインはドミニクが張った結界の中でお姉さん座りをして優雅にハーブティーを飲んでいた。
(なんでヒロインの私が悪役令嬢親衛隊のド最前で敵の集中砲火受けて、みんな平気でいるのよっ!!この華奢な身体が目に入らないとでもいうのーー!?!?)
レヴェリアは内心はいつも通り待遇に不満の意を表しながら、次から次へと上級魔物を討伐していった。
すっかり魔物討伐のパーティーの一員である。
「はぁ……はぁ……やったぞ!一番難易度が高いとされる月影峠の討伐が完了した!」
「これで満点評価間違いなしですね」
「僕らに掛かれば当然の結果だね!」
息を切らしながらハイタッチを決めるフェリクス、ドミニク、ノエル。
さすがのレヴェリアも今回ばかりは疲れ切って、離れた位置で座り込んでいた。
すると。
「レヴェリア!」
なんと、今回は放置されることなく、レヴェリアの元へ男たちがやってきたではないか!
(あっ、へとへとだから!?疲れ切った可愛いヒロインをお姫様抱っこして連れ帰ってくれるイベントの発生ね!?)
キターーー!!とばかりに、本来の10倍くらい疲れ切った顔を作り、彼らを振り向くレヴェリア。
彼らは、満面の笑みで彼女の背中をドンっと叩いた。
さながら、戦友の戦いぶりを称賛するように。
「最高だったぞお前!ほら、立てるか?」
フェリクスが手を差し出して彼女を立たせる。
「今日は本当に助かったぜ!」
その兄貴分の優しさ溢れる反応にレヴェリアの目がキュピーンと輝いた。
(ちょっと思ってた反応と違うけど良し!!ここで疲れて立てないアピールをして潤んだ上目遣いをすることで、ヒロイン好感度を上げるわよっ!!)
「ああ〜もう立」
「よしっ!討伐も終わったし、俺たちはエレインを安全にエスコートして学園に戻る!」
「ええ、彼女に少しでも危険があってはいけませんからね。……というわけでレヴェリア嬢」
「君には、この倒した魔物の素材(総重量およそ2トン)を全部担いで持って帰るという、最重要ミッションを授けるよ☆」
レヴェリアが渾身の決め台詞を言おうとしたのとほぼ同時にフェリクスが力強く宣言し、それに呼応するようにドミニクとノエルも当然のようにスラスラと台詞を重ねる。
そして気付いたときには、レヴェリアの目の前に山のように積まれた巨大な魔物の死骸と、それをまとめる極太の縄がポンッと置かれた。
「……は??」
「それじゃあまた後でね〜!」
「エレイン、危ないから俺の手を取って」
「まあ、ありがとう」
フェリクスたちにエスコートされながら颯爽と立ち去っていくエレイン。
(はぁぁぁあ!?嘘でしょ!!私をお姫様抱っこするんじゃなくて、私に魔物(2トン)を抱っこさせる気!?私のカンスト筋力を物流に使うんじゃないわよォォォォ!!!)
レヴェリアは泣きながら素材の山の前の地面に突っ伏し、自らのヒロインゲージの低さを嘆くのだった。
その様子を。
美しいルビーの瞳がしっかりと捉えていた。
エレインはレヴェリアが悔しそうに地面を叩いている姿を見て。
「……」
その美しい口元をわずかに歪ませた。
(ふふ……うふふふ。あぁ可笑しい。絶世の美少女のヒロインが、まるで私の小間使いだわ)
悪役令嬢のその密かな優越感は、誰にも悟られることなく、ただ静かに虚空に消えていったのだった。
***
「はぁ……はぁ……。こちら納品よ」
素材を担いで満身創痍で拠点に戻ったレヴェリア。
あまりの質量に演習担当の教員が度肝を抜かすその横で、彼女はずーんと沈んだ顔をしていた。
せっかくの美少女ルックも、汗と魔物の血でベタベタである。
「うっうっ。せっかく手入れした髪と演習用に仕立てたヒロイン風戦闘装束が……」
メソメソと項垂れる彼女の元に、美しい影が駆け寄った。
「レヴェリア嬢。今回の収穫はいかがでしたか?」
演習場でも相変わらず気品あふれる貴公子、アロイスである。
「あ、アロイス様!それが聞いてくださいよ!聞けば涙の話なんです!みんなが私をメインタンクにーー」
涙ながらに語り始めるレヴェリアと、それを優しく聞くアロイス。
一見すると絶世の美少女と美男子が親しげに話している様子に、周囲の一般生徒がまるで芸術品を眺めるような目を向けながら、二人を邪魔しないよう空間を開いた。
その様子を遠くから見ている男がいた。
アステリア王国の第二王子、ルシウスである。
(アロイス・ヴァン・レヴェンタール。帝国の公爵令息がなぜDクラスの男爵令嬢と……?)
彼は、先代の覇業により大陸随一の覇権を握るニルヴァス帝国の高位貴族・アロイスが、一介の男爵令嬢と親しげに会話している様子を奇妙に思った。
(彼と俺は同じチームだった。Aクラスでも誰とも群れない彼だが、あの令嬢とは何か接点があるのか?)
そうしてアロイスに関心を向けた彼だったが。
「ルシウス様、お疲れ様です。よろしければあちらでお茶を淹れますわ」
というエレインの声により、その思考は打ち切られた。
「ありがとう、エレイン。君の淹れてくれるお茶を飲むと疲れが吹き飛ぶからな」
エレインの手に引かれていく第二王子は、すぐさま意識を彼女へと切り替え、遠くで騒ぐ泥だらけの男爵令嬢のことなど、一瞬にして思考の彼方へと追いやってしまったのだった。
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