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第10.5話 決まらぬ進路

クロスフィリア王都・魔法士団本部。

 団長室の奥にある重厚な会議室では、珍しく全幹部が集められていた。

 大理石の円卓を囲み、硬い空気が張り詰める。

 この場に――当の本人、エルフィーナ・ノクターンの姿はない。


 机の中央には、模擬戦の記録水晶が置かれていた。

 光が走り、戦闘中の映像が宙に映し出される。

 セレスティアとエルの戦い――四属性を駆使して団長を押し返す姿が鮮明に再生されると、誰もが無言のまま息を呑んだ。


「……これが、あの子の“現在”の力よ」

 セレスティア・ヴェイル団長が静かに口を開いた。

 その声は決して大きくないが、場の空気を一気に引き締める力があった。


 最初に沈黙を破ったのは、赤髪の幹部シルバートだった。

「団長、この戦闘記録を見れば明らかだ。あの年齢でこれほどの多属性制御ができる者など、我が国でも数えるほどしかいない。遊ばせておくのは、あまりに惜しい」


「だからと言って――」

 別の幹部マルセラが口を挟む。

「帝国との最前線に出すのは、早計だわ。いくら才能があっても、実戦経験は別物。あの子はまだ十代、経験不足よ」


「では、どうする?」

 シルバートの声に少し苛立ちが滲む。

「訓練だけを続けさせ、いざというとき戦えなければ意味がない。帝国は今も動いている。こちらも戦力を育てねば」


「育てる方法はいくらでもあるわ」

 マルセラは迷わず言い返す。

「例えば、王立魔法学園への編入。学術的な知識も身につけさせれば、将来の選択肢が広がる。戦いだけが人材育成ではない」



 議論が交わされる間、セレスティアは静かに二人を見つめていた。

 その琥珀色の瞳は、ただの感情論を許さない。


「……確かに、両方の意見に一理ある」

 団長の言葉に、場が再び静まり返る。


「帝国の魔法師団との戦いに彼女を投入すれば、即戦力となるだろう。だが同時に――失えば、我々は国の宝を一つ失うことになる」


 セレスティアは視線を円卓の全員に移した。

「しかし、王立魔法学園に通わせるだけでは、彼女の戦闘本能は磨かれにくい。現場の空気も知らぬまま成長させることは、剣を鞘の中で錆びさせるようなものだ」



 幹部の一人、初老のアルフレッドが口を開いた。

「では折衷案として、どうだろう。魔法学園に籍を置きつつ、必要に応じて実戦部隊に召集する。表向きは学生、しかし裏では特別魔法士として動く――二重の立場だ」


 何人かがうなずき、また何人かは顔をしかめた。

「学生に実戦をさせるなど危険すぎる」

「いや、今の彼女なら可能だ」


 意見は再び割れ、机上には賛否が交互に並んだ。



 その中で、セレスティアはゆっくりと手を上げ、場を制した。

「……最終的な決定は私が下す」

 全員の視線が彼女に集中する。


「エルフィーナは確かに稀有な才能だ。だが同時に、まだ形の定まらぬ刃でもある。私は、その刃をどう研ぎ澄ますかを見極めたい」


 少し間を置き、彼女は続けた。

「まずは――彼女の意思を聞くわ。どんな未来を望むのか。強制するのではなく、自らの歩む道を選ばせる。それが、一番の成長に繋がるはず」


 その言葉に、一部の幹部は渋い顔をしたが、反論は出なかった。

 こうして、エルの将来を巡る会議は結論を持たぬまま、次の段階へと進むことになる。

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