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第36.5話 上層部の会談

王都クロスフィリア、魔法師団本部。

 重厚な石造りの会議室に、長机を挟んで幹部たちが並んでいた。壁には王国の紋章と、魔法師団の旗が掲げられ、緊張感の漂う空気が張り詰めている。


 机の中央に置かれた魔導投影機が淡い光を放ち、山中でのエルの報告――「第七枝」の語が浮かび上がった。


「……第七枝、か」

 セレスティア・ヴェイルが低く呟いた。その銀髪が揺れ、鋭い碧眼が映像を射抜く。

「帝国の内部組織であることは明白だ。だが、我々が掴んでいた監視網の情報には、そんな名称は一度も出てきていない」


 隣に座る副団長ゼルネが眉をひそめる。

「つまり、表の師団や軍部とは別に、帝国は“枝”と呼ばれる局内組織を持っている……ということですね」


 リーネが冷静に続ける。

「枝、とはつまり……一本の“幹”から広がる監視網の分岐。帝国全体を網のように覆っているとすれば、どの都市に潜んでいても目を逃れられない可能性がある」


 会議の場にざわめきが走った。

「馬鹿な、そこまでの規模を維持できるはずがない」

「だが事実、ノクターン……エルフィーナは現場でその言葉を聞いた」

「年端もいかぬ子どもの証言を、鵜呑みにするのか?」


 批判めいた声が上がると同時に、セレスティアの瞳が冷たく光った。

「黙りなさい。――彼女は“子ども”ではない」


 その声に、一瞬で空気が凍る。

「彼女は隊長格を討ち、位相鍵を奪い、補給網の再設計を提案し、団長補佐にまで就いた。……“小さな大賢者”という二つ名を、軽んじる気か?」


 幹部たちは押し黙り、互いに視線を交わした。

 セレスティアは静かに言葉を続ける。

「私は彼女の報告を信じる。問題は――“第七枝”が何を目的として動いているのか、だ」


 ゼルネが腕を組み、深く考え込む。

「帝国の魔法師団の枠を超えた“影の組織”……もしそうなら、正面からの戦いではなく、長期的な情報戦になるでしょう」


 リーネも頷く。

「だからこそ、エルの任務は学園での潜入を継続させるべきです。あの年齢と立場なら、自然と目立ち、なおかつ誰もが“子どもらしい偶然”と見なすでしょうから」


 沈黙の後、セレスティアは決断を下した。

「エルフィーナ・ノクターンには、引き続き学園での潜入任務を行わせる。ただし――監視は強化する。彼女の存在が帝国に露見した時、その代償は計り知れない」


 幹部たちは頷き、会議は締めくくられた。

 だが最後に、セレスティアは独り言のように呟く。

「第七枝……名を持つ“枝”が一つなら、他にもあるはず。五か、九か……あるいは十二か。網の目は必ず広がっている」


 その声は、誰よりも深い憂いを帯びていた。

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