第百話 赤く染まる
祝・100話
ですが、特に何も起こらない日常で到達してしまいました。
「おはよう、ナオっち」
「おはようございます、ランスさん」
見た目は簡素だけど、最高級の素材だけを贅沢に使った最新型サスペンション馬車で目覚める。
いつの間にか夜間警戒から戻ってきたロロさんが僕の右腕に装備されていた。
自分の意志で戻ってくる外せない装備って呪いの装備みたいだな。
解呪する気はないけど。
「凄い馬車だよな?」
「えぇ、馬車とは思えない寝心地でしたね」
まさか本当に馬車にフワフワの寝台が用意されているとは。
馬車の数の割に乗る人数も荷物も少ない僕らだからこそ実現したらしい。
ドワーフの職人さんたちが揺れが少なくなったことで普通の馬車には乗せにくいものでも乗せられるってことで色々悪乗りもしたらしい。
「初日からナオっち専用馬車に泊まったなんて親父殿が聞いたらどう思うかな?」
悪戯っぽくランスさんが笑う。
そう昨夜はランスさんは僕専用ということになっているこの馬車に泊まったのだ。
1号車にはミリアさんミーナさん母娘、3号車が僕とランスさん、あと呪われた装備。
残りの2号車には……
「嘘だろ!?」「そんなバカな! お前、誰だ!?」
「ここまでなのかよ!?」
お、成功したみたいだな、サプライズ。
ゆうべ、僕の美の奇跡を受けた姐御さんは最初は声を抑え、我慢している様子だったが、僕がその我慢を崩壊させようと調子に乗った結果、最終的には絶叫を上げ、失神するように眠ってしまったのだ。
ちょっと悪いことをしてしまった気がしなくもない。
眠らせたまま、連れのおじさんのところに返そうとしたら、
「今のこの子を意識のないまま男どもに渡すのは危ない」
とリンスさんが強硬に主張したので2号車に一晩泊まっていただいたのだ。
おじさん達は「俺たちを何だと思ってやがるんだ!」とかなんとか怒っていたけど、
「明るくなってからしっかり見せつけて、あいつらを驚かせようぜ」
シトリィさんの意見が面白そうだったので採用した。
女性ばかりの馬車にランスさんが一人というのも問題な気がしたので、僕の馬車で男子会を開催、という流れである。
楽しかった。ランスさんはイケメンな上に話題も豊富なコミュ強者であった。ダンディズムを目指す身としては見習いたいものである。
馬車を出るとミーナさんが元気に飛びついてきたのでモーニングルーティンをこなす。
おはよう、マイスイート。
その後、まだまだ騒がしい姐御さんたちに目をやる。
朝日と注目を浴びて満足げに笑っている姐御さん。
奇跡の力により限界まで磨き上げた肌は、少女のように瑞々しく水を弾かんばかりの張りを持っている。
髪もツンツンに跳ねたクセっ毛はそのままに、見違えるほど艶やかになっている。
クセっ毛がそのままなのはその方が姐御さんには似合っていると思ったからだ。
僕の中で姐御さんのイメージはワイルドなウルフ系美女である。
うむ、カッコいい。
我ながらいい仕事してますねぇ。
「これが、あのシーマ……?」
「奇跡ったって限度ってもんがあるだろうが! 殆ど別人じゃねぇか!!」
「いや、驚いた。本当に。まいったな、こりゃ」
「おはようございます。よく勘違いされるんですけど、僕の美の奇跡はその人の本来の美しさを引き出してるだけなんです。だから、今の姐御さんの姿も本人の資質によるものですよ」
ワイワイと賑やかな姐御さんたちに声を掛けながら近づいていく。
「ぁ……」
それまで誇らしげにおじさんたちに磨きがかかったワイルドビューティーを見せびらかしていた姐御さんが、僕を見て急に大人しくなってしまった。
「おはようございます。お気に召したようでなによりです」
「ぁ、あぁ。うん、ぁりがと……」
なんだ? モジモジして僕と視線を合わせてくれないぞ?
なにか嫌われるようなことしちゃったかな?
「どうした? シーマ」
「なんだよ、顔真っ赤にしやがって気持ち悪ぃな」
「お、おい、まさか昨夜の馬車で何かあったんじゃないだろうな!?」
おじさんたちも異常を感じとったようだ。
「あ、あんな子供相手に何かあるわけないじゃないか! バカ!!」
あ、またあのおじさんが叩かれてる。ホント懲りないなぁ。
ちなみに僕は子供じゃありませんよ、姐御さん。
「ナオはああ見えて15歳だそうだぞ。成人男子だ」
「「「えぇ~!?」」」
ナイスフォロー、シトリィさん。
「じゅ、15……? 成人……!?」
キュウ……
姐御さんがフラリと倒れそうになったところをリンスさんがすかさず支える。
「え、大丈夫ですか? すぐ治します!」
「待つ。ナオが行ったら逆効果。シトリ達に任せる」
慌てて駆け寄ろうとしたところをロロさんに止められてしまった。姐御さん、どうしたんだろ。急に体調不良になっちゃったのかな?
いつでも治しますので無理はしないでね。
色々あったけど、姐御さんを加えた僕ら一行は無事に出発した。
今日の御者はミリアさん、リンスさん、ハンナさんである。
御者が出来る6人のうち、ロロさんは夜間警戒が主なお仕事なので基本的に除外され、残る5人で持ち回りで務めて下さることになっている。いずれは僕もメンバーに加わりたい所存。
スケジュール通りなら明日はミリアさんがフリーになる予定。ミーナさんと3人でお喋りできるのが楽しみだ。
相変わらず姐御さんは僕と目を合わせてくれないがシトリィさんとは話が弾んでいる模様。
「どうなってんだ、この馬車? 全然揺れねぇぞ? 高級な馬車ってのはこんなに違うものなのかい」
「いや、これは最近王都で開発された最新技術ってやつさ。今はまだ数は少ないけど、いずれは全部の馬車がこうなっていくって話だぜ」
「へぇ、それが本当ならありがたい話だけど、どうせ貴族や金持ちだけで独占しやがるんじゃねぇの」
「輸送の効率だの速度だの、なんか難しい話してたぜ。結局みんなに使わせた方が儲かるって結論らしい」
「よくわかんねぇ話だけど、楽になるなら何も文句はねぇな」
しばらくそんな取り留めない雑談が続いた。
ちょっと慣れてきたようで姐御さんも僕と目を合わせてくれるようになってきたころ、ランスさんが切り出した。
「オークキングが出たって村まではどのくらいあるんだ?」
「昨夜の野営地からなら順調に走れば3日ってとこだ」
「ってことは、王都から4日か。…… 近いな」
今回はたまたま愛の戦士さんがいたから被害は出なかったけど、本来は国軍が対応するような災害が4日ほどの距離ってことか。
そう思えば確かに怖いな。
「賊も魔物も滅多に出ない筈なんだよ、この辺り。たまにハグレゴブリンなんかを見かけるくらいでさ。いきなりオークキングが出るとか本当、勘弁してほしいよ」
「確かに魔物の群れが出るような土地じゃないよな、この辺。目的の村まで普通の馬車で3日なら、この馬車でちょっと急げば1日で行けんじゃないか。…… 試してみるか?」
「速いとは思ってたけど、そこまでかい?」
「やめとこう。急ぐわけでもないんだし、そういう検証とかはベトン商会がやるよ、きっと。な、ナオっち」
「そうですね。あの会頭さん、そういう検証は好きそうなイメージです。馬たちに負担かけるのも悪いですから、普通に行きましょう」
「それもそっか。じゃ、このままのんびり行こうか」
それにしても、この馬車、普通の馬車で3日のところ1日で行けそうなくらい速いのか。
…… 赤く染めるか……?
当初の想定では、各章25話ずつの四章構成、全100話の予定だったんですが、
王都を満喫させすぎました。
今章は少し短めにまとめて、そのまま最終章へ進む予定です。
相変わらずの不定期更新になると思いますが、
ラストシーンが書きたくてこの物語を書いている、と言ってもいいくらいなので、必ず最後まで書き上げます。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
最後までお付き合いいただけましたら幸いです。




