第11話 小さな魔法使いは、選択をする
クロスフィリア王都・魔法士団本部。
会議室での長い議論が終わったあと、セレスティア・ヴェイルは一息つくと、傍らに控えていた副官に小声で命じた。
「……エルフィーナ・ノクターンを呼んで。すぐに」
数分後、扉が静かに開き、小柄な銀髪の少女が入ってきた。
彼女は部屋の空気に漂う張り詰めた気配を察し、思わず背筋を伸ばす。
「……あ、あの、呼ばれましたけど」
「座って」
セレスティアの指示に従い、エルは小さな椅子に腰掛けた。
円卓の周囲には、ゼルネやリーネを含む幹部たちの視線が集まっている。
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しばしの沈黙のあと、セレスティアが口を開いた。
「エルフィーナ、最初に会った時の約束を覚えているかしら」
エルは小さくうなずく。
「……“何かある時だけ力を貸す”。それが条件でした」
「そう。君は王国の兵でも、士団の正式な一員でもない。だから無理に縛るつもりはなかった」
セレスティアの声音は穏やかだったが、その奥には重みがあった。
だが彼女は視線を鋭くし、続けた。
「――だが、状況は変わった」
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セレスティアは映像水晶を軽く叩く。
宙に浮かんだ映像は、アンナ救出時の“光の槍”が森を貫く場面。
その威力と異質な魔力の揺らぎが、幹部たちを黙らせる。
「この魔法はヴァルグレイア帝国のものだ。君は偶然にも、それを間近で受けた」
エルはわずかに眉をひそめる。
あの時の衝撃、そして胸をかすめた熱と恐怖が甦った。
「帝国は君を直接狙ったわけではないかもしれない。しかし――君が帝国の動きを知る位置にいた事実は変わらない」
ゼルネが口を挟む。
「君ほどの魔力量と制御力を持つ者は、この国でも極めて稀だ。帝国にとっては、利用価値も脅威も兼ね備えた存在になる」
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セレスティアは言葉を区切り、ゆっくりと二本の指を立てた。
「そこで、君に二つの選択肢を与える」
「一つは――王立魔法学園に入学し、魔法の研究を続ける道だ。安全とは言えないが、直接戦いに関わることは避けられる」
「もう一つは――我々と共に帝国との“影の魔法戦”に参加する道だ。表に出ぬ戦い、情報と魔力のせめぎ合い。危険は増すが、君の力を直接活かせる」
部屋に再び沈黙が落ちる。
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エルは膝の上で拳を握り、俯いた。
心の中で、あの日のことが繰り返される。
アンナが泣きながら助けを求めていた声。
光の槍が空を裂いた瞬間の眩しさ。
ノワールの低い声――「帝国の魔法だ」。
(……またあんなことがあったら、あたしはきっと後悔する)
彼女はゆっくりと顔を上げた。
「……帝国との戦いに、力を貸します」
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幹部たちがざわめき、ゼルネとリーネは目を見合わせた。
セレスティアは微かに口角を上げる。
「理由を聞いてもいいかしら」
「…村のお世話になった人が襲われたんです。放っておけない。それに……あの光の槍を放った相手を、このまま知らないままでいるのは、嫌です」
セレスティアはその瞳をまっすぐ見つめた。
「分かった。ならば君は、我が士団の“特別行動隊員”として登録する。作戦ごとに参加要請を出す形になる」
「はい」
短く答える声に迷いはなかった。
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会議が終わり、部屋を出たエルは深く息を吐いた。
背後から、リーネが軽く肩を叩く。
「無茶するつもりじゃないでしょうね」
「……するかも」
「やっぱり」
二人は小さく笑い合った。
だが、エルの胸中では既に決意が固まっていた。
帝国との影の戦いがどんなものであろうと――彼女はその中に飛び込む。
それが、自分にしかできないことだと信じて。
リーネと別れた後、エルは人気のない中庭の片隅へ歩いていった。
誰の目も届かない場所で、指先の魔法陣をそっと撫でる。
「……聞いてた?」
空気を震わせるように、低く落ち着いた声が響く。
《もちろんだ。我の契約者がどの道を選ぶか、興味があった》
「……やっぱり」
《帝国と戦う道を選んだか。賢明とも無謀とも言えるな》
「放っておけないんだよ。あたし、あの光の槍のこと……忘れられない」
《ならば、我も牙を貸そう。ただし――必要な時だけだ》
ノワールの声は淡々としていたが、その奥にわずかな高揚が混じっているのをエルは感じた。
「約束だよ。……じゃ、また連絡する」
魔法陣が静かに消え、夜風だけが中庭を撫でた。
エルは胸の奥に灯った決意を抱え、足を再び前へと進めた。




