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人をどうして殺してはいけないの?

 それから何日も過ぎた。


 ぼくは銃を何発も撃ち、そして何回も装弾した。


 とても遠くにいる敵を威嚇するために撃った。誰にも当たらない事を祈りながら。


 誰もいない民家の家に皆で入って、何かいいものはないかと探した。宝石や金などいいものがあると黙ってポケットにしまった。知らない家でくつろぎ、お菓子を食べながらテレビを見た。

 

 次第に罵声を挙げることにも慣れてきて、何かが動いた気がするだけで銃口をそちらに合わせ銃を撃った。人々の怯えた瞳を妙に面白いと思うこともあった。自分は強い人間になったのだと思った。他の奴はたまに笑いながら銃を撃った。腰を抜かした市民を皆で笑った。


 自分の知り合いではなかったが何人も死んでいた。


 その知らせを聞くたびに敵を憎んだ。


 そして少し怖くなった。


 でも、やっぱり、死を現実的に考えることはなった。

 

 死んでも甦るから大丈夫だ。


 ある日、一人の奴が言い出した。


 ぼくは「そうだな」と言ってそいつと一緒に笑った。


 笑いながら、前に殺してしまった負傷兵を思い出した。


 そして、甦るから大丈夫か…と思って心がすっとした。


 ぼくたちはまた軍のトラックに乗った。


 8台の軍のトラックと共に走り出す。


 走った。


 走って走って走っていると辺り一面が岩だらけの地帯になり、とんでもない揺れによって座席から一瞬宙に浮く事が多くなり、その度に皆が笑った。また一瞬宙に浮き皆で笑っていると


 ダダダ!


 ガンガン!


 突然、トラックに石が投げつけられた。そう思って皆が顔を合わせ息をのむ。すると


 ダダダダダダ!


 ガンガンガンガンガンガン!


 その時撃たれていた事に気が付いた。トラックの運転席は固い装甲に覆われているが後ろはシートを掛けただけの簡単な仕様になっている。


 弾は無数に貫通し上部に小さな穴を開けた。ぼくらは瞬時に床にふせる。


 トラックの速度が増す。ぼくらは投げ飛ばされないように仲間同士手を掴んだ。


 頭が混乱して、息が荒くなって、目をつぶることも怖くて、目を開け仲間の手を掴みながら祈り続けた。


 前方の方でバン!とすごい音がした。


 その音と共にぼくらが走っていたトラックが止まった。


 おい!なに止まってんだよ!頭の中で運転手を責める。ぼくは危険だと思いながらも突発的に立ち上がり、運転席に通ずる小窓を覗き込む。すると前のトラックも止まっていた。そして後ろのトラックも止まる。後ろの運転手が激昂しているのがわかる。


 ダダダダダダ!ダダダダダダ!ダダダダダダ!ダダダダダダ!ダダダダダダ!


 銃声は止むことなく続いている。ぼくら床にふせ震えている。「速く走りだしてくれ!」と運転手を責める。運転手はアクセルを踏み込み前に進むが前のトラックにぶつかる。焦った運転手はバッグし次は後ろのトラックにぶつける。すると運転席に通ずる小窓が血で真っ赤になった。そしてそのまま完全に動かなくなった。


「降りろ!降りて別のトラックに乗り込むんだ!」


 トラックの中で一番位が高い人間が叫ぶ。


 ぼくらは一斉に飛び降り後ろのトラックに走り出す。降りた瞬間に気が付いた。ここは崖と崖の間にある横幅のない一本道であり、一番前のトラックが動かない限り動けないのだと。そして一番後ろのトラックは事故が起きたことに気付いておらず、バックせず前の様子を窺っているのだと。


 ダダダダダダ!ダダダダダダ!ダダダダダダ!ダダダダダダ!ダダダダダダ!


 ぼくらは運よく撃たれることなく後ろのトラックのまで辿り着き乗り込もうとする。すると「ダメだ!来るな!」という声が聞こえてきた。「後ろのトラックの奴らも運転手を殺られてここに駆け込んできた!悪いがこれ以上は無理だ!」


 ぼくらはトラックとトラックの間で身を屈ませた。何人かはトラックの下の隙間に入り込んでいったが、すぐに定員オーバーになり入れなくなった。


 ダダダダダダ!


 その時前のトラックの右側が撃たれ砂埃が舞った。ぼくらは瞬時にトラックの左側へ移動し身を屈める。残されたぼくらはそのままトラックに沿って一列並んだ。


 ぼくたちは息を震わせた。


 この決断があっているのかわからない、左側には敵がいないなんていう保証はどこにもない、ここには敵が何人いて、何人で撃っているのか、上の崖の上から撃っているのか、それとももっと近くにいるのか、銃声が怖くて誰一人見つけられることができなくて、今いる場所が隠れられているのかわからない、息を震わせ、身体を震わせ、足を震わせた。


 少しの間沈黙が支配する。


 ダダダダdっダダダダダダダダっダダダダダダ!ダダダダダダダ!


 その音と共に横にいた仲間が倒れた。


 足を抑えて苦しそうな顔をしている。


 手を差し伸べると同時に足が震えてそのまま倒れこむ。


 銃撃は止むことなく続いている。


 弾が車に当たりガンガンガン!と音を上げ、それと同時に弾が地面で弾け砂埃を上げている。


 なぜかそれら一つ一つがスローモーションのように感じられ、それとともに掴んだ仲間の手が不自然に大きく揺れた。


 仲間の顔を見ると苦しそうな顔が消え頬に小さな穴が開き、ぐにゃんと力なく下を向いていた。


 ぼくはうつ伏せになりながらそのままタイヤとタイヤの隙間に入り込もうとするが入り込む隙間がない。


「くそ!くそ!くそ!」


 そのままやり場のない怒りを込めて地面を拳で何度も叩く。


「…」


 そうだ、そうだった…攻めるということは攻められるということでもあるんだ…。


 学校にいたいじめっ子は、人を責めても責められることがなかった。だからなぜか自分も、大丈夫だろうと思っていた。自分の周りの仲間は誰も死なないし、このまま何事もなく家に帰って、親や友達に悲劇のヒロインのような顔をしながら、悪いところだけを切り抜いて戦争の醜さを語るのだろうと思っていた。


 ぼくはうつ伏せから仰向けになり銃口を崖の上に向けて、誰もいないであろう所に弾が切れるまで撃った。


 ぼくを見て周りの仲間も撃ち始めた。


 弾がなくなり装弾する。


 すると横にいた仲間が倒れた。


 驚いて目を大きくしていると、さらに奥にいた仲間たちが血しぶきと共に倒れていった。


「ぁ」


 やっぱり…四方囲まれてる?


 そう思った次の瞬間、腕と腹にとんでもない痛みが走った。


 その場にうずくまる。


 今まで感じたことのない痛みが全身を駆け巡る。


 目が回り、吐きそうになる。


 頭の中が痛いという言葉でいっぱいになり、息をするのも苦しくなる。


「…」


 昔ゲームで、敵兵を脅し、足を撃ち、転げまわった姿を見て笑っていた自分が突然頭に浮かんだ。


 あの兵士はこんなに痛い思いをしていたのかと、それを自分は鼻で笑っていたのかと…自分のやっていたことに血の気が失せた。


 ぁぁ…大人になるって、もっと楽しいことだと思っていた。


 子供に死んで来いと命じるのはかわいそうだ。


 でも、大人に死んで来いと命じるのは、どうしてか、子供ほど、かわいそうではない。


 映画で子供が死ぬたびに心を痛めた。


 だが、大人が死んでも、その死んだ役が重要人物でない限り、なんとも思わなかった。


 子供が死ぬのはかわいそうで、でも、大人が死ぬこと、いや、大人の男が死ぬことは、そこまでかわいそうではない。かわいそうではあるけれど、子供ほどではない。


 それはそう、そうなんだけど、そうなんだけど、どうだろう?なんだろう?ぼくたちはもとは子供で、でも年を重ねて大きくなっただけで、老けただけで、かわいい声じゃなくなっただけで、人には甘えたいし、褒められたらうれしいし、怒られたらかなしい…。


 誰だって死にたくなくて、笑っていたくて、人と話して笑いたくて、テレビを見て笑いたくて、空がきれいに思って笑いたくて、飼っているペットを愛でながら笑いたくて、家族と一緒に笑いたくて、親と一緒に笑いたくて、恋人と笑いたくて、笑いたくてわらいたくて


 人をどうして殺してはいけないの?


 これに対しての答えが明確にはわかっていなかった。具体的に答えられなかった。かわいそうだからとか、ダメなものはダメだから、とか薄い皮のような答えしかもっていなかった…。


「・・・・・・・・」


 だがこの、血だらけでうずくまっている今ならわかる。


 これから感じる喜びを、笑うことを、全てのどんなに些細なプラスのことを奪う権利は誰にも、どんな人間にだって、あってはならない。


 あなたが明日テレビを見て笑うかもしれない、ほっこりするかもしれない。


 あなたが明日人と話して、親と話して、友達と話して、笑うかもしれない、何かの相談に乗るかもしれない、それに対してアドバイスをして勇気を与えるかもしれない。


 相手を大事に思うかもしれない。


 愛おしく離れたくない人に出会うかもしれない。


 大事な日々に気づくかもしれない


 この世はかけがえのないもので、一日一日をもっと、もっともっともっともっともっと、大事にすべきことに、気づくかもしれない。


 銃声が止む。


 あれからどれ位経ったのか…


 もう誰も立っていない。


 トラックも穴だらけになり血がぽたぽたと滴り落ちている。


 それと共に、相手の兵士が姿を現しこちらに歩いてくる。

 

 あぁ…あの負傷兵達はこんな絶望した気分だったんだな。


 死が、少しずつ近づいてきている。


 今の思いはどうだ?


 悔しい?苦しい?怖い?死にたくない?憎たらしい?


 答えは…なんだろう?怖くて死にたくないと思う反面、死んで楽になりたい自分もいて、仲間を殺されて憎く思う自分もいれば、殺してしまった相手に、脅かしてしまった市民の皆さんに、勝手に忍び込んだ元の部屋の住人に、誠心誠意謝罪したいとも思っている自分もいて…なんだかよくわからない感情が目の前の血のようにドロドロと広がっている。


 ありがとうと、親に感謝を言いたくて、でももう言えないな…と思って目を閉じた。


 ダダダダ!


 と銃声が近づいてくる。


 トラックの荷台には手榴弾を投げ込んでいる。


 死んだ仲間の頭を打ち抜いているようだ。死んだ仲間を粉々にしているようだ。


 ダダダダ!


 ドン!


 ダダダダ!


 ドン!


 そしてぼくの前で相手の兵士が足を止めた。


「おい!来てくれ!」


 仲間を呼ぶ。


 ぼくはテディベアのように座らされる。


 目の前には十何人の兵士がいる。


 そして一番偉そうな奴が、一番弱そうな奴を呼んだ。


「撃て」


 一番弱そうな奴が首を振る。


「…」自分のしたことは自分に返ってくるのだと思った。


 あの時の負傷兵の顔が頭によぎる。


 だから、祈ってはいけないと思った。


 こんなぼくが生きさせてくれと、言ってはいけないと思った。


(死んだらまた甦る)


 そして、仲間の言葉が急に頭に響いた。


 甦る?


 死んだら…


 もしもせいしになることができたらまんにいちのかくりつでよみがえることができるかもしれない。でも、おとこがおんなのなかにだすときってなんかいにいっかいだ?なんびゃっかいにいっかいだ?なんぜんかいにいっかいだ?なんまんかいにいっかいだ?もしもうんよくはいることができてもなんまんにいちのかくりつだ?ぼくはそこまでつよいのか?そこまでしてうまれたいのか?そこまでなんちょうぶんのいちのかくりつを勝ち取るほどの幸運の持ち主か?来世がんばれ。来世は…


 なぁ…そんなに、簡単なことか?


 お前に来世があるのか?ぼくに来世があるのか?


 お前なんかにぼくなんかに来世があるのか?

 

 だからこそ…だからこそもっと…


 この人生を


 楽しむべきだった…。


 一番弱そうな奴が、殴られて涙目で銃口を向ける。


 額に一発で終わらせてくれ。


 そのあとは好きにしてくれて構わない。


 

 ダ…ダダダダ!

 


おとなになるってどういうことだとおもってた?


わからないよ、わからない



でも…こんなことではないとおもってた


こんなことではないと…

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