第10話:ヒロイン、仕様変更のとばっちりを受ける
「おう、首尾はどうだ。スチル、回収できたんだろ?」
「うっうっ……出来たわよ。とんでもない激レアスチルがね!でも思ってたのと違ったのっ!!まさかまさかの……『悪役令嬢スチル』をゲットしちゃったのよーー!!!」
そう言って泣き崩れるレヴェリアを前に、耐えきれないとばかりに「ブフッ」と漏れた情報屋の噴き出しと、アロイスたちからも笑いを堪えるくぐもった声が響いた。
「悪役令嬢スチル!おたくの攻略対象にはベルクロア公女も入っていたのか!?いくらなんでも想定外過ぎるだろ!!ひーっ耐えられん!!」
「レヴェリア嬢はよくやっておられました。ただ、運命の気まぐれというやつで……ぐっ!!(笑いを必死に堪える音)」
「自分の見たところエレイン嬢はずっとレヴェリア嬢を目で追っておられました。つまりそれがルシウス王子よりエレイン嬢が早く反応した理由だったのかもしれません……ぐぐっ!!」
正直に思う存分爆笑する情報屋と、ぷるぷる震えて笑いを我慢するアロイスとヴェルナー。
「くっ……あなたたち!今にみてなさい!!絶対にスチルを回収出来るイベントが来週あるんだからっ!」
レヴェリアは顔を真っ赤にして目尻を釣り上げた。
「イベント?何かあったか?」
「ふふふ、全クラス合同の魔法実技演習があるのよ!合同演習は成績順に組まれるはずだから、成績トップの私は確実にルシウス王子と同じチームになれるわ!」
「なるほどな、合同演習か」
この貴族学園は、身分によってクラス分けされている。
ルシウスやエレイン、攻略対象たちは王族や上級貴族のため最上位であるAクラス、一方でレヴェリアは原作では『魔力測定式』でAクラスに特別編入するはずだったがアクシデントによりそれが叶わず、学園の中では下位に位置するDクラスに所属しているのだ。
そのため本来話す機会もない雲の上の存在である第二王子と知り合う絶好のチャンスなのである。その上合同演習は確実にスチルが発生するイベントでもある。これを逃す手はない。
そこまで思案して、レヴェリアにふと気になる疑問が浮かんだ。
「ねぇ情報屋。あなたは何年生なの?勝手に同じ一年生だと思ってたけど、実は違う?クラスはどこなの?」
目の前の、常にフードを深く被った顔も見えない謎の男。
よく考えたら第二音楽室(と遅刻ダッシュの際の茂み)以外で見かけたことがない。名前も知らない。
原作でも、レヴェリアが攻略していた範囲では出てきていなかった。
アロイスとヴェルナーだって、見かけたことがなかったのだ。
「俺は3年だが、クラスと名前は秘密だ」
軽く帰ってきたその答えにレヴェリアは目を丸くした。
「エッ!?嘘、あなた3年生だったの!?やだ、私、タメ語で話しちゃってた!!今からでも敬語にした方が良い!?」
「いや、今更君に敬語で話しかけられても逆に困る。これまで通りにしてくれ」
なるほど学年が違ったから見かけなかったのか。
思えばエタラバの攻略対象はみんな同じ学年だった。
おのずと登場人物も同学年中心となる。
レヴェリアはふむふむと納得した。
そして同時に彼女は感動していた。
(情報屋ったら、名前もクラスも明かさないなんて、なんて原作に忠実なの……っ!ロールプレイに徹していて素晴らしいわっ!!)
レヴェリアは原作至上プレイヤーとして、彼の『謎の攻略支援役』としての徹底ぶりに胸を打たれた。
彼女の中で元々最上位だった情報屋への好感度がさらに天元突破した。
ちなみに、レヴェリアの中の現時点のキャラ好感度は情報屋(原作に忠実な神キャラ)>>>>>アロイス・ヴェルナー(スチル回収を手伝ってくれた情報屋の部下)>>>>>名もなきクラスメイト(好感度基準値)>>ドミニク・フェリクス・ノエル(会うたびに課題出してくる)>>>>>ルシウス(階段から落ちたときさえ眼中に入っていなかった。そもそもまだ話したことない)である。
最近は課題を押し付けて来るドミニクたちを避けるために忍者のように周囲を警戒しながら学園生活を送っている。
もはや乙女ゲーム攻略とは何なのかという哲学的疑問すら湧いて来るが。
あくまで彼女の目的は『原作を取り戻すこと』らしい。
そして情報屋の後ろに姿勢よく控える、好感度トップ2,3のアロイスとヴェルナーに目を向けた。
「アロイス様たちも3年生なんですか?」
「いえ、私は1年、ヴェルナーは2年生です」
「ええっアロイス様、一年生だったんですか!?それじゃあ合同演習で会えるかもですね!」
「ふふふ、ですね。上司が同行できない学年単位のイベントは私がサポートしますよ」
アロイスの頼もしいセリフにレヴェリアはまたしても心を熱くした。
ヴェルナーも仏のような表情で彼らを眺め、かつてないほどほのぼのとした空気が第二音楽室を流れた。
そんな幸せなひと時を打ち破るように、突然情報屋が思い出したように切り出した。
「ちなみにその合同演習だが、今年からルール変更されたぞ」
「えっ?」
なんでもないように告げられた特大情報。
「成績順でチーム分けすると偏りが大きすぎるということで却下されたらしい。つまり君たちの合同演習のチーム分けの方法はーーくじ引きだ」
「ええええええええええっ!?」
ガーーーーン。
「そんな……そんな……」
膝から崩れ落ちるレヴェリア。
この日のために課題や筋トレや裁縫の合間を縫って必死に魔法のトレーニングをしてきたというのに。
「私の『ときめき☆この男爵令嬢、ただものじゃない大作戦』が……!」
「ぐっ!!おたくのネーミングセンス、何食べたら身に付くんだ……!」
情報屋がまたしも腹を抱えて笑い出す傍らで。
ルシウスに圧倒的なヒロイン魔法を魅せることで「この男爵令嬢、ただものじゃない(トクン)」と興味を抱かせる(そしてまずは認知される)という彼女の(いろんな意味で)甘いプランニングは、はじまる前からどす黒い暗雲が立ち込めてしまったのだった。
実力で勝ち取るはずだった好感度上昇(というか認知される)&スチル発生チャンス、まさかの運試しに仕様変更されるーー。
ヒロインは果たしてスチルチャンスを引き当てることができるのかーー!?




