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この前まで、誰かが死ぬことはめずらしかった

ダ…ダダダダ!

乾いた音が僕の銃から発せられ、それらは少し反響して、瞬時に灰色の空に飲み込まれ消えていった。


目の前に座らされていた死にそうな男の額に穴が開き、3秒前まで肩で息をしながら鋭い眼光でこちらを見ていた男は死んでいた。


死んでいた。しんでいた。シンでイタ。


仲間が何人も殺された。生かしておけば殺されるかもしれない。報告され次は僕らが一網打尽にされるかもしれない。されるかもしれない。つぎはじぶんかもしれない。なかまがなんにんもころされた。


ころされた。コロサレタ。殺された。


この人に?このひとに?この人に?


「おい!」


 手が震えて、足が震えて、息が震えて、上下の歯が当たってカチカチと頭に響いている。


「もう一度撃て!」


 この人に殺されたのか?この人は殺したのか?殺したのなら殺していいのか?殺してなければ殺しちゃいけないのか?殺していいのか?殺してはいけないのか?殺していいのか?殺しちゃいけないのか?ころして


「ぁ…」


 死んだ男と目が合った。


 ダダダダ!


 僕はもう…ころしていたんだ。ころしていたんだった。


「………」


 仲間の称賛の声が聞こえてくる。


「よし!」「よくやった!」「これでお前も仲間の一員だ!」


 目の前が真っ白で、倒れて眠ってしまいそうで、心が疲弊して、頭が混乱して、頑張っても口角すら上げられなくて、どうでもよくなって、どうでもよくなって、その場に膝から座り込んだ。そして両膝を抱えて顔をうずめる。何が起きているのかわからなくて、わかっていて、わからなくさせて、仲間に頭を優しく叩かれ、背中を撫でられ、僕はそのまま気を失った。


       〇


 良いこと・悪いこと


 良い行い・悪い行い


 普通・異常


       〇


 ある日学校へ行くと、一人の人間が一部のグループから無視されていた。


 次の日学校へ行くと、その人はクラスの皆から無視されていた。


「あいつ無視で」


 そんな中身がない6文字の言葉で、彼が浮いているのが目に見えないものから目に見えるものへと変わった。


 初めは彼に対して罪悪感を感じたが、日が経つごとに、それが普通の光景になるたびに罪悪感はしだいに薄まり、学校が終わり早々に帰っていく彼の後ろ姿にも、いつしか下を向かずに真正面から見れるようになった。


「………」


 僕らは彼よりレベルが1上がった。彼の無視を命令したグループは彼よりもレベルが3・僕らよりもレベルが2上がった。


 数週間後、彼は無視を初めたグループに暴力を振るわれていた。


 初めは彼に対して罪悪感を感じたが、日が経つごとに、それが普通の光景になるたびに、罪悪感はしだいに薄まり、靴底の跡が付いた後ろ姿にも、いつしか下を向かずに真正面から見れるようになった。


「かわいそうに…」「先生に言おうよ…」「やばいってあれ…」


 最初のころは罪悪感に負け、そんな言葉を口にする人たちがいたが、日が経つうちに、それが普通の光景になるにつれて、そんな声は一切聞かなくなった。


 先生に言ったところでその場だけが収まることはわかっていたし、次はまた見つけられないような場所になるだけで、何も変わらないことが僕たちもそして先生たちもわかっていた。


 もしも先生に言ったやつの犯人探しなど始まろうものなら、次の日髪を引っ張られているのは僕かもしれない、顔や腹を殴られるのは僕かもしれない、次の言葉に怯えているのは僕かもしれない。


「………」


 僕らは彼より上だ。彼をいじめている連中は僕らより上だ。彼は下だ。


「それに…何の意味があるのだろうか…」


       〇


 僕のおばあちゃんは癌で亡くなった。おじいちゃんは前の日まで元気だったのに突然倒れて亡くなった。心筋梗塞だって医者が言っていた。隣の家のおじいちゃんも癌で亡くなったと聞いた。


 この前まで、僕の周りの亡くなってしまう理由は、年齢だったり病気であることがほとんどだった。


「でも…」


 今は


違う。


 この前まで普通に仲の良かった人は、他の隊に異動になって死んだらしい。


 他の部隊は全滅したらしい。


 敵の部隊をハチの巣にして皆殺しにしてやった。


 やった!やった、やっ…た、やっ…た・。・


「…」


 この前まで、誰かが死ぬことはめずらしかった。


 殺されたらニュースになり、死体が出たら警察は犯人を血眼になって探した。


 だが今では、珍しい事ではなくなった。


「…」


 この前初めて死体を見たときに、皆は前のめりに死体を見た。


 だが今では、目線に入っても首を曲げるほどの興味も示さなくなった。


「人は」


 どんどん変わっていく。


 変わっていかなければいけない現状の中で、今まで正しいと教え込まれてきた当たり前を、ぶたれながら、力にねじ伏せられながら変えさせられていく。


       〇


 自国の国のお偉いさんが、だれも望んでいない世界を突然作ろうとして、自分より小さな隣国に無茶を引っ掻け、応じなかったと攻撃し、反撃されたら「反撃された!」と癇癪を起し、戦争になった。


 誰が悪いのか、そんなことは誰もがわかっている。


 だけど、銃を持つのは、戦うのは、撃つのは、死ぬのは、僕らの役目だ。

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