第九十八話 愛の戦士
「詳しく! 教えろ!!」
隠すとためにならねぇぞ、と言わんばかりの圧を放ち問い詰めてくる姐御さん。
何で僕らが尋問されてるみたいになってるんだ。
シトリィさんがすっかり怯えているじゃないか。
ミーナさんは…… 平気そう。流石大天使。
僕もちょっとこの迫力は怖いので少し話を逸らそう。
「そういえば、お連れの方は大丈夫なんですか? 何か揉めてらしたみたいですけど」
「あ? あぁ、気にしないでくれ。大したことじゃねぇよ」
そうは言っても、かなり痛そうだったよ、あの拳骨。
「え~、内緒なのぉ? 訳もなく仲間に手を出すような人って信用できないかも」
リンスさんがさらに詰めると、姐御さんが観念したように話し始めた。
「…… 最初の奴はアタイがアンタらに声を掛けようとしたら『貴族に関わるのは危ない』とか腑抜けたこと言いやがったからしばいた」
なるほど。
ん? なんで僕らを見て貴族だと思ったんだろう?
「だけど、アタイもそれは一理あると思って、隣の奴に行けって言ったんだ。アイツは貴族と商売の経験があるからな。そしたら、アンタたちが『美人過ぎて怖い、緊張するから無理』とかふざけたことぬかしやがったからどついた。まったくあれでも≪ピー≫タマついてんのかね? 取っちまった方がいいんじゃないか」
…… なるほど?
自主規制ワード周辺でとっさにミーナさんの耳を抑えた僕、我ながらファインプレー。
「……」
え? 終わり? 最後の人は?
「三人目は?」
あ、興味無さそうにしてたけどちゃんと聞いてたんだロロさん。
「…… 噂の綺麗になる方法を知ったところでアタイには無駄だと抜かした。全力で殴った」
あぁ、それは仕方ないね。
「お姉さん、背が高くてカッコいいのに」
天使も不満顔である。
「ですね。磨けばさらに光る原石と見ました」
姐御さんみたいにワイルドででっかい美人タイプは初めてなので磨いてみたい。
ウズウズしてきやがるぜ!
「貴族かもしれない、と思いつつあの態度で俺っち達に声かけてきたのか?」
ランスさんがちょっと呆れたように言うと、
「アンタらの馬車、派手な装飾はないけど最高級の素材でわざと地味に作った感じなんだよなぁ。だからお忍びの貴族かと思ったんだけど…… エルフが3人と獣人が1人、それ以外に女2人、子供が2人だろ。ちょっと考えたらこんなおかしな組み合わせで貴族が旅してる筈ねぇよな」
人里じゃ滅多に見ないはずのエルフが3人もいる時点で、やっぱり相当目立つみたい。
しかも大多数が女性だし。
「その上、エルフが美男美女なのはともかく、他の連中も美女ばかりときた! 子供たちまで美形なのはどうなってんだ!? お人形さんか天使様かと思ったよ!」
ふむ、なかなかの目利き。これは見どころがある。
…… このくだり、リンスさんのときもやったか。
見る人が見ればわかってしまうものなのだな。
「おーい、シーマ! いい加減にしろよ、迷惑かけんな!」
「うるさいよ、引っ込んでな!」
しばらく話していると、なかなか戻ってこない姐御さんをお連れさんたちが迎えに来た。賑やかな人たちみたいだ。
「ナオっち、どうする? 適当に誤魔化して帰すか?」
「姐御さんの『お金にならない面白い話』は興味ありますし、それを聞いてから決めたいですね。面白かったら全部話して、全力で磨き上げます。面白くなかったら、それなりに」
「了解。じゃ、その方向で話つけてくる」
頼もしい。よろしく、ランスさん。
「アタイらがしばらく王都に帰ってなかったのには理由があるんだ。
ひと月くらい前、この先のアタイらがいつも取引してる村の近くにオークキングが出た」
そして始まる姐御さんのお話。
「な、なんだって!?」
「そんな! 王都ではそんな話はどこからも上がってなかったぞ」
面白い話、衝撃の第一声に大きなざわめきが起こる。
オークキングとはその名の通り、オーク達の王。
キングがいるから群れが大きくなるのか、群れが大きくなったらキングが生まれるのか。詳しいことはわかっていない。
ただ、キングが率いる群れは一匹一匹が普通のオークより強いだけでなく、キングの元、統率された動きで人を襲うため非常に厄介な存在で、普通は国が軍隊を動かして対応するような災害なのだそうだ。
「そりゃそうさ。キングはすぐに討伐されたからな。群れは壊滅、被害はほぼゼロで終わった」
凄い。軍隊なみの戦力が必要なんでしょ? そんなことが出来る強い方たちがたまたま近くにいたのだろうか?
「それをやったのは、たった一人の男。その名も『愛の戦士』さ!」
姐御さん、渾身のドヤ顔。
聞いている皆さんもなんだかワクワクした様子で話の続きを待っている模様。
…… ちょっとダサいと思ってしまったのは僕だけらしい。
愛の戦士。
本名はベイガ。姐御さんが取引している牧場の村に住む鍛冶屋の息子で14歳。
「ハナッタレの頃から知っている、ヘタレでスケベで、しょっちゅう家の手伝いをサボって遊び歩いてる、どこにでもいるぼんくら小僧さ」
ベイガには幼馴染がいた。同い年のその少女の名はアルト。
姐御さんたちの取引相手である牧場の一人娘。
家業の手伝いを進んでするしっかり者。
サボり魔のベイガを弟のように叱りつける様子は村の日常だった。
そんな平和な村の近くである日、オークの群れが目撃された。
しかも、どうやらキングが率いているらしい。
村の大人たちは大慌て。
王都に救援を求めようとするもの、村を捨ててすぐにでも逃げようと叫ぶもの。
そんな混乱の広場に、アルトの父親が駆け込んできた。
「牧場の柵が壊されている! 牛たちも消えた! …… あ、アルトも見当たらない!!」
ゴブリンの嫌う薬草と人の手では壊せない頑丈な柵。
それらが意味を持たない相手。
「オークが近くまで来ている……」
逃げなければ次に襲われるのは自分たちだろう。
アルトはどこへ? 牛を探しに行ってしまったのか? それとも……
「アンタたちも知ってるだろ? オークは人も喰うけど、喰う前に嬲る習性がある最低のクソッタレだってことは」
突然の事態に、村人たちは慌てふためくばかりで誰も動けなかった。
ふと、誰かが気付く。
「おい、ベイガがいない」
「さっきまで、そこで『早く逃げよう!』って大騒ぎしてただろ」
「まさか一人で逃げたのか」
「あいつに一人で逃げる度胸があるもんか。家で毛布にでも包まって震えてるんだろ」
ところが、どこを探しても見つからない。
そして、ベイガの父があることに気づく。
「店に置いてあった売り物の剣がねぇ…… あいつ、まさか……」
重苦しい空気の中、時間だけが過ぎていく。日が落ち、暗い闇が村に訪れた。
「こう暗くなっちゃ、逃げるのも探すのも無理だ。明日、朝一番で王都に知らせを出そう」
ベイガとアルトの両親は、夜が明けるまでただひたすら子供たちの無事を祈り続けた。
翌朝。
まだ薄暗い朝靄のなか。
半裸のベイガが、ボロボロに刃こぼれした剣と、彼の上着を着たアルトと共に村に帰ってきた。
「ベイガ! お前、無茶しやがって!!」
「よくオークの群れの目を盗んで見つからずに連れ出せたな! 大手柄だぞ!!」
歓声のなか、ベイガは薄く笑うばかり。
「違うの。ベイガはこっそり連れ出してくれたんじゃない」
アルトが言う。
「たくさんのオークに見つかって、囲まれて。でも、全部やっつけて…… おっきな一番強そうなオークも倒しちゃった」
さらに大きなどよめきが起こる中、ベイガは一人、気を失うように眠りについていた。
「アタイたちはその時たまたま村に居合わせていて、この騒ぎを最初から最後まで見てたのさ。『愛の戦士』が目覚めるところをね!!」
姐御さん、再びのドヤ顔。
「すげえな、そいつ!」
「かっこいい!」
シトリィさん、ミーナさんは大喜びである。
確かにベイガさんはカッコいい。まさに英雄譚だよね。
「鍛えてもいない村の子が一人でオークキング討伐……? できるものかしら?」
「いや、父なる大樹の加護があったとしても…… 無、理……?」
ちょっと懐疑的な様子のリンスさん。
何故そこで僕を見るのですか、ランスさん。
「まさか、使徒様……」
「与えられしもの、か」
「その通りさ! いや、それしか考えられないだろ? オークキングに一人で勝てるとしたら、神様に強さを願った与えられしものだけだ! ってね。みんなでそう噂したさ」
「俺たちも村の連中と一緒に戦いのあとを見に行ったんだ。本当にもう安全なのか確認しなきゃいけなかったからな。…… オークから獲れる素材も目当てだったけど」
「凄かったぜ。数えきれないオークの死体、その中でもひときわ目立つ、他より二回りは大きな馬鹿でかいオーク。一目でわかったよ、これがキングだって」
村の人たちと一緒になって姐御さん達も、他に被害者がいないか確認して回ったり、素材を回収したりと後片付けに奔走したのだそうだ。
「売れそうな素材は村の連中と山分けした」
「残りは腐ると不味いってんで焼いて処分した。だからもう『金にはならない話』ってわけさ」
おぉ~、なるほど! 姐御さんはお話が上手いな。行商にはトークスキルも必要なのかも。
「で、ある程度落ち着いたら、村の血の気の多い連中が言い出したんだよ。ベイガと手合わせしたい、ってね」
「やっぱ気になるよな。オークキングを倒しちまう戦士の実力」
「今後の村の守りにも関わってくるから、みんなすぐ乗り気になってな。本人だけはめちゃくちゃ嫌がってたけど」
「強さにも色々あるからな。力が強い、すげぇ速い、防御が凄い、とかさ」
「それによって有事にどう動いてもらうかは変わるもんな。俺っちでも手合わせ願うと思うぜ」
ふむふむ。シトリィさんたち有識者の意見は参考になる。言われてみれば納得だ。
「結局、村の若い娘にちやほやされているうちに流れで戦うことになったんだけどさ」
そこで言葉を切って、タメを作る姐御さん。
「どのくらい強かったの?」
ミーナさんがおめめキラキラで続きを促す。
「あっさり負けた」
「「「「えぇ~!?」」」」
え、負けたの!? なんで!?
「木剣で叩かれて泣きべそかいてる様子はみんなが知ってるベイガだった」
「じゃあなんでオークキングに勝てたんだよ、そいつ」
「アルトって証人がいるんだ、討伐したのは間違いない。だけど、今は弱い」
「…… 何か条件がある」
ロロさんが呟く。
確かにその可能性は充分ある。
「それだ。みんなもそう思ったから問い詰めた。だけど絶対に吐きやがらねぇ」
「本人もわかってない、とか?」
リンスさんがそう予想する。
条件がわからない。
任意では発動しない。
どっちもあの方ならやりそうである。
「いや、分かってるけど隠してる。そんな感じだった」
「わっかんねぇ。なんで隠すんだよ」
「利用されるのを恐れて、とか? んー、でも自分たちの村の安全に関わることだしなぁ」
僕らが思い思いに想像して話し合っている姿を姐御さんたちがニヤニヤ見守っている。
…… どうやら正解はまだ遠いようだ。
「ハイ! 誰かを助けに行くときだけ強くなれる!」
ミーナさんが閃いたとばかりに声をあげる。
「惜しい! 半分くらい正解だよ、天使ちゃん」
む! 姐御さん、やりますね……
「それだと別に隠す必要ないもんな」
「確かに。そもそもなんで隠すのかがわからないよね」
条件に隠したくなる理由がある?
「ハイハイハイ! アルトさんを助けたいときだけ強くなる!!」
「正解! 最初に言った名前を思い出してくれればもっと早くわかったかもね」
『愛の戦士』
…… な、なるほど?
「なるほど! カッコいいな、そいつ」
「どんな望みでも叶うと言われる奇跡を、愛する人を護るために…… まさに愛の戦士と呼ぶにふさわしい方ですね」
ついに明かされた条件に女性陣は大盛り上がりである。
「あ、あの。本人がそう言ったんですか?」
「いや、本人は照れまくって絶対に認めなかった。けど、状況から考えればそれしかないだろ」
そっとミリアさんの方を見ると、僕と同じ顔をしているミリアさんと目が合った。
……
……
それ、本当ぉ?
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