第九十九話 お一人様、ご案内です。
姐御さんが語った『愛の戦士』の英雄譚にみんな大喜び。
確かにめちゃくちゃカッコいい話だった。
囚われの姫を助けに行く勇者様みたいな。
王道だけど憧れるなぁ、そういうの。
まぁ、ちょっと引っかかる部分もあるけど……
「今までの話だけじゃアルトの為だけに強くなるとは限定できない。根拠はある?」
ロロさんは相変わらず鋭い。
言われてみれば、確かにまだアルトさん限定って決める根拠は薄いかも。
「今の話だけじゃそう思うかもな。だけど、問い詰めているとき、明らかにアルトの方を意識してたんだよ、あいつ」
「そうそう、アレを見れば絶対に条件にはアルトが関係しているんだってのはわかるぜ」
「で、そこを問いただされたときの慌てようったら。顔を真っ赤にして必死で否定しやがんの。あれじゃ白状してるみたいなもんだ」
「いいよなぁ、青春だよなぁ! 俺もあんな可愛い幼馴染がほしかったぜ。こんな怖ーい女じゃなくってさ」
ゴンッ!!!
3人目の人、懲りないね。痛そう。
「どうだった、アタイの『金にならない面白い話』は?」
「思った以上に面白かった! なぁ、ナオ!」
「そうですね。まさか与えられしものの話が聞けるとは思いませんでした」
気になることはあるけど、面白い話なのは間違いなかったし、村の人には犠牲が出なかったハッピーエンドなのも僕の好みだ。
文句なし、三ツ星です!
「じゃ、じゃあ教えてくれるんだな!? 例の噂のこと!」
前のめりに食い付いてくる姐御さん。
ランスさんがそっと僕に話しかけてくる。
「説明していいんだよな? ナオっち」
「もともと隠してはいませんし。治癒師の噂と美人の噂、どっちも張本人なので……」
「…… 了解、馬はベトンさんの話、ってことね」
流石ランスさん、今のでちゃんと察してくれる。
ベータ会頭の商売の話は僕が勝手にしていいことじゃないよね。
姐御さんたちも商人、どこでどんな繋がりがあるかわからないもん。
姐御さん達への説明はランスさんたちにお任せして、僕はロロさんとミーナさんと戯れる至福の時間を満喫する。
僕の得意技、まるっと丸投げである。
…… いや、自分で自分のこと説明するのって恥ずかしいよね。
テキザイテキトーでいいじゃないか!
しばらく遊んでいると話が終わったらしいランスさんや姐御さんたちが僕たちのところへやってきた。
姐御さんたちが凄い目で僕をマジマジと見てくる。
よく知ってる視線だ。
「あ、あんたも与えられしものなんだって?」
「このひと月ほどで二人も…… どんな確率だよ……」
「で、こちらのお二人はあのビンス様のお子様だって!? 先に言ってくれよ!」
あ、ランスさんとリンスさんに敬語になってる。
やっぱりビンスさんは王都周辺では尊敬されている有名人なんだな。
凄い人だよなぁ。
「腕が生えるって話も与太話じゃなくて奇跡だったのか…… じゃ、じゃあさ!!」
「話し込むのもいいが、先に食事にしないか? 今日のスープは良い出来だよ」
姐御さんが勢い込んで話を続けようとしたとき、ミリアさんの優しい声がご飯時を告げる。
「やったぁ! ミーナもうお腹ペコペコ!」
「ミリアのスープは絶品。温かいうちに飲まないならロロが全部もらう」
いかん、天使がお腹を空かせていた!
お話はあとにさせていただきます。
と、いうわけで一旦解散。
姐御さんたちは自分たちの野営地に戻り、僕らはミリアさん特製の夕飯を頂く。
「…… で、どう思う。ランス」
穏やかな食事の時間、ミリアさんとランスさんが静かに話し合う。
「嘘はついてないと思うよ。商人らしく損得には敏感そうだが、悪人ではないだろう」
「例の戦士とやらは? 本当に与えられしものだと思うかい」
「少なくともあいつらは本物だと信じてる。話で聞いただけじゃなんとも言えないかな」
「ナオ様はどう思われました? 愛の戦士様のこと」
「素敵なお話だったし、カッコイイ人だなと思いますよ。一度、お会いしてみたいですね」
「ハンナは好きそうよね、ああいうお話。私はもっと誰も傷つかない穏やかで優しいお話が好きだわ」
リンスさんは可愛いものとかファンシーなものが好きだけど、物語の好みまでそんな感じなのか。乙女だなぁ。
好きな可愛いもののカテゴリに僕が含まれているらしいのは納得していないけど。
僕はダンディーでカッコイイ大人の男を目指しているのだ。
…… 何か言いたそうですね? ロロさん。
食後、再び集まってくる姐御さんご一行。
ミーナさんがおねむになってしまったのでミリアさんと共に早々に離脱。
ロロさんは夜間の警戒に出てしまわれたので残されたのは僕とシトリィさん、エルフ3人組。
与えられしものに関わるお話をするときにこのメンツはちょっと怖いな。信仰が暴走したとき止めきれない恐れが……
シトリィさんが頼りです、お願いします!
「噂の治癒師様が此処に居るってことは王都のオフクロは見てもらえねぇ、か」
姐御さんが残念そうにつぶやいた。
「なんか、すいません」
「いや、残念なのは確かだがこればっかりはしょうがねぇ。商機の精霊様は後ろがハゲてるっていうしな!」
ちょっと申し訳ない気がしたが、カラカラと笑い飛ばされた。
…… 後頭部ハゲの精霊ってなに?
「それを言うなら『商売の神様に後ろ髪はない』だろ。勝手にハゲさせんな、バチがあたるぞ」
即座にお連れさんがツッコむ。
似たような言葉、前の世界でもあった気がするからなんとなく意味はわかるけど、流石に雑に覚えすぎでしょ、姐御さん。
「で、それはもういいとしてさ。ナオにお願いすれば、ア、アタイもシトリィやミリアさんみたいに綺麗になれるのかい?」
「あの女神様みたいな人並みになりたいってのは無茶だろ」
「土台が違いすぎる。身の程を知れ」
「あの人とお前じゃ同じ種族かも怪しい」
ペシッ、バキッ! ゴンッ!!!
…… 懲りないなぁ。これが日常なのかな?
「ナオの美の奇跡は回を重ねると少しずつ効果が上がるみたいでさ。一回じゃ、ずっと一緒にいるミリア姉さん並みにってのはちょっと難しいと思うぞ」
「あと、『生命』の余波はホントに凄いわよ。どうも甘く見てる気がするんだけど」
「初めて美の奇跡を授けて頂いたときが一番変化が大きいのも確かですから、驚くほど変わりますよ」
女性陣の実体験に基づく説明を真剣な顔で聞く姐御さん。なんだか可愛いね。
「そんで料金は実際のとこいくらくらいなんだ? オークの素材を捌けばそれなりの金にはなる筈なんだ。それで足りるかな?」
「ふざけんな、あれは皆で山分けする臨時収入っていっただろ」
「貴族相手にするような、与えられしものの奇跡だぞ。俺たち庶民が手を出すもんじゃねぇって」
「…… ま、しゃーねぇよ。商売の神様は後ろ髪がねぇんだ。この機を逃しゃあ、こんな機会は二度とないだろうからな。好きに使わせてやろうぜ」
「お話が面白かったのでそれが代金でいいですよ」
この世界にお金で買える欲しいものってないんだよね、僕。
姐御さんも磨いてみたいし。
「えぇ!? いいのかよ、正直めちゃくちゃ高いのも覚悟してたんだよ!?」
「ナオ様はお金にあんまり興味ないのよね。王都で貴族やお金持ちからはそれなりに取ったのも、あまり安いと皆が押しかけてきて収拾がつかなくなりそうだから私たちで相場決めてただけだし」
「そうそう、金が欲しいんなら王都で平民相手に癒しの奇跡を授けたりしてないって。ナオっちは本人がやりたいかどうかだけなんよ」
「やりたくないときは多分国一つ買えるくらい金積んでもやらねぇぞ、ナオ。運が良かったな」
僕らの話を聞いてなにやら相談を始めた姐御さん一行。
なんかまたちょっと揉めてるみたい。
あれかな、ベータ会頭みたいに『タダより高いものはない』系の価値観かな?
「話はありがたいけど、それじゃあアタイらが得しすぎだ。この道をいけばオークキングの話もいずれは普通に耳に入っただろうからね」
「そこで、シーマがベイガの村までアンタらを案内するってのはどうだ? 愛の戦士には興味あるんだろ? 俺たちゃ顔なじみだからな、紹介してやれるぜ」
「仕入れた商品捌きたいから俺らは行けねぇけどな。シーマは御者も出来るし邪魔にはならねぇはずだ」
お、それはちょっと面白そう。僕以外の与えられしものの人からお話は聞いてみたいし。
「でも、帰りはどうされるんですか? 僕らはオソレの街まで行くんですけど」
「ベイガの村に置いてってくれれば、こいつらが王都で商売を済ませてから拾ってくれるさ。というか、元々アタイらは王都とあの村辺りを行商してるんだぜ」
あ、そうか。
それじゃ取引成立かな、よしよし。
「わかりました。じゃあどうされますか? ここですぐにやってもいいですし、どちらかの馬車の中でもいいですよ」
「こいつら、驚かせてやりたいからここでやってくれ」
なるほど、目の前で変身してお連れのおじさんたちを見返してやりたいってことね。
いいんじゃない。
「バカ、やめろ!!」
「人前は止めておきなさい」
「最初は人のいないところで、落ち着いて授かるのがお勧めですよ」
「な、なんだってんだよ?」
なぜか女性陣が慌てて止めに入った。
「『生命』って奴が心配なのか? 別にすげぇ痛いとかじゃないんだろ? ちょっと気持ち良くなるくらいなんともねぇよ」
…… ほほぅ?
「いいから、大人しく言うこときいとけって。悪いこと言わねぇから」
「ん~、まぁそこまで言うんなら。なら、アンタらの馬車を使わせて貰っていいかい? ずっと気になってたんだ。中も外と同じように高級素材が使われてるのか? 見せてもらいたいもんだね」
はーい、それじゃ一名様ご案内でーす。
◇ ◇ ◇
ナオとシーマの二人が馬車の中に入っていくのを見送る一同。
「あ~あ、やっちまったなぁ、あいつ」
シトリィがぼそりと呟く。
「おい、どういう意味だ、そりゃあ?」
シーマの連れが耳聡くそれを聞きつけ、問いただす。
子どもと色気のねぇ大女とはいえ、男と女を夜の馬車で二人っきりにしたのは早計だったかもしれない。
「あの子が『気持ちいいくらいなんともない』っていったとき、ナオっち楽しそうに笑ってたろ。アレ悪戯を思い付いたときの顔なんだよ」
「多分、全力で気持ちよくさせられるぞ。その分、効果も上がるだろうからどっちかっていうと得したのかも知れないけどな」
姐御の運命や如何に!? その結果はまもなく皆の耳に届く。
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