誰が上で誰が下か
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私は昔からヤンチャだった。
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彼は昔から手の付けられない子供だった。
自分がやりたくない事、少しでも不快に感じられることがあると耳をつんざくような声を出し、暴れまわった。
両親や私達使用人はその様子を困った顔で見て、あきらめの表情に変わり、彼の意のままに従った。
そうして彼は、この声を出せば、この態度を示せば、大人たちが嫌なことを強要しなくなることを学び、不快感を感じるといつもこの声を出すようになった。
私達の間違いはここから始まった。
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彼は幼稚園に入った。
周りの子よりも体格がよく元気だった彼は、いつも目立っていた。
目立っていたが、良い目立ちもあれば、悪い目立ちもあった。
運動会などではトップを輝かしく走っていたが、泣いている子の横にはいつもふてくされた顔で何か言いたそうにこちらを睨みつけている彼がいた。
理由は「おもちゃをくれなかった」とか「すこし押された気がした」などとても些細なことで、それに対しての抵抗が相手を押すなど攻撃的な選択肢しかなかった。
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まわりの大人はぼくをみて、おおきいねとよく言った。
ぼくはどうやらまわりのぼくたちよりも大きいようだ。
おおきい、おおきい、おおきい…だからといってどうということはない。
ある日ほしいおもちゃがあったのでてにとった。
「あ!」
その声とどうじに、ほかのおもちゃであそんでいたやつにぼくのおもちゃはうばわれた。
わけがわからなかったからうばいかえした。
「あ!」
うばいかえしたあとこんどはさっきよりも強くうばわれた。
「んん!」
よくわからないかんじょうがこみあげてきて、うばいさっていくうしろすがたを強くおした。
あいてはたおれ、おおきな声で泣きだした。
「どうしたの?どうしたの?」
大人がはしってむかってくる。
「何があったの?」
大人は泣いているやつにはなしかける。
泣いているやつはこちらをゆびさす。
「なんで押したの?」
大人はみけんにしわをよせ、おこったかおできいてくる。
「わからなぃ…」
とっさにでたことばをそのままいった。
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彼は小学生にあがった。
彼は同級生よりもやはり一回り大きく、やはり目立っていた。
このころになると素行の悪さが目に付くようになり、私達が学校に呼ばれることが増えた。
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小学校にあがると、自分よりも一回り大きな子供におどろいた。
強く押しても転んで泣くこともないんだろうなと思ったし、はんげきされたら負けるということがなんとなくわかった。
自分よりも大きな人には手を出すのはやめようと思った。
ぼくらはクラスというものに分けられ、そのクラスというものの中で一年間行動をともにした。
小学校にあがると、皆の性格というものがわかりやすく出てきて(うるさくて元気なやつ)と(しゃべらなくて元気じゃないやつ)と、かんたんに2つのぶるいに分けられた。
そしてぼくはあきらかに、元気でうるさいやつだった。
ぼくの周りには同じようなやつらがあつまり、それとは逆に静かなやつの周りには静かなやつがあつまった。
それを明るい太陽と、暗い日かげのように感じた。
かれらはぼくらよりも大きな声を出さない。
かれらはこちらに近づいてこない。
ぼくらはクラスにひびきわたる声で話しつづけ、クラスの中をかけ回った。
かれらはそれをよけ、自分たちだけの世界を作った。
なにかと先生にかわいがられるのはぼくらの方で、たまに話しかけられているのはかれらだった。
かれらよりもぼくらの方がえらかった。
〇
小学3年生になったある日、ぼくは彼にケガをさせた。
ぼくらが彼を階段でつき飛ばし、落ちた彼はケガをした。
そのまま病院へ行き、次に彼を見ることはなかった。
彼が学校へ来る前、帰りのホームルーム、先生たち4人、きょうだんの前に立ち「なにがあったの?」「なんでこんなことになった?」と大きな声を上げた。
ぼくらは声を発しなかった。
「…」
休み時間が終わり、教室に戻る前、目の前に階段を下っている彼がいた。
僕らは4人でくすくす笑い、彼の背中を強く押した。
彼はとっさに手に持ってた本でうけみを取ろうとして、そのまま本と一緒に滑り、肩を打ち、足のひざを階段のはしに強くぶつけ、すごい音と共にそのまま階段を転げ落ちた。
持ってた本は折曲がり、ひざを押さえて見たことがないくらい真っ赤な顔でうずくまる彼を見て、ぼくらは下っていた階段を全速力でかけ上がった。
「何か見た者はいない?」
先生たちが怒っているのか、無駄に大きな声で聞いてくる。
「………」
ぁのとき、あの場所には、誰もいなかった。誰にも見られていないはず。まっかなかおでうずくまる彼を、のぞいて。かけあがる最中ぼくは彼と目が合った。でも、いわrてなkれば…なければ…れb…
「………」
先生たちがこっちを見てる気がした。でも見返すとこっちを見てはいなかった。
それから30分間ぼくらの名前が出ることはなく、彼はそのまま学校へ姿を現さなかった。
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彼はクラスで話さなかった。
声を発さず時間をうめるように本を読んでいた。
読んでる本のタイトルを聞くと「なにも!」と言って、いきおいよく本をしまった。その行動を見てぼくは本を力づくでうばい、他の者に本を投げわたした。
あせる彼を見て笑った。こっけいで面白かったから。ふだん見ない彼のしゅんびんな動きに手をたたいて笑った。
それからひまな時は彼をからかった。
ぼくらが近づいてくるのを感じて暗くなる顔、目を魚のように泳がせてどんどんうつむいていく彼を見て、ゆうえつかんを感じた。このクラスで誰がえらく、誰がおとっているのか、目で見てわかりやすく説明してくれてる感じがして、心がおどった。
誰が上で誰が下か。
このことが生きる上で大事なことだと思った。
今まで彼はふつうに生活していた。
彼が本を読むことはふつうだったし、体育で彼が走っていても周りは何も言わなかった。
だが、彼が下だとクラスがにんちしてからは、彼が授業中に先生に指され答えるたびに、他の者が彼をバカにしたような笑みを浮かべながらこちらを見た。体育で彼が走っていると、マネをしてバカにするものまで現れた。
そのたびに自分の周りには人が集まっていって、彼をちょうしょうすると皆も大きく笑った。
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犯人なんて誰もがわかっていた。
彼はありのままを先生に言い、彼の両親は家に怒鳴り込んできた。
彼の両親とあの子の親が別室で話し込んでいる。
彼らはかなり遠くの部屋にいるはずなのに時々怒鳴り声が聞こえてきた。
彼らの両親はその日から何度か家にやってきた。
あの子の足の傷がどうの。あの子の将来がどうの。これからのことがどうの。
全て親の心からにじみ出る思いを、こちらが言葉ではどうすることができない言葉を、彼の両親は目を腫らし、のどをからし、言葉に詰まりながら訴えた。
あの子の両親は彼の両親に治療費やその他諸々を支払った。
彼の両親はこちらから何度も足を運ぶにつれて、少しずつ良くなっていく息子と共に笑みも見せ始め、最終的には和解という形に収まり、彼は転校していった。
あの子の両親はこの事実を(あの子の将来のため)などという誰が聞いてもよくわからない言葉と共に、あの子には知らせなかった。




