ぁ死んだ…
おとなになるってどういうことだとおもってた?
わからないよ、わからない
でも…こんなことではないとおもってた
こんなことではないと…
おかねって怖いものだった
おかねをもらったから人を殺さなければいけない
他国の人たちを殺さなければいけない
軍人になるってそういうことなんだけど、そういうことじゃないって思ってた。
そういうことは起きないって思ってた。
どうして戦うんだろう?
そう聞いても当たり前に答えてくれなくて
というよりも戦えって言ってる人はそこにいなくて
ここにこなくて
なんでさっさとせんりょうできていないんだと僕たちの知らないところで激昂して、命令が日に日に過激になって無茶になって、あぁ…この人何も考えてないんだと…こっちの人のこと何も考えてないんだと、眉間のしわが日に日にどんどん深くなって、死んでしまえばいいのに…って思って…
ゲームや映画で見たような服を着て、ゲームで見たような銃を持って、映画で見たような軍のトラックに乗って何キロも走った。走って…走って…止まって…
着いたのかと外に出たら、痩せたおばあちゃんにペットボトルを投げられた。
ぼくは生まれてから人にペットボトルやゴミを投げられたことがなかったから頭が混乱して、手が滑って自分に当たったのかと思って相手を見たら
「こっちにくるな!かえれ!」
と、とんでもない剣幕でそう言うおばあちゃんを見て、ペットボトルはぼくに対して投げたのだと確信に変わった。
それからゴミをいっぱい投げられた。
石をいっぱい投げられた。
もう…先に進みたくなかった。
このまま帰りたかった。
家に帰って泣きながら母親に、「今日こんな嫌なことがあったんだ、こんな思いはもう二度と経験したくない」と言って、泣きながら布団にくるまって眠りについて、何日も引きこもりたかった。
彼らは何かしたのだろうか?
彼らはぼくの国に爆弾でも投げつけたのだろうか?
彼らは超高層ビルに飛行機を突っ込ませて何千人と死なせたのだろうか?
彼らはぼくらの知らないところで人を殺して食べていたのだろうか?
ウィルスを作ってばら撒いたのは彼らなのか?
そうでなくては理解ができない。
住むところを壊され、これからはぼくたちのものですと言われ、怒ったら銃を向けられ大きな声で怒鳴られ、殴られている者もいた。
何万人と列を作り、どこに向かっているのかもわからない列を作り、子供を連れて赤子を連れて、不安でストレスで疲れ果てた人たちを、ある日
殺せ
と言われた。
命令らしい。
上からの、命令らしい。
なんでなのだろうか? 殺せって…殺すってなんだ。
今まで、生きてきた中でぼくは、
ニュースで殺人犯を見るたびに、眉間にしわを寄せ、不愉快な気分になっていた。映画で人が死ぬところを見て、殺した相手をスクリーン越しに睨みつけた。ドラマの中で殺人犯が捕まるのを小躍りしながら見て、漫画で人殺しが死んだときは爽快な気分になった。
人って
殺していいんだっけ?
そう思って周りを見ると、周りも信じられないという顔をした。
それからまた、軍のトラックに乗った。
前にも後ろにも何台もトラックが連なっていて、進んで進んで…
進むにつれてどんどん景色が灰色になっていって、建物が壊されていて、道路の端に人が転がっていて、魂が入っていないような人が転がっていて、転がっていて…それを避けながら走って…
車から降りて作戦を聞いて、無駄に大きな声で返事をして、意味も分からず病院の中へ銃を持って入っていって、「出ていけ!」と大きな声で怒鳴って、看護婦さんに怒鳴って、ご老人に銃を突きつけた。
皆がそうしてるからそうした。その人に何かされたわけではなかった。でも、こっちのほうがいいのかと銃を突きつけた。
涙目で手を挙げるご老人を笑うものも周りにいて、ぼくも一緒に笑った。
奥へ入っていくと小さな子供たちが泣いていた。
ぼくはその子供たちを手で払った。手で払うたびにもっと優しく払うべきだったかと後悔した。
でも…周りもそうやってるし…
さらに奥へ進むとダダダダダダ!と銃声が聞こえた。
銃声を聞いて少し身構えた。そして少し、テンションが上がった…。
その銃声のほうへ走っていくと、相手方の負傷兵が血だらけで死んでいた。
その人は、足が無く、逃げられなかっただけだった。
そこは開けた所だった
周りにはたくさんの負傷兵がいた。
たくさんの負傷兵は誰一人武器を持っていなかった。
皆、一人では立ち上がれない人たちばかりで、皆力なく両手を挙げていた。
仲間を見ると、皆少しおかしなものを見るように笑っていた。見下した人間を見るような目だった。
自分が今、どんな顔をしているのかわからなかった。でもなぜか、皆がなんでその顔になっているのかは理解できた。
ぼくも、周りの皆も、まだ、人に向けて銃を撃ったことがなかった。
一人のやつが震えながら銃口を一人の負傷兵に向けた。
そいつから激しい鼓動や乱れた息遣いを感じた。
銃口を向けられた負傷兵は涙を流して手を合わせて祈り始めた。
ダダダダ!
病室が更に真っ赤になる。
そいつから、ふうふう…ふふ、ふう、ふう、ふふ…という乱れた息遣いとともに薄い笑い声も聞こえてきた。
そいつがさっきの足のない負傷兵も殺したんだなとわかった。
そいつは俺に、なにがあっても人は殺さないと話していたやつだった。
その後、上官たちが入ってきた。そして、ぼくたち新人へ試練を言い渡した。
それが何だったかは言いたくない…。
だけど、ぼくはその日初めて人を殺した。
ゴキブリすら叩いて殺せないぼくが、無抵抗の負傷兵を撃ち殺した。
ダダダダ!という音とともに涙を流していた相手が血を流して死んでいた。
それではダメだもう一回撃て、と言われて死んだ相手をもう一度撃った。
人を殺して思ったことは、怖かったとか後悔がとか震えて、とかじゃなくて
ぁ死んだ…だった。
ゲームで敵を撃ち殺した時と、なんだか似ていた。
自分がやったのではなくて、他の何かがやった。
自分がプレイしているキャラクターがやった。これは現実ではなくてゲームの中の世界だ。だから
だから大丈夫、だから…
その時はそう思って大丈夫だったけれど、帰還して眠るときに現実に突き落とされた。
相手の顔を思い出して嘔吐して、泣いて、ぐちゃぐちゃになった。そこに銃があったら自分で自分を撃ち殺していたと思う。身体が震えて、取り返しのつかないことをした自分に、この時ようやく気が付いた。
お金をもらうことを簡単なことだとは思っていなかった。でも、こんなにも難しいことだとも思っていなかった。これでいくらもらえるんだ?人を殺したんだ、殺させたんだ、一億円もらったっていいだろう!
それでも振り込まれる金は微々たるものだ。というよりも本当にお金をもらえるのかもわからなかった。
ぼくたちは、なんのために、戦い、なんのために、人殺しになるんだ…。
それから何日も過ぎた。




